123話 能力開花
「こいつ中々頑丈だな。殴り甲斐があるぜ」
あれから私は顔や腹を何十発と殴られ続けた。チクチクチクチクと殴られて着実にストレスが溜まっていった
相手に気づかれないよう最初の方だけわざと直撃を受けて派手に血を流し、あとはギリギリのところまで引き付けて殴ってきた軌道に合わせて顔を逸らしてダメージを抑えていた
それでも気づかれないよう殴った感覚を与える為に多少なりともダメージが入る上に何十発と殴られているので流石に視界がボヤけてきた・・・・こんなに殴られたのはいつぶりだろうか
「ふぅ・・・殴り続けるのも疲れたし飽きてきたな。次はその細い腕だ。いい表情を見せてくれよ」
魚人は私の腕に手を伸ばす。私は咄嗟にラミアスの視界に入らないよう魚人の影に隠れた
まるで小枝を掴むように両手で私の腕を掴む。そしてバキッと鈍い音が聞こえた
声を漏らさないようなんとか我慢出来たが、流石に表情までは保つ事ができず苦悶の表情を浮かべてしまいラミアスにそれを隙間から見られてしまった
「っ・・・・!」
「エレナ!」
「おぉ・・・いい表情するじゃねぇか。そういうのが見たかったんだよ。もっとその表情を俺に見せてくれ」
魚人は私の苦しむ表情が気に入ったのか、もう片方の腕にも手を伸ばしてきた。それを食い止めようとラミアスが叫ぶ
「やっ・・・・やめろおおおおお!!」
「うるせぇ・・・なっ!」
「おい!」
私のドスの効いた声を聞き思わず肩をビクつかせる魚人。私はかつてない程の低い声で相手を威圧した
「ラミアスに手は出すなよ。代わりに俺を好きなだけいたぶればいいだろ」
「な、なんだこいつ・・・さっきと雰囲気が」
「落ち着けよ。優位な立場に立っているのは俺達の方なんだ」
感情が昂ぶってしまい思わず一人称が戻ってしまった
冷静になれ。なんとかこの状況からラミアスを救出する方法を考えなくては
痛みに耐えながら頭を回転させていると、洞窟内が僅かに揺れたのを感じ取った
「ん?」
「おい、どうした?」
「いや、今なんか揺れたような気がしたんだが・・・・」
「気のせいだろ。それよりそろそろずらかるぞ。また憲兵団が来たら面倒だ」
気にしてないと気づかないような微細な揺れだ。地震?いやあれは地震というより何かを殴って起きた揺れに思える
魚人達がラミアスを連れてこの場から離れようとすると再び揺れが起きた。それは先程より大きく揺れて音も聞こえてきた
ドン、ドン、ドンと壁を叩くような音。やはりこれは何者かが外側から殴っている揺れだったんだ
しかもこの音から察するに複数はいるな。果たしてやって来るのは敵なのか味方なのか・・・・
「おい、やっぱりおかしいぞ。地震じゃこんな揺れにはならないし何か起きてるぞ」
「こいつらの仲間なんじゃねえのか!?早いとこ逃げるぞ!」
あの様子からして奴等の味方ということはなさそうだ。でもこちらにもこんなマネできるような子はいない
フレイヤなら可能かもしれないが水中では難しいだろう。段々と近づいてくる音に焦って逃げようとする魚人
しかしそれよりも先に音の主が洞窟の壁を壊した。大きな穴からは外からの海水が大量に流れ込んでくる
そこから姿を現したのは白く太い1本の触手。あの大きな触手は・・・・
「くくくくクラーケン!?どうしてこんな場所に!こいつの生息地からはもっと離れているはずだぞ!」
もしかしてラミアスがさっき叫んだのが無意識にクラーケンを呼んで?けど確かに私達がクラーケンと遭遇した場所はここから遠く離れている
仮にラミアスの声に反応していたとしてもそんな早く来れるわけないはずだが・・・・
クラーケンがこの場にやって来ただけでも十分驚きだったが、やって来たのはクラーケンだけではなかった
クラーケンが開けた場所が違う箇所に再び大穴が2箇所開いた。そこから顔を出したのは2頭の海竜、リヴァイアサンにレイン・クロイン
深海の主と言われているのはクラーケンだが、この2頭も同等の実力を持ち合わせている。この3匹もそれが分かっているのか、争いが起きないようそれぞれがそれぞれの領域を侵さぬようお互い距離をとっている。だから今回のように3匹が勢揃いするというのは有り得ない光景なのだ
「リヴァイアサンにレイン・クロイン・・・!なんでこんな化け物達がここに集まってきたんだ!」
「し、知るか!さっさと逃げ・・・ぶへっ!」
クラーケンは名だたる怪物を目にして動揺し足を止めていた魚人を触手で軽く弾き飛ばした。壁に叩きつけられた魚人は一瞬でやられ気絶してしまった
「ヒッ!」
もう1人の魚人はそれを見てラミアスの事を諦め、出口に繋がっている場所へと一目散に走っていった
しかしそれを怪物達が許すはずがない。リヴァイアサンとレイン・クロインの2頭が凍結のブレスを使って一瞬で出口を塞ぎ、魚人を丸ごと氷漬けにして行動不能にしてしまった
私とラミアスはこの3匹の活躍によって救われた。私自身驚きを隠す事ができず暫く動けないでいた
その間にリヴァイアサンが捕まっていたラミアスの縄を大きな爪を器用に使って縄を切り拘束を解いてくれていた
「お前達・・・我を助けてくれたのか?」
ラミアスがそう言うと3匹は肯定するように頷いた
これで確定した。前回の船での戦闘の時といい、やはりラミアスには魔物を従える能力があるようだ
それも強力な魔物を複数同時に使役する事が出来るほどの能力。まだ子供でこれだけの魔物を・・・まだ能力が目覚めて間もない感じだけど使いこなせるようになった姿を思うととんでもないな
「ってそんな事考えてる場合じゃない!早くここから出ないと!」
3匹が穴を開けた事によって海水が洞窟内にどんどんと溜まっていっている。このままでは溺れて死んでしまう
私は急いで傷を治してラミアスに息ができるよう魔法をかけ、この場から脱出しようとしているとレイン・クロインが私達の前にやって来て背中を差し出してきた
「乗れって言ってるみたいだぞ」
「ラミアス、この竜の言葉が分かるの?」
「うん、よく分からないけど分かるんだ」
出口は分厚い氷の壁で封鎖されているしここから抜け出せるのは穴を開けた場所だけ。けど流れに逆らい尚且つラミアスを連れていくには正直厳しい
いや、転移を使えばいいか。そっちの方が安全だし早いな
そう思って転移門を出そうとしたが、ラミアスの目がキラキラしている
どうやらこの海竜の背中に乗って行きたいようだ。さっきまで捕らわれていたというのに・・・豪胆というかなんというか
そうこうしているうちに海水はもう腰の辺りまで来ていたので、私達は海竜の背中に乗ってこの場から脱出することにした
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