128話 フレイヤとセレーネ
ラミアス、シエルの特訓を付き合っている一方で、エレナ達が家にいない時間が増えていたので自然とフレイヤとセレーネの2人が一緒にいる時間が増えていた
「2人共毎日頑張ってるねー。ボク達も頑張らないとねぇフレイヤちゃん」
「そうだな・・・・」
「もう素っ気ないなフレイヤちゃんは〜もっと仲良くしようよ〜♪」
「おい!気安くくっつくんじゃない!」
セレーネが家にやってきた日からもう大分日が経っているが、フレイヤは未だにセレーネの事が慣れないでいた。出来るだけ態度には出さないようにしていたが、2人でいる時間が増えたことによってやたらと絡んでくるので対応に困っていた
(ご主人様の親戚と言うからここに居る事に文句を言う気はないが・・・・正直私はこいつを信用していない)
初めて会った時から今日に至るまで敵意は感じられなかったので害はないだろうが、この女は周りと雰囲気が違いすぎる
一見人の姿をしていて上手く周りに溶け込んでいるように感じるけど鼻が利く私には人間特有の匂いはおろか生物が発する匂いすら全く感じられない。今までそんな奴とは出くわしたことはないから怪しむのは当然だ
しかし本当にしつこい奴だ。私が訝しむ表情で見ても全然気にした様子を見せないセレーネは先程までのおちゃらけた顔から媚びるような顔に変わって再び話しかけてきた
「そうだ、フレイヤちゃんに頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「・・・・なんだ?」
「今日最近始めたバイトの日なんだけど女の子が1人病欠で休んじゃうみたいでさ、フレイヤちゃんに手伝ってもらいたいんだけど」
「ぜっ・・・・対いやだ!」
食事の際にセレーネが話していた最近始めたバイトというのは確かメイド喫茶とかいうこの街に新しく出来たお店の従業員とかだったか
以前王都のリヴィアにそんなのを着させられた事があったな。あの時はご主人様が着たから私も我慢して着たがあんなヒラヒラした格好、ましてやそんな格好で接客するなんて死んでも御免だ
激しく拒否してその場から去ろうとするも食い下がろうとしてくるセレーネはある提案を持ちかけてきた
「勿論タダとは言わないからそんなつれない事言わないでくれよぉ。そうだなぁ・・・・手伝ってくれるならボクしか知らないエレナの秘密をフレイヤちゃんだけに教えてあげてもいいよ!」
それまで全く聞き耳を持つ気がなかったフレイヤの耳はエレナの秘密という言葉に初めてピクッと耳が動いた。ご主人様として慕うエレナの秘密、彼女にとってそれは何物にも勝る報酬
ようやく一緒になれたとはいえエレナは正体を隠しながら過ごしているので昔の事はあまり話さないし、周りにはフレイヤ以外の仲間がいるからそういう話も自分から切り出す事もできない。フレイヤはエレナに関する話をもっとしたくてたまらなかったのだ
そこに悪魔のような甘い囁き。自分が恥ずかしい格好を我慢するだけでご主人様の秘密を知ることができる。2つを天秤にかけるまでもなく勝るのは後者だ
「ほ、本当に1日手伝えばご主人様の秘密を教えてくれるんだな・・・・?」
「勿論、女神に誓ってもいいよ!」
「はぁ・・・・分かった。手伝ってやる」
「やたー!それじゃあ行こっか♪」
フレイヤはセレーネの甘い言葉に抗える事が出来ず、欠員が出たバイトの穴埋めをする事となった
服装とあの変な呪文みたいな掛け声だけ我慢すればあとは普通の接客と変わらないはずだ。心を無にして最低限の仕事だけこなせば文句は言われないだろう
セレーネ連れられお店の前までやって来た。看板がいかにもいかがわしさ満点だったが一応健全なお店なはずだ。帰りたくなる気持ちをなんとか抑え、お店は既に営業を始めているようなので裏口から中に入っていく
「やぁ店長おはよう~」
「あらセレちゃんおはよう、今日は伝えた通り1人欠員が出たから大変だと思うけど頑張ってね」
「ふふふ、それがね店長。なんと助っ人を呼んできたよ!」
セレーネが店長と呼ぶ女性に声をかけるとフレイヤの元にやって来て品定めするかのようにジロジロと見てきた
