138話 舞い降りるチャンス
販売初日、無事完売することができた私達は軽やな足取りで帰宅。皆が帰ってきたところで結果を伝えようと全員揃うまで報告を伏せたが、どうやら街で既に話題になっているようで全員が結果を知っていた
その日の夜は皆でささやかな祝賀会を開いて大いに盛り上がった
そして翌週、私達は再び販売を行った
前回すぐ売り切れてしまった事から枚数を増やし、この日は思い切って200枚を用意。前回と同じ曲で100枚、ソウカさんの持ち歌を新たに刻印石に記憶させてそれを100枚作った。この前の販売ペースであればこれ位は容易に捌けるだろう
街で話題になっていると聞いていたから本当はもっと数を増やそうかとも考えたが、1日に作れる数には限りがあるしここで調子に乗って躓いては前回の成功が水の泡になってしまうからな。前ソウカさんにも言ったが地に足をつけて地道に取り組んでいこうということにした
そして前回と同じスペースで持ってきた刻印石を並べて準備をしていると、まだお店がオープンしていないにも関わらず既にお店の前にはお客さんが並び始めていた
開店前から待機列が出来るとは思わなかった私達は急いで開店の準備を進め、予定時刻より早めにお店を開けることにした
積まれた商品は瞬く間に消えていき、今回も1時間に満たない時間で完売。値段を定価に戻したにも関わらずにだ
列に並んでいたのに完売して買えない人まで現れる始末。私達が思っている以上に人気が上がっていた
「これは相当な枚数を用意しないといけなさそうですね。また頑張って作らないとですね」
「あ、ありがとうございます」
それからというもの、毎週刻印石を作っては売って作っては売ってを繰り返していき、ソウカさんの知名度を上げていった。レジティアの街にソウカさんの曲はどんどん浸透していき、遂には話を聞いた近隣に住む町村の者達まで買いに来るようになった
売上もどんどん伸びていき出店費と私が貰っている制作費を除いてもそれなりの金額となり、ついこの間まで一文無しに近かったソウカさんの懐はかなり潤った
「いやぁあっという間に人気になっちゃいましたねぇ」
「発想の勝利だね」
「でも安心してちゃダメだよ。まだ人前で歌えるようになったわけじゃないんだからさ」
そう、販売の方は上手くいっているがそっちの方がまだクリアできていない
私達と生活を共にし、更に接客や販売の効果もあってか徐々にではあるが以前より弾けるようなり前進はしている
それでも本来の半分の力も出せていないのでまだ大勢の前で演奏するには特訓が必要だ
そんな日々が過ぎ季節が夏に迫ろうとしていたある日、いつものように家帰ってくると玄関の前に見覚えのある馬車がやって来ていた
馬車に乗っていたのはいつしかフォルロー侯爵にシスカの護衛を依頼された際に面識があったハワードさんだった
ハワードさんは以前やって来た時と同じ様に侯爵が呼んでいるということで迎えに来たらしい
けど今回侯爵が用事があるのは私ではなくソウカさんとのこと。けど侯爵の屋敷にソウカさん1人で行かせるのは流石に酷なので私が付き添う形で馬車に乗り、侯爵の屋敷へと向かった
屋敷に到着し侯爵がいる部屋へと案内されている間、ソウカさんは終始ソワソワしていた。やはりこういう場は慣れないようだ
「さ、最初に王様のお城に入ったのでその時と比べたらいくらかはマシですが・・・それでもやっぱり緊張しますね。そ、それにしても私なんかを領主様が呼ぶなんて一体なんでしょうか・・・・あっ!まっ、まさかこの前お店の方で騒ぎがあったからやめろとか言われるんじゃ」
「確かに列で待ってる人同士でちょっといざこざが起きた日はあったけどすぐ止めたしその後列を管理する為にフレイヤ達が助けてくれたからわざわざ呼び出ししてまでそんな事言って来ないと思いますよ」
領主はそんな厳格なタイプではないからと緊張を解そうとするも、ソウカさんは呼び出しされた事について何かやらかしてしまったのではないかという考えが頭を巡っているようでそれどころではない様子。恐らくだが呼び出された理由は逆じゃないだろうか
部屋に到着するとハワードさんがノックし私達を中へと誘導する
緊張しているソウカさんの代わりに私が先に挨拶を交わす
「ご無沙汰しております侯爵」
「やぁエレナ君、年の瀬に王都で会った以来だな。そうそう今年は娘と勇者生誕祭に行けたんだよ。それで初日にシスカがだな・・・・」
挨拶を皮切りに侯爵はこの前の生誕祭の話をし出した。会うことは無かったけど今年は親子で行けたんだな
それから侯爵はシスカと生誕祭に行った思い出を私達に事細かく教えてきた。ソウカさんを呼んだ目的を忘れてるんじゃないだろうか・・・・
思い出話が30分を過ぎようとした頃、見かねたハワードさんが侯爵を止めてくれた
「旦那様、そろそろ本日の用件をお2人にお伝えした方が宜しいかと」
「おっと、あぁそうだったなすまない。えっとそちらのお嬢さんがソウカさんで間違いないかな?」
「は、はいそうです・・・」
「君の曲は私も聴かせてもらったよ。色んな吟遊詩人の歌は聴いてきたが君の歌はとても耳に残る。シスカなんて毎日君の曲を聴いていてる位とても気に入っているんだ」
「そ、そんな・・・光栄でございます」
「それで今日君を呼んだのはお願いがあってね」
そう言うと侯爵は一拍置いてからソウカさんに今回屋敷に呼んだ用件を告げた
「今度この街で君に単独のコンサートをやってもらいたいんだ」
「・・・・・へっ?」
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