130話 生誕祭初日
セフィリア、ユリウスさんと合流した後、早く祭りに行きたいという勢の気持ちを落ち着かせて私達は王城の中へと案内してもらい、荷物を置く為これから使う部屋へと向かった
今回私達が利用する部屋は王城のとある一角にある女性のみが入室することを許されているという場所
ここは普段セフィリアのお世話をする女給さん達が休憩するのに利用する部屋とのことらしいが、私達の為にわざわざ客室用に家財等を用意してくれたそうだ
ここなら気兼ねなく寛ぐことができるだろうがなんだか申し訳ないな
「さっ!荷物も置いたしお祭りに行こう!早くしない売り切れちゃうよ!」
「そんな慌てなくてもまだ始まったばかりだから心配しなくても大丈夫だよ」
急かしてくるセレーネを再び落ち着かせながら出かける準備をしていると、部屋の外の方が騒がしくなっているのを感じた
扉を開けて確認してみるとそこには数名の女給さんに止められているアルディーン王子の姿があった
「困ります殿下!ここから先は男性の入室はお断りさせていただいております!本日はセフィリア様のお客様もいらっしゃっているのでどうかお引き取りを」
「そのお客というのは私の先生でもあった方なのだ。少し挨拶をするだけで長居するつもりはい。心配するな」
女給さんが制止を半ば強引に振り切りこちらに向かってくる
その様子を覗いていると王子と私の目が合った。すると王子は目を輝かせてこちらに手を振りながら近づいてくる
「エレナさんお久しぶりです!去年お会いして以来ですね!あれからも私コツコツと研鑽を重ねて以前よりも力をつけました!お時間あれば見ていただけませんか!」
「えぇっと・・・すみません。これから皆でお祭りを見に行くのでそれが終わった後少しでしたら問題ないですよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
この前蔑ろにしてしまったから見るくらいなら付き合ってあげるとしよう
私と王子が2人で話していると、間にセフィリアが割りこむようにして入ってきて無理矢理会話を中断させてきた
「もういいですかお兄様!ここは女性のみが入ることを許されている場所です!いくらお兄様といえどもこれ以上居座ることは許しませんよ!」
「まだ数分しか経ってないじゃないか。もう少し話をさせてくれたって・・・・」
「あとでまたお話はできるでしょう!いいから出てってください!」
「そんな押すことはないだろう!え、エレナさんまた後ほど~!」
セフィリアに半ば強引に帰らされた王子は最後にこちらに手を振って扉の先へと消えていった。こういう感じは似ていて兄妹だなぁと実感させられるな
兄を追い出したセフィリアはふうっと一息つくと今までの出来事がなかったかのように表情を切り替えて話し始めた
「さて、気を取り直して邪魔者がいなくなったところで私達も出かけるとしましょう♪」
「「おー!」」
そうして私達は王城をあとにして出店が立ち並ぶ街中へとやってきた
去年とは多少バリエーションが違うもののやはりどこも勇者エイク三昧。見てるだけでこちらは胸やけが起こりそうだが、他の皆は楽しそうに色んな店を見て回っていた
あちこち連れ回されて疲れてしまったので少し休もうとベンチに座り行き交う人達を眺める
そこで気づいたのは街を歩いている人の層が去年と違うこと。去年は一般人の他に冒険者が多いイメージだったが、今年はリュートを持った人をよく見かけた
風貌からして吟遊詩人だろうがこんなに一箇所に集まる事は珍しい。何かあるんだろうか
ベンチでその光景を見ていると、セフィリアがは両手にアイスを持ってこちらにやって来た
「どうぞエレナさん」
「ありがとうございます。なんだか吟遊詩人が多いみたいですけど何か知ってますか?」
「あぁ、実は今年から各地にいる吟遊詩人を集めてコンサートを行うんですよ。前年までは生誕祭の他に聖剣の存在が集客率を上げてくれていたのですが、エレナさんが所有者となってそれが見込めなくなったので何か新しい事を始めようという話から決まったんです」
コンサートというのは音楽会の事か。レジティアにもたまに吟遊詩人がやって来る事があって聞いた事があるが、英雄譚等を歌っていた昔と違って今はかなり自由度が広がっていて聴いていて心を弾ませてくれる
その吟遊詩人が集まってのコンサートは盛り上がりそうだな
「おーい!休憩が終わったなら早く次に行こう!」
「ふふっ、元気な子ですね」
「本当毎日元気いっぱいで付き合うこっちが先に参っちゃいますよ」
手には出店の料理をたくさん持ち、頭にはお面を被せて陽気に跳ねて祭りを満喫しているラミアスが次のお店へ行こうと急かしてくる。それに軽く手を振って応え、重い腰を上げて皆の元へ戻ろうとすると通りがかった女性とぶつかってしまい転倒させてしまった
普段であれば気配に気づいて避ける事ができたのだが、ぶつかる直前まで全く存在を確認出来なかった。私は慌てて手を差し伸べた
「すみませんよそ見してて。大丈夫ですか?」
「あっ・・・・ゴニョゴニョゴニョ・・・・」
口を魚の様にパクパクさせて何か言ってきているが周りの喧騒に掻き消されてしまって何を言っているのか全く聞き取れない。過剰なまでにこちらに頭を下げてきたので謝っているのだろうとかろうじで察する事はできた
女性はそのまま何度もお辞儀をしてこの場から去ろうとしていたが、背負っていたリュートを忘れていたので声をかけた
「あのっ!これ忘れてますよ!」
「・・・・・・・・・!」
「すみません。壊れてはないと思いますけど念の為確認してもらっていいですか?」
地面に置き忘れていたリュートを渡し、壊れた箇所がないか確認してもらった。楽器に異常がない事を確認すると女性は安堵したような顔を浮かべてからまたこちらにお辞儀を繰り返しながら去って行ってしまった
リュートを持っていたということはコンサートに参加する人だったのだろう。声が出ない程緊張しているように見えたが大丈夫なのかな?
彼女を心配する気持ちが頭の片隅にあったものの、張り切るセレーネ達に一日中付き合わされるハメになりそんな想いはすぐ消えてしまった。そうしてようやく部屋へと戻ってきた頃には辺りがすっかり暗くなっていたので私達は今日購入した品を部屋に置き、夕食を食べにダイニングルームへと足を運んだ
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