126話 シエルの思惑
ラミアスが子狐をテイムした日から数日が経過した。その後も特訓を継続しているが、テイムを経験した事が良かったのか最初の頃より能力の扱い方が上手くなったようで複数の動物を同時に使役出来るようになるまでに上達していた
「よしっ!今日も頑張るぞキューちゃん!」
「キュン!」
そして今日はテイムした子狐改めキューちゃんと共に弱い魔物を狙って戦闘を行う予定だ。キューちゃんがなんて魔物か調べたところ九尾の狐と呼ばれている珍しい種の魔物らしく、ここから遥か東にある山に生息していてその名の通り9本の尻尾が特徴的な魔物だった
けど生まれた時はそこら辺にいる狐と同じで普通に1本だけらしい。そこから成長していくにつれて尻尾の数が増えていき、9本となり一人前と認められ時に晴れて九尾の狐と呼ばれるようになる
今キューちゃんの尻尾は3本。これからあと6本増えるというわけか
成長したらラミアスを守ってくれる存在として期待が出来そうだ
名前は九尾のキュウとキュンキュンと鳴くことからキューちゃんと名付けられた
安直ではあるが名付けられたキューちゃんが喜んでいるのならとやかく言うのは野暮というものだろう
準備が整いいつもの森へ行こうとすると、家の中からシエルが飛び出してきて呼び止められた
「エレナ様、少しだけお時間よろしいですか?ご相談したいことがあるのですが」
「ん?どうしたのシエル」
シエルが相談なんて珍しいな。普段から悩んでいる様子なんて全く見せないから少し驚いた。一体なんだろうか
しばし逡巡した後シエルは口を開き、思いもよらない事を言い出した
「私にも戦う術を教授していただけませんか?」
「シエルが?どうして?」
「先日のラミアス様が誘拐された件ですが、あの時一番近くにいたのは私でした。私がちゃんとラミアス様を見ていれば・・・そして迎撃出来るだけの力があったら連れ去られるような事態にはならなかったはずです。なので今後ああいった事が起こらないよう私も戦えるようになりたいのです」
そんな事を気にしていたのか。あれは寧ろ気を抜いていた私の落ち度だったからシエルが気にするような事なんてひとつもないんだけど
その事をシエルに伝えようとして顔を見ると、表情はいつもと変わっていなかったがその目は真剣そのものだった
きっとシエルなりに考えての発言なのだろう。最近頑張っているラミアスに触発されたというのもあるかもしれないな
その想いを無下にするわけにはいかないしシエルがそう望むのなら私も出来る限りの事は協力しよう
「分かったよ。シエルがそこまで言うなら私も力になるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても武器かぁ・・・シエルは使ってみたい武器とかはあるの?」
「いえ、特にこれと決めているのはないです。ただ普段の私の服装はこれなのであまり動き回らないで使える武器がいいですかね」
確かにシエルの給仕服で動き回ったらスカートを踏んで転んでしまいそうだな。そうなると自ずと遠距離武器という事になってくると思うが・・・・あっ!そういえば以前帝国に行った時にギルドマスターのライヒムさんから貰った銃の設計図。貰うだけ貰っておいてまだ1度も試してないんだよな
あれだったらそこまで動き回る必要がないし威力も申し分ないはず。私は設計図を取り出してシエルに見せ、銃の説明をして勧めてみた
「こんな感じでこの筒から中に込めた弾を発射するっていう武器なんだけど。どうかな?」
「そうですね。これなら慣れればなんとかなりそうかもしれないです」
「じゃあ一先ず武器はこれで決まりだね。初めて作る武器だし設計図見ながらやるから少し時間はかかるかもしれないけどそれまで待っててくれる?」
「分かりました」
それから私はラミアスが訓練している様子を見つつ、その合間に設計図を見ながら銃を試作していった。初めて作る武器という事もあって何回も失敗し、試し打ちをする際に暴発したりする事もしばしば起きた
ラミアスの方はというと森の中で一番弱い魔物とキューちゃんがポコポコと子供の喧嘩のような微笑ましい戦いを繰り広げていた。戦力になるにはまだまだ先は長そうだ
そんな日々が数週間程経過したある日、ようやく実用できるまでになった銃を私はシエルに見せて試し撃ちをしてもらうことにした
「どうかな、気になるところがあったら言ってね。調整するから」
「いえ、問題ありません。軽くて扱いやすそうです」
始めは設計図通りに作ったのだが、そうするとかなりの重さになってしまったので威力、精度をそのままの状態で軽量化しようと改良を行った。そのせいで予定より時間がかかってしまったが軽量化して正解だったようだ。まぁ人並み以上の腕力があるシエルなら多少重くても扱えなくはないだろうが
銃の構え方を教えて用意した的の前に立たせ試し撃ちをしてみることに。初めてなのでとりあえず20m位の距離から始めることにした
息を吐きながら肩の力を抜き狙いを定めて引き金を引くと轟音が森の中に鳴り響いた。反動によって弾が逸れて初射撃は残念ながら的に当たることはなかったが、弾が当たった隣の木には風穴が開いていた
「外してしまいました。調整します」
シエルは再び構え直して2射目を放つ。すると今度は見事に的のど真ん中に命中した
先程の反動を計算に入れてすぐさま微調整を行えるのは自動人形であるシエルならではといったところか。なんとなくの思いつきで銃を勧めてみたが、思いの外相性がいいのかもしれないな
威力も対魔物用に使うのなら申し分ない威力だな。これを人相手に使ったら上半身と下半身がお別れすることになるだろう・・・・弾の方も色々と種類を分けて作った方がよさそうだ
「エレナ様ありがとうございました。これから修練に励みます」
「うん、無理せず頑張ってね」
私が作った銃を大事そうに抱きしめるシエル。給仕服に銃というなんともミスマッチな姿ではあったが喜んでもらえたのなら作った甲斐があったというものだ
流石にそのまま置いておくのは物騒なのでシエルに空間保管の袋を渡してその中に入れておくように言っておいた。これならいつでも取り出す事ができるし置き場所に悩むことはないだろう
その日から今まで家事だけをこなしてもらっていたシエルの1日に銃の射撃訓練という項目が加わった
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