この時点でフレイヤは殴り飛ばしてやりたいと思ったが、ここもなんとか耐え抜く
「この子知ってるわよ。竜の子じゃない。確か名前は・・・・」
「フレイヤだ。1日だけ仕方なくだが世話になるぞ」
「そうフレイヤちゃん!こんな可愛い子なら即採用よ。それじゃあ早速悪いけど更衣室で着替えてきてもらえるかしら」
店長に許可を貰った私は更衣室に行きお店の制服へと着替えた。やはりスカートの丈が短くヒラヒラしていて恥ずかしさよりも先に嫌悪感がくる
いけない、最低限の仕事をこなさくては。私がこいつらにどう思われようが知ったこっちゃないが変なミスでもしてご主人様の評価を下げるようなマネだけは死んでもできない
再び気を引き締め更衣室を出る。そこには先に着替え終わったセレーネが待っていた
「おぉ似合ってるねフレイヤちゃん。可愛い可愛い♪」
「そんな事はどうでもいい。それで私は何をすればいいんだ?」
「そうだねぇ言葉で説明するよりも見てもらった方が早いかな」
そう言うとセレーネはホールへと出ていった。客の注文でも取りに行くのだろう
それにしてもこのお店の客層は見事なまでに男だらけだな。まぁこういう格好だから料理の良し悪しよりそっち目当ての客が多いのだろう。客の1人がセレーネに気づき声をかけていた
「セレーネちゃん、オムライスの注文いいかな?」
「はぁ?女神であるこのボクにその態度はなんだい?お願いするならそれなりの態度ってもんがあるでしょ」
「も、申し訳ありませんセレーネ様!愚鈍なこの私にどうかお恵みを!」
「最初からそうしなよこの出来損ない。まぁでも仕方ないから恵んであげるよ。それまでその姿勢で感謝しながら待っているんだよ?」
それだけ言い残してセレーネは厨房の方へと注文を伝えに行った
なんだ今のは・・・・到底接客と呼べる代物じゃなかったぞ。気に入らない客だったのか?にしても度が過ぎている気がするが・・・・
少ししてセレーネが出来上がった料理をさっきの客の元へと運んでいった。しかしその料理は客が注文したオムライスの材料が使われているだけで、オムライスの原型等全く残っていない最早残飯と呼んだ方が相応しいものだった。客もそれに対して流石に物申そうとしていたが、セレーネはそれを遮った
「あのセレーネ様、これ私が注文したものじゃ・・・・」
「誰が君の注文した料理を持ってくるなんて言った?君みたいな豚には豚の餌がお似合いだよ。それが嫌ならさっさと帰ってくれる?」
「い、いえ!滅相もありません!有り難く頂戴します!」
「あっ、食べる時もその姿勢のままね。豚は豚らしく地べたに這いつくばって食べるんだね」
「ぶひいいいい!ありがとうございます!!」
あんな接客したら普通客が怒るだろ。始めはそう思っていたが客の反応はそれは正反対に恍惚の表情を浮かべていた
どうやらこの店はこういう接客をすることで特定の客を集めているようだ
私はとんでもない地獄の場所へとやって来てしまった・・・・やはりあいつは危険な奴だった!
ここに来たことを後悔していると接客を終えたセレーネが戻ってきて私に視線を送ってきた
手本を見せたから次はお前の番だという意味だろう。正直今すぐにでも逃げ出したいところだがそうするとご主人様の秘密を知ることができなくなる。フレイヤは腹を括りホールへと出た
「あれっ見ない顔ですね。新人さんですか?可愛いですねぇ」
「黙れ矮小な人間が。燃えて塵にされたいのか。いいか?私の前で二度とその口を開くんじゃないぞ。耳が腐ってしまうからな」
「ぶひいいいい!分かりましたあああ!」
「口を開くなと言っただろ!トカゲの方がまだ言うことを聞くぞ。このトカゲ以下の阿呆が!」
思いの外スラスラと罵倒の言葉が出てくる自分に驚きながらもフレイヤは接客をこなしていった
フレイヤの接客はその界隈の間で瞬く間に広まっていき、その日の売上に大きく貢献することとなった
(うんうん、フレイヤちゃんには素質があると思ってたんだよねぇ。またエレナの事を交渉材料にしたら手伝ってもらえるかも。ごめんよエレナ♪)
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