12話 領主からの依頼
「ふわぁ・・・平和だなぁ」
家を建て資金的余裕もできたことからここのところはのんびりとする時間が増え、体を動かしたくなったらギルドで仕事を受けて魔物を狩るという日々を過ごしていた
最近は実家にいた時にもやっていた家庭菜園を始めた。魔法で土に栄養のある肥料を混ぜ合わせてあげると美味しい野菜ができる
魔法で作り出すこともできるが、こういうのは自分で育てて食べるまでが楽しいからな
そんな穏やかな生活を送っていたので話題という話題もなく、しいて挙げるとすればフレイヤがギルドで加入したこと位だろうか
本来月に一度行われる試験を待たずに受けることができる推薦試験というものがあり、2人以上冒険者からの推薦があれば時期を待たずに試験を受けることが出来るので私とフィオナの推薦でフレイヤは試験を受けることとなった
一般の試験内容より合格ラインが上がるが、フレイヤにとっては児戯のようなもの。余裕で突破することが出来た
模擬戦の相手はこの街で1、2を争う冒険者パーティのリーダーだったようだが、フレイヤに殺気を飛ばされただけで失神してしまう始末だったからな
推薦で試験を合格した者には特典も付いてくるようで、資金の援助か装備一式の支給。又は一月分の食料を選択できるらしい
フレイヤが選んだのは最後の一月分の食料でどうやらフレイヤはそれが目的だったようだ。可愛らしい見た目でも竜だからなぁ
「さて、今日は何をしようかなぁ」
街に出かけるか、ギルドで仕事でも受けるかと考えているとこちらに馬車が近づいてきて家の前で止まる気配がした
珍しく来客かと思い外に出てみるとそこには執事らしき格好をした男性が立っていた
「どちら様でしょうか?」
「初めまして。私はこの街の領主、グランツ・フォルロー侯爵様の執事をさせていただいているハワードと申します。冒険者のエレナ様でお間違えないでしょうか?」
「そうですけど・・・領主様の執事さんがどうして私達の家に?」
「実はエレナ様とそのお仲間方に仕事をお願いしたく訪問させていただきました。詳しい事は屋敷の方でお話したいのですがお時間よろしいですか?」
ダメです・・・と言いたいところだが侯爵から直々に呼ばれたのに出向かなかったら何をされるか分かったもんじゃない
せっかく家を建てたのに街を追い出されたりでもしたら最悪だ
「分かりました。仲間にも声をかけてくるので少し待っていてもらえますか」
「かしこまりました」
フィオナとフレイヤにも話をして支度を整えてから馬車に乗り屋敷へと向かった
それにしてもどうして領主が一介の冒険者である私の事なんて知っていたんだろう
せいぜいギルド内だけだと思ってたけど・・・
「はぁ・・・」
「ご主人様どうしました?」
「あぁいや、なんでもないよ。ちょっと昔の事を思い出しちゃってね」
勇者だった頃はよく貴族間の面倒事に巻き込まれたものだ
表面上は国の為やら民の為やらと体のいい事を口走るが、実際は己の利権しか考えていない奴らばかりだった
勿論中にはまともな人物もいたが、私の中での貴族のイメージはいいものではない
今回も呼び出されて一体何を言われるのかと憂鬱な気持ちになってくる
領主の屋敷に到着し、ハワードさんに部屋へと案内されここで待つよう言われる
その間フィオナはそわそわしてなんだか落ち着かない様子だった
「どうしたの?」
「だって領主様のお家ですよ?緊張しない方がおかしいですよぉ」
確かに普通に過ごしていたらそういう機会はないよなぁ。こういう所はしょっちゅう来てたから特になんとも思わないな
出された紅茶を飲みながら暫く待っていると領主がやってきた。30後半くらいと思われる男性、この人がグランツ・フォルロー侯爵か。思っていたより若いんだな
屋敷に呼ばれてる時点でこちらのことは調べられているとは思うが、名乗るくらいの事はしないと失礼に値するか
「お初にお目にかかります。この街で冒険者をしているエレナと申します。こちらは仲間のフィオナ、そしてフレイヤです」
「わざわざ来てもらってすまないね。私がこの街の領主、グランツ・フォルローだ」
簡単な挨拶を済ませると早速仕事の話が始まった
領主の仕事の内容は娘さんの身辺警護。娘さんと王都に行く予定だったが、外せない仕事が入ってしまって一緒に行けなくなってしまったらしい
それでも娘さんは1人でも行くと言って聞かないようなので私達を呼んだようだ
侯爵であればお抱えの騎士や伝手のある冒険者が数多くいるはずなのに、どうして大した実績がなく階級も低い私達に仕事を依頼したのか理由を聞いたところ・・・
「私の可愛い一人娘を他の男共に近づけたくない!私の目の届かないところで男と一夜を共にすると