136話 新たな試み
あれからソウカさんが人前で演奏が出来るよう協力してきたが、中々進展は見られなかった
どうしたものかと困り果て皆で作戦会議を開くこととなった
「さて、一体どうすればソウカちゃんは演奏出来るようになるかなぁ」
「しゅ、しゅみません~・・・・。人の目を見るとど、どうしても萎縮してしまって・・・・」
私達ともまともに目を合わせて話す事が出来るようになったも暮らし始めて結構経った後だしなぁ。それまでは目を泳がせてたし
ここに来て少し経った頃にどうして人前に立つと緊張してまうのか聞いてみたが、ソウカさんが住んでいた場所は辺境にある人口も20人いるかいないかの小さな村で周りの殆どが歳の離れた大人。ソウカさんと歳の近い人はいなかったそうだ
その為元から引っ込み思案だったソウカさんは遊び相手もいない事で家に居ることが多く、気づけば家族以外とまともに話す事が出来なくなっていて今のような感じになったという
吟遊詩人になったきっかけはこのままではまずいと感じ、何とかして変わろうと考えていたところに旅の休憩がてら村に寄った吟遊詩人が披露してくれた歌に感動し、歌なら話す事が苦手な私でも相手に想いを伝えられると考え吟遊詩人を目指す事を決めたらしい
貯めていたお小遣いを全部使って隣町でリュートを購入して完全独学で自宅の屋根裏でずっと練習していた
そして自分が納得いく腕前になった去年から吟遊詩人として活動を始めたはいいものの、練習をしていた間も家から出る事はなかったので人見知りが更に悪化。気づけば人前で演奏が出来ないという元も子もない結果に
今まで他人に聴いてもらった・・・というより聴かれたのはコンサートに誘われた人と私の2人のみ
一体どうすれば人前で演奏出来るようになるのかと考え込んでいると、ラミアスが周りの沈黙を破った
「じゃあいっそのこと姿を隠しながら演奏すればいいんじゃないか?」
「いや、それじゃあ怪しすぎると思いますよ」
「姿を見せずに・・・・そうだ、あれが使えるかも」
ラミアスの何気ない言葉で私はある物を思い出し、自分の部屋に行きソウカさんの前に持ってきた物を置いて見せた
「これを試しに使ってみましょうか」
「こ、これは・・・?」
ソウカさんに見せたのは薄く丸い形をした石
これは刻印石といって最近帝国から流れてきた物で円盤型の石に刻印を掘り、刻印に魔力を流し込むとその刻印に込められた効果を発動することができる代物だ
防腐効果や持ち歩ける照明等その他にも刻印が刻めば様々な使い方が出来る
一般的に売られているものは既に刻印がされていて用途が限られてしまっているが、私が持っているものは買った刻印石を真似て自分で作った物なのでまだ刻印がされていない
これに音声を記憶する刻印を刻み、ソウカさんの演奏を記憶させて販売してみようという考えを思いついた
5分10分程度のものなら普通の人の魔力容量でも十分事足りる
いつ人前で弾けるか分からないのであればまずは目下の目標である資金集めから。これであれば人前で弾く必要もないし好評なら多少なりとも自信に繋がってくれる・・・はずだ
使い方をソウカさんに説明し私達は家を暫く空ける事を伝えた
「じゃあ私達は街に買い出しにでも行きますから。戻ってきたら確認の為に聴かせてもらいますね」
「わ、分かりました・・・!」
ソウカさんにそう伝え、私達は家を出て小一時間程買い物にへと出かけた
ついでに商会の方へと行き販売許可の申請も出しておいて準備を済ませておく
そうして家に帰りソウカさんに声をかけると作業は済んでいたようなので皆で聴かせてもらうことに
「じゃあいくよ」
「どんな風になってるか楽しみだなぁ」
「そ、そそそんな期待されると緊張しちゃいますぅ・・・・」
緊張しているソウカさんを横に刻印石に魔力を込めソウカさんの曲を流す。始めに優しいリュートの音色が奏でられその後に透き通った綺麗な声が聴こえてくる
これはソウカさんと初めて会った時に聴いた曲だ。あの時に聴かせて貰って以来だが、やはり腕前だけならコンサートに出演していた人達に全く引けを取らない
他の皆も表情から虜になっているのが見てとれる
曲が終わり余韻に浸っているとソウカさんが恐る恐る聞いてきた
「あ、あのどうだったでしょうか・・・?」
「いいですね完璧です。ねっ皆」
「えぇ、本当に凄くいい曲でした!」
「まさかここまでとは思っていなかったから驚いたぞ」
皆がそれぞれ絶賛するとソウカさんは褒められる耐性がないのか真っ赤になった顔を必死に手で覆い隠し体をクネクネとよく分からない動きをしていた
うん、皆の反応も上々だしこれなら販売してもきっと売れるだろう
記憶を終えた刻印石を預かりあとはこれを複製していく。初日はとりあえず50枚程度作って様子見
今回はソウカさんに自信をつけてもらいたいというのもあるので、数が少なくてもいいから完売したという成功経験を実感してもらいたい
「明日早速これを売りに行くのでソウカさんも一緒に来て下さいね」
「これならきっと喜んでくれるよ。頑張ってね」
「は、はい・・・・!が、がが頑張ります・・・・!」
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