127話 2人の特訓の成果
あれからシエルは射撃訓練をこなしていってメキメキと上達していった
始めの20mの位置からどんどん距離を伸ばしていき、今ではなんと500m先の的にも当てられるようにまでなった
それに合わせて私はオリジナルで新たな銃を作り、近距離から長距離用に対応した3種の銃を完成させた
最初に作った銃は中距離用のもので、それに加えて威力は低めだが両手に収まり小回りの利く近距離専用の短銃。移動しながらの射撃には不向きだが威力、精度が高く遠くにいる相手を狙い撃つことができる狙撃銃
狙撃銃には遠くの標的が見えるよう特殊なレンズを装着し、そこから覗くことによって狙いを定めやすいようにした
とりあえずはこの3種の武器をシエルは今完璧に扱えるよう練習している
轟く銃撃音の少し後に的に着弾。もう的に当てるだけなら外す事はなさそうだ
「凄いね、短期間でここまで上達するなんて」
「ありがとうございます。ですけど実際は動く相手を標的としますのでそろそろ実戦で試してみたいという気持ちはありますね」
「実戦かぁ。ラミアス達みたいに森に行って試してみるか・・・」
「ただいま~!帰ってきたぞ~」
シエルと会話をしているとちょうど森に行っていたラミアスとフィオナがキューちゃんの背中に乗って帰ってきた
そう、キューちゃんはこの1ヶ月程で急成長を遂げて2人を背中に乗せることができるまでに大きくなったのだ
ゆくゆくはそうなるだろうと思ってはいたがまさかこの短期間でここまで成長するとは思いもしなかった。こういった事例は聞いたことがないので恐らくラミアスと契約した魔物には成長促進という効果も付加されていると考えられる。尻尾は変わらず3本のままだが、基礎能力は以前に比べて遥かに上がっていた
キューちゃん用に新しく小屋でも作ろうかとも考えたが、姿は自由に変えられるようなので家にいる時は以前のように小さな姿で過ごしてもらっている
「おかえり、今日はいつもより早かったんだね」
「最近この辺り魔物は皆キューちゃんを避けちゃって挑んでくる相手が少ないんだよな。キューちゃんも物足りないみたい」
「クゥーン」
「そろそろ訓練する場所をどこか違う場所に変えた方がいいかもしれませんね」
まぁこの辺りの魔物じゃもう相手にならないだろうしな。ここまで成長が早いと想定していなかったからまだ次の事も考えていなかったしどうしようか
「そうだねぇ・・・・なら久々にギルドに行って手頃な依頼がないか見てみようか。私達が同行する形で倒すのはシエルとラミアス達にやってもらうことにしよう」
「それはいいな!早速行くとしよう!」
そういうわけで私達はギルドへと足を運び依頼を探すこととなった。久しぶりにギルドの中へ入ると相変わらず掲示板の前には人だかりができていた
人混みの中に入り込み依頼が貼られている中から今の2人にちょうどよさそうなのがないか吟味していく。あくまでこれは仕事として受けるものなので失敗すると迷惑をかけてしまうから適当に決めるわけにはいかない
多少物足りなかったとしても確実に達成できるものを選ばなければ
「これなんかどうですか?」
フィオナが依頼書を持ってきて私に見せてくる。依頼は牧場にいる家畜が山から下りてきたワータイガーの群れに襲われていて困っているという内容のものだった
ワータイガーは見た目は虎だが大きさは狼と大差なく、鋭い牙と爪で獲物を弱らせてから仕留める。常に群れで行動する魔物なので10匹前後いると考えるべきだろう
1匹1匹はそこまで驚異ではないので落ち着いて戦えば問題ないはずだ
「いいんじゃないかな。これを受けようか」
「決まりだな!頑張ろうなキューちゃん!」
「アオン!」
受付のお姉さんに依頼の紙を持っていって受理してもらい、被害に遭っている牧場へと向かった
牧場を経営している人からワータイガーがやって来る方角を教えてもらい探索を開始。前日雨が降っていて地面が泥濘んでいたので足跡が残っていた為、簡単に群れを見つけ出すことができた
牧場から数キロ離れた草むらで捕らえた獲物を食べている最中のようだ。数は12匹で大体予想していた数だ
ワータイガーの群れの中に一回りデカい奴がいる。優先して獲物を食らっている証拠できっとあれがあの群れのボスだろう
「あの中にいる一番大きなのが群れのボスだね。まずシエルにあのボスを倒してもらいたいんだけどできる?」
「やってみます」
ここからワータイガーまでの距離は200mといったところか。呑気に食事をしていてこちらに気づいた様子はない
基本的に手を出さず横で見守るつもりだが、万が一ということもあるのでこちらもその時の為に準備をしておく
シエルはワータイガーの親玉を狙いやすい位置まで移動すると狙撃用の銃を取り出して弾を装填しレンズを覗いて狙いを定め始めた。練習していた時と全く同じ動作で大きく深呼吸した後引き金を引く
シエルが撃った弾は見事群れのボスであるワータイガーの頭にヒットした。その場で倒れ込むボスを見て食事をしていた周囲の仲間達がざわつき出す。シエルはすぐさま次弾を装填して2匹、3匹目と撃ち抜いていき初手で4匹を倒して群れを3分の1減らすことに成功した
動く相手に対しても偏差射撃で冷静に対処できていたので初めてでこれなら大したものだ
「上出来。これから私とラミアスは奴らの所に向かうからシエルは引き続きこの場所で援護をお願い。フィオナもここで周りを見張っておいて。行くよラミアス」
「よし!出番だぞキューちゃん!」
私の合図で勢いよくワータイガーの群れに突っ込んでいくキューちゃん。一気に距離を詰めて一匹の首根っこに噛みつき地面に叩きつける。それを見て相手が怯んでいる間にラミアスが指示を送る
「いけーキューちゃん!狐火!」
「アオン!」
ラミアスの言葉に従いキューちゃんは周りに蒼い炎を出現させた。その炎を敵目掛けて放ち命中すると一気に炎は燃え上がり一瞬で敵を灰塵と化した
これは元々キューちゃんが覚えていた魔法で最初は火傷を負わす程度だったが、成長したことによってここまでの威力に跳ね上がったのだ。九尾の狐は尻尾1本に対して魔法が1つ使えるようで増えていくにつれて魔法の種類も増えていく
つまりキューちゃんは現在あと2つの魔法が使えるということらしいが、まだ特訓中ということで見せてもらったことがない
あっという間に次々と倒されていくワータイガー。暴れ回るラミアス達の死角から襲いかかろうとする相手にはシエルの狙撃で対処し、見事無傷でワータイガーの群れを全滅することができた
「お疲れ様。これだけ戦えるようになったら大丈夫そうだね」
「よくやったぞキューちゃん!」
「キューン♪」
「これからも鍛錬を怠らず精進していきます」
どちらもこの短期間で見違えるような成長を遂げた。あとは私が付き添うまでもなく各自で鍛えていけるだろう。私達は牧場の人にワータイガーの群れを倒した事を伝え、その足で報告を済ませにギルドへと帰還した
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