131話 未遂する吟遊詩人
生誕祭初日を終えた私達は夕食を済ませ王城にある大浴場で皆一緒にお風呂に入った
今は私1人だけ部屋に戻ってきてテラスで火照った体を冷ましている
他の皆はまだお風呂で戯れている。今日1日歩き回ったというのにまだあれだけ動けるなんて。きっと戻ってきてベッドに入ったらすぐに寝てしまうだろう
夜風に当たりながらお酒をちびちびと飲んでいると、どこからか綺麗な音色が風に乗って聴こえてきた
「綺麗な音だなぁ・・・・城の外で誰か演奏しているのかな?」
庭を見渡した感じそれらしい人物はいない。一般の人がこの辺りで立ち入れる事を許されているのは王城を現物する事ができる広場位か
私はふと日中の出来事を思い出し、好奇心もあったので微かに聴こえてくる音色を頼りに音の発生源となる場所へ皆には伝えず1人でこっそり行ってみることにした
門番の人に一声かけすぐ戻ること伝え広場に行ってみると予想していた通り先程の音に近づいてきた
広場に到着するとそこにはリュートを奏でている女性がいた。部屋にいた時はリュートの音しか聴こえてこなかったが、天女のような透き通った声がここからは聴こえてきた。聴いてると心が洗われていくような安らかな気持ちになっていく歌声でいつまでも聴いていたいと思わせるような声
私の想いとは裏腹に歌は終わってしまった。歌い終えた女性は髪をなびかせながらゆっくりと空を見上げる
そこで気づいたがその女性は日中ぶつかってしまったあの女性だった。あんな綺麗な声で歌う人だったのかと初対面とのギャップに驚いていると、彼女の目にはいつの間にか大粒の涙が溢れていてとても悲しそうな顔していた
そしてリュートを入れていた鞄の方に何やら漁り始めた。鞄から出てきたのは丈夫そうな長い1本のロープ
こんな場所でロープなんて取り出して何をするのかと様子を窺っていると、近くにあった木にそのロープを括りつけて途中で解けないかしっかりと確認すると今度は輪っかを作り始めた
彼女が何をしようとしているのか気づいた私が彼女の元に駆けつける頃には既に輪っかに首を通そうとしていた
「ちょちょちょ!!何やってるんですか!」
「ぴっっ!!」
私が大声を上げると彼女は変な声を出して肩をビクッと震わせて動きを止めた。その隙に落ちないよう彼女の脚を両手で固定し、ガッチリと掴んだロープから無理矢理引き剥がしてなんとか地面に着かせた
死に損なった彼女はその場で暫く涙を見せていた。その姿はつい先程素晴らしい演奏を見せてくれた人物とは到底思えないものだった
一通り気の済むまで泣くと彼女な涙を吹いてこちらに向き直り喋りかけてきた
「あっ、あああああなたは先程の・・・ど、どうして止めたんですか」
「そりゃあんなところ目撃したら止めますよ。これも何かの縁ですし私で良かったら話を聞かせてくれませんか?」
「う、うぅ・・・・」
それから彼女は言い出しづらそうにしていたがポツリポツリと話し始めてくれた。日中会った時は周りの音や声に掻き消されて何を言っているか全く聞き取れなかったが、人気のないこの場所なら聞き取れる事ができた。それでもかろうじでだが・・・・
数ヶ月前彼女は1人人気のない場所で歌の練習をしていたところ、とある男性に声をかけられたそうだ。その男性というのは明日開催されるコンサートに出演してくれる人材を探していたようで、たまたま通りがかったところで彼女の歌を聴いてその時彼女に直接招待状を渡したらしい
そして今日そのコンサートの予行練習があったようだが、そこで彼女はまともに演奏することができなかったらしくそのあまりの酷さに出演させることはできないと本番を前に降ろされてしまったそうだ
彼女にとっては一世一代の大決心でここまでやってきたみたいだけど散々な結果となってしまい、その現実に嫌気が差して自暴自棄になってしまいあの様な奇行に走ってしまったという
話しているうちに段々と落ち着きを取り戻した彼女は淡々と私に打ち明けてくれた
「なるほどそれは残念でしたね・・・・事情を全て知らない私が言うのは間違ってるかもしれないですけど、それで死のうとするのはいくらなんでも早まりすぎじゃないですか?私も聴かせてもらいましたがあの綺麗な音色と歌声であれば今度は上手くいきますよ」
「あっ、あああああの私見ての通りこんな感じで人前だとままままともに目も合わせられないしましてや演奏なんてとても出来たもんじゃないんです。自分なりに色々試してみたんですがうううう上手くいかなくて・・・・それに今回出演料が貰えなかったのでおおおお金の方も完全に底をついてしまったんです・・・・」
ぐぅぅぅぅぅぅ
そう言うと彼女のお腹が空腹を伝える大きな音を奏でた
お金がないという事はまだ夕飯も食べていないのだろう。お腹を空かしていると考える事も良くない方良くない方にいってしまう
顔を赤くしながらお腹を恥ずかしそうに抱える彼女に私は語りかけた
「あの、もし良かったらですけど私と一緒に来ますか?今泊まっている場所に行って頼めば何か作ってくれるかも」
「えっ、いいいいいやでもそんな今日会ったばかりの方にそこまでしてもらうわけには・・・・」
「ここでお別れしたらまた同じ事しそうだしそうしたら私の目覚めも悪くなっちゃいますから」
そう言って彼女の手を取り半ば強引ではあるが王城に連れていくことにした
十中八九門番の人に止められるだろうがセフィリアに頼み込めばなんとかしてくれるかもしれない
その代償として何かされるかもしれないが・・・・そこはなんとか乗り切るしかないな
「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。私はエレナって言います」
「あっ、わわわわ私の名前はソウカと言います。よよよよよろしくお願いしますエレナさん」
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