121話 誘拐
魚人と一戦交えたあの日から数日が経過した
憲兵団に保護された海洋生物達は一匹残らず元の場所へと帰された。何匹か餌を満足に与えられず衰弱していたのがいたようなので、そういう子は元気を取り戻してから親元へと帰してあげた
親元に帰す際にはマーメイドに同行をしてもらったらしい。マーメイドは海の生物であれば誰とでも会話ができると言われていて、今回親である相手に事情を説明してもらう為の通訳係というわけだ
そして現在は捕らえた魚人達の尋問を行っている。そのお陰もあって捕らえていた子達をあの洞窟から更に違う場所へと運搬する係であった魚人グループの仲間達の存在が発覚
状況を知らされていなかったその仲間はあの洞窟へとやって来たが、そこを憲兵団が包囲して拘束することに成功した。これで残るは主犯格である魚人のみとなったが、その魚人の事については誰も口を割らず居場所が掴めず難航しているそうだ
それが私達が聞かされた内容の全て。1人で何かを出来るとは思えないので心配はないと思うが・・・・などと考えはするが、もう終わったことで観光客である私達がこれ以上首を突っ込むことでもないしあとの事は憲兵団に任せるのが最善だろう。ここに滞在できるのも僅かだし残りの日数を精一杯楽しむとしよう
今日はチェルシーさんに教えてもらった海まんじゅうなる名物を食べにやってきている。この海底都市に来たからにはそれを買わないと損をするとまで熱く語られたのでそれならと皆で食べに行くことにした
そのお店は朝に配られる先着100名の整理券を手に入れないと買えないようなので私とフレイヤが朝早くに一度お店へと行って整理券を貰いに行ったのだが、辺りが明るくなる前にも関わらず既にかなりの人が並んでいた
急いで列に並びなんとか整理券を貰うことができて事前に購入数を伝えて宿に戻ることができたが、あそこまでとは思っていなかった
「それでは開店しまーす!整理券をお持ちの方は係の方にお渡し下さーい!」
店員の声と案内と共に整理券を持ったお客が次々とお店の中へと入っていき、お店は瞬く間に満席となった
私達の整理番号は最後の方だったので暫く待つこととなった。幸い回転率は良かったのでそこまで待たずに中に入る事ができ、空いている席に座ると店員が両手にお盆を持って人数分の海まんじゅうを持ってきた
透き通るような薄い水色の皮はツヤがあり、中にはうっすらと黒い餡のようなものが見える。まるで海の中の黒い真珠のような輝きを放っていた
ツルツルとしていて手では掴めそうにないので、スプーンを使って掬い上げるとプルンとゼリーのように揺れた
口に入れると先に餡を包んでいた皮が口の中の温度で溶けて海水のような塩気のある液体へと変わっていって、それと黒く甘い餡とがお互いを絶妙な具合に引き立て合っていて絶品だ。一緒についてきた飲み物もこのお菓子に合わせて作られているのか、濃い緑をした渋めのお茶だが餡の甘さと一緒にお茶が流してくれるお陰で口の中がリセットされる。これなら何個でも食べられそうだ
可能であればこれをお土産として持ち帰って他の人達にも食べさせてあげたいところだが、この海まんじゅうは作られてから30分もしないうちに餡を包んでいる皮がベチャベチャになって途端に美味しくなくなってしまうらしい
だから整理券が発行されて事前に伝えられた人数分しか作ることが出来ず、ここでしか食べることが出来ないということだ
チェルシーさんがあれだけ熱く語っていた意味が分かった気がする
「ふぅ♪美味しかった~♪」
「凄く美味しかったけど1個が小さかったからもっと食べたかったですねぇ」
「そしたらまたここに来るしかないね」
お店を出てそんな話をしながら視線を少し下の方に向けると、そこにいつもいたはずのラミアスの姿が見当たらなかった
「あれ?ラミアスは?」
「へ?あれ・・・・さっきまでここにいたはずなんですけど」
まだお店の中にいるのだろうかと思い戻って見ても見当たらず、店員に聞いてもそのような子は見ていないと言われた
人混みのせいで迷子になってしまったのか、声を上げて呼んでみても反応はなし。すぐさまラミアスの居場所を突き止めようと魔法を使い周囲を探索すると、ラミアスと思われる反応を発見した
しかしそれとは別の反応がラミアスと同じ速度で海の方へと向かっているのを捉えた
もの凄く速い。ラミアスではこの速度で走ることは出来ない
もう1つの反応・・・・この前取り逃した魚人に似ている。奴に捕まえられたのか!
「大変だ!ラミアスが誘拐されたみたい!」
「えぇ!?それは本当ですか!それなら急いで助けに行かないと!」
「場所は分かってるんだよね?早く行こう!」
完全に油断していた。街中であれば大丈夫だろうと思っていたのが間違いだった
奴は姿を擬態して消すことができるから街中に潜んでいても不思議ではなかったというのに
海の方へと向かって行った2つの反応はそのまま海へと入っていくのを察知した
ラミアスはまだ多少泳げる程度。あのまま海の中に入ったら大変だ
遅れて海岸にやって来た私達も急いで後を追おうとしていると、潜水艇の整備をしているチェルシーさんを発見。私はその場に駆け寄りチェルシーさんに事情を掻い摘んで説明して協力を仰いだ
「それは大変ですね!ちょうどメンテナンスも終わったのですぐ出発できますよ!乗って下さい!」
私達はすぐさま潜水艇に乗り、誘拐されたラミアスを追いかけた
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