137話 大成功
翌日、ソウカさんの曲を刻印石に記憶させた物を持って私達は街の中心付近へとやって来た
商会で販売許可を申請する際に希望を出せば販売する場所を指定することも出来るので、なるべく人通りが多くたくさんの人に聴いてもらえる中心地辺りを選んだ
現場には既に商会の方で用意してくれたスペースが出来上がっている。こじんまりとしているが今回使う分には十分な広さだ
開店に向けて持ってきた商品を並べていく
商品を並べ終えたらお店の前に看板を設置。今日の為に皆で制作したものでまだあまり知られていない刻印石の使い方を書いて真ん中にはソウカさんがリュートを持ち歌っている姿を描いた
これならどんなお店か看板を見れば分かってくれる。イラストは皆で描き1番いいのを採用する事になり私も勿論描いて傑作を完成させて皆に見せたのだが、当然の如く却下されてイラストはシエルのものが採用された。自信があったのになぁ・・・・
「はわわわ・・・・なんだか緊張してきました」
「大丈夫ですよ。ソウカさんの曲を聴いてくれればきっと気に入ってくれますって・・・・そんな事よりその被り物はなんですか?」
ソウカさんが準備を済ませて隣にやって来ると、顔を隠すように着ぐるみが被っている被り物を被っていた
ここに来る間、刻印石の他に袋を持ってきていて何なのかと思っていたがそんな物を持ってきていたとは・・・
「こ、これを被ってると視界が狭くなるんです。そうするとなんだか家の屋根裏にいた感覚になって落ち着いてくるんですよね」
「そ、そうですか」
確かにいつもよりスラスラと喋っていて聞き取りやすい。接客をするならこちらの方がいいのかもしれないが変な人に思われそうだな・・・・
それはそうともうすぐお店を開く時間だ。果たしてお客さんは来てくれるだろうか
昨日思い立って即行動したから宣伝も碌にできていないからなぁ
商品の値段は今回採算度外視で販売する。何分初めての試み故にどれくらいお客さんが食いついてくるか検討もつかないからだ
買ってくれなかったとしても物珍しさで話題となって人づてに話を聞いた人達が気になり買ってくれたら儲けもの
まぁ流石にそこまで都合よくはいかないだろうけどな
「じゃあそろそろ始めますよ。準備はいいですか?」
「は、はい!」
ソウカさんの声と共にお店をオープン。出来ることなら呼び込みとかするべきなんだろうが私が呼び込みしている間ソウカさんが1人になってしまい、そうするとお客さんへの対応が不安なので一緒にいることにした。なので今回は実演販売という名目でソウカさんの曲を流す方法でお客さんを呼び込んでいく
お店をオープンして数十分が経過、未だにお客さんはやって来ない。まぁ開店早々やってくるとは思ってはいない
けどソウカさんの方が不安そうにしているのでそろそろお客さんが来てほしいな。その思いが届いたのか1人女性が私達の元に近寄ってきた。女性は看板を眺め刻印石の使い方を見てから刻印石を持ちこちらに声をかけてくる
「あの、さっきお店の前を通ったら聴こえてきたんですけどこれ聴いてみていいですか?」
「はい、どうぞ聴いていって下さい」
どうやら曲で呼び込む作戦が上手くいったようだ。女性は刻印石に魔力を込めてソウカさんの曲を耳を澄まして聴き始めた
その様子を緊張した様子で見守るソウカさん。被り物をしていても何となくどんな表情をしているか窺える
暫く聴き入っていた女性は曲が終わるとこちらを向き質問してきた
「この曲を歌われている方は貴女ですか?」
「あぁいえ、私じゃなくてこちらの方が歌っているですよ」
作曲者を知りたがっている女性にこちらだと伝えソウカさんの背中を押すとビクッと肩を震わせる
女性はソウカさんの方へと近寄ると手を取り握手をしながら興奮気味に答えた
「凄くいい曲でした!私こんな素敵な曲初めて聴きました・・・・1枚買わせてもらいますね!」
「あ、ありがとうございます・・・・」
「今度生の演奏を聴かせて下さいね。楽しみにしてます!」
そう言って女性はお金を置き笑顔で去っていった
中々お客さんが来ず少し焦ったが、なんとか記念すべき1枚目が売ることができた
1人目が感じのいいお客さんで良かった。この調子で完売目指して頑張ろう
「良かったですね。あんなに喜んでくれて」
「わ、私の曲を買ってくれたんですよね・・・・?」
「そうですよ。ソウカさんの歌を気に入って買ってくれたんですよ」
まだ自分の曲が売れた実感がない感じのソウカさんだったが、時間が経つにつれて実感が湧いてきたようで被り物越しからでも分かるような浮かれっぷりを見せてくれた
そんな嬉しそうなソウカさんを眺めているといつの間にか次のお客さんがやって来ていたので浮かれているソウカさんを制止してお客さんの対応をする
「ここを通りかかったら綺麗な歌声が聴こえてきてね。俺も聴いてみていいかい?」
「勿論です。どうぞ聴いていって下さい」
「あの、私もいいですか?」
2人目が来たと思ったらその後ろにすぐ3人目のお客さんも見に来てくれていた
そしてその流れは徐々に増していって1人また1人とどんどん増えていき、いつの間にかお店には列ができ始めていた
最初の無人の時間が嘘の様に忙しい時間となった。用意していた50枚という枚数は1時間にも満たない時間で完売となり、結果大成功に終わった
新しい試みで街の人達に気に入ってもらえるか不安であったが完売する事が出来て良かった
今回は大した売上は見込めないだろう。けどいい宣伝にもなっただろうしこれだけ好評なら当初決めていた価格に戻して販売しても問題なく売れるだろう
「いやぁあっという間でしたねぇ。皆にいい報告ができますね。ソウカさんどうでしたか?完売ですよ完売」
「こ、こんな事生まれて初めてで今も手が震えています。自分の曲を良いと言ってくれる方があんなに沢山いるなんて。うぅ・・・」
喋っている途中で感極まり泣き始めてしまうソウカさん。恐らく人生で初めてであろう成功体験、喜びもひとしおだろう
でもここはあくまで通過点。最終的には皆の前で演奏が出来るようにならなくてはならないのでこれに驕ることなく練習に励んでいかなくては
「そうですよね、でもここがゴールじゃないですよ。まだ始まったばかりですしこの調子でコツコツ頑張っていきましょう」
「は、はい!」
「あと次回からその被り物はなしでお願いしますね。変な目で見てる人もいたので」
「え、あっ、は、はい・・・・」
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