14話 王都での出会い
勇者の生誕祭。年に一度、勇者エイクの誕生を祝う祭りが行われているとシスカに聞かされた
前世の自分の誕生日なんてすっかり忘れていた。村にいた時王都でお祭りが開かれてるとかいうのは何度か耳にしたことあるが、まさか自分の誕生を祝うお祭りだったなんて・・・
この祭りは魔王が倒された年から毎年行われている伝統的な行事で、始めは勇者に祈りを捧げるささやかなものだったらしいが、年月を重ねるごとに今の形態のお祭りへと変わっていったそうだ
城門を潜り抜け、街を見渡すと想像していた以上の光景が私を待っていた
私(前世)の顔が入れられたお菓子に洋服、装備していた聖剣と聖防具を子供向けにした勇者セットなるもの
その他にも私を主役とした演劇や縁のある地が観光スポットになっていたりと、知れば知るほど恥ずかしさで悶たくなった
そんな私の気持ちとは裏腹にフレイヤは目を輝かせていた
「あれも、あぁあっちも・・・ご主人様!ここは天国のような場所ですね!」
「ハハッ、ソウダネー」
恥ずかしすぎる・・・流石にここまでやられると嬉しさより羞恥心の方が勝ってしまい、同時に自分だけこれだけ祝われて先代の勇者達に申し訳なく思う
祭りは今日から3日間行われるそうだからそれまでこれに耐えなくちゃいけないのか・・・
馬車はやがて街の中心にある噴水広場までやっくる
ここの噴水の上段部分には歴代勇者の石像が建てられていて、最上段には私と思われる石像も新たに建てられていた
昔からあるこの噴水にいつか私の石像も建てられるのかと考えた事はあったが、こうやって自分の石像を見る日がやってくるなんてな
「あっ!あれが私のお家だよー」
噴水広場を抜けた先にシスカの屋敷が見えてきた
流石侯爵なだけあってこちらの家もレジティアの家に負けない大きさだ
頻繁に利用するわけでもないのにこの大きさ。貴族の面倒なところだが体裁を保つという意味もあるのだろう
屋敷に到着し、扉が開かれるとそこには侍女達がズラッと並んでシスカを待ち構えていた
「シスカお嬢様お待ちしておりました。長旅でお疲れでしょう、どうぞごゆっくりお休み下さい」
「ありがとう。この方達のお部屋も用意してくれる?」
「かしこまりました」
私達は用意された部屋へと案内され、その日は旅の疲れを癒し生誕祭には明日から参加する事になった
夜にはこの国の一流シェフが作ったフルコース料理を堪能し、お風呂に行くとジェットバスに電気風呂、岩盤浴と様々な種類を堪能させてもらった
お風呂上がりには侍女の方達にマッサージまでやってもらったりと至れり尽くせりで、仕事でやってきたのを忘れてしまう程堪能した
そして勇者エイクの誕生日当日、ハワードさんから買い物にと渡されたお金を預かり私達はシスカと共に街へ出た
自分の顔の形したお菓子を食べながら色々な出し物を見て回ってお祭りを楽しんだ
中でもフレイヤは一段とテンションが高く、私のグッズを沢山購入してご満悦な顔を浮かべている
「次はあっちに行ってみようよ!」
「ご主人様!あのお店が気になります!」
シスカとフレイヤ両方から手を引かれあちらこちらへと連れて行かれる
妹がいたらこんな感じだったのかな、と考えていると突然どこからか悲鳴が聞こえてきた
声がした先を見ると男に担がれて連れ去られようとしている少女を発見した
この人混みに乗じて誘拐しようとしているのか。仮にも私の誕生日に悪さしようなんていい度胸だな
「フィオナ!フレイヤ!シスカをお願い」
「分かりましたご主人様」
「気をつけてくださいね!」
2人にシスカの護衛を任せて私は誘拐された少女を助けに向かう
しかし人混みのせいで中々前に進めない。これでは距離を詰めることができないので屋根に飛び移って上から追いかける
誘拐犯は少女を馬車に無理矢理押し込んでいた。このまま王都から抜け出そうと考えているようだ
ここからの距離だとこのまま走っていても馬車に追いつけないと判断し、身体強化魔法を自身の体に施して一気に馬車の前方付近まで移動する
「なんだあいつは!」
「構わねぇ!轢いてそのまま進め!」
剣の鞘に手をかけ目の前の馬車のみに狙いを定め、居合でバラバラに切り刻む
一瞬の出来事でなにが起きたのか分からない誘拐犯達は受け身を取れず転がり落ちる
こちらに飛んできた少女をしっかり抱きかかえて声をかける
「大丈夫?怪我はない?」
「え、えぇ大丈夫よ。ありがとう」
少女の無事を確認するとすぐさま後ろに下がらせ、起き上がってきた誘拐犯達に目を向ける
「いっつつ・・・てめぇよくもやってくれたな。おめぇら!やっちまえ!」
攻撃を仕掛けてきた相手はたったの3人。さっきの私の動きを見れば力の差は歴然だと分かる筈だが、無謀にも突っ込んでくる
3人同時にそれぞれ別の箇所を狙ってくるが、その程度の剣速では掠ることさえ出来ない
相手の数段上回る速さで剣の一番脆い所を狙ってへし折っていき、無防備になった敵を次々と気絶させていく
「くそっ!役立たずが!」
あっという間に部下3人が沈められたのを見て主犯の男が剣を抜いて立ち向かってくる
ミスリルの剣か。中々いい剣を使っているようだが・・・どれほどいい剣を使おうともその使い手の実力が伴っていないと何の意味もない
先程と同じ様にしてミスリルの剣を真っ二つに折ると男は戦意を失い抵抗を諦めた
騒動が片付いたタイミングで騒ぎを聞きつけた王都の兵士達がやってきたので事情を話して誘拐犯達を預け、私はシスカの警護を任せていたフィオナとフレイヤと合流した
「エレナさーん大丈夫でしたか?」
「うん、兵士の人に身柄も預けたからあとはこの子を・・・ってあれ?」
後ろに目を向けると、つい先程までいたはずの少女がいつの間にか消えていた
家まで送ってあげようと思っていたんだが・・・
「解決したなら早く行こう!まだ行ってないお店がたくさんあるんだから」
「はいはい。慌てなくてもまだ時間はあるから」
シスカに手を引かれ促されたので、気になりつつもその場を去ってお祭りへと戻った
エレナに助けられた少女はあの後こっそり抜け出して人気のない路地にいた
汚れた服の事など気にすることもなく行き先を考えずぶらぶら歩いていると、少女の背後に女性が現れた
「セフィリア様。見つけましたよ」
「げっ!ユリウス!」
見つかってしまったセフィリアはすぐさま逃走を図ろうとするも腕を掴まれて失敗に終わる
「また抜け出してこんな所に。貴女はこの国の王女なのですからもう少し自覚をもってください」
「もうそのお説教は飽きたわよ。ほら、連れて帰るんでしょ。行くわよ」
そう言ってセフィリアはユリウスと共に王城がある方へと帰っていった
帰りの道中、セフィリアはエレナに助けられた時の事を思い返して頬を赤らめる
(兵士が来たから思わず逃げちゃったけど、その前にあの方の名前を聞いておけばよかった・・・恰好良かったなぁ。またお会いできないかしら)
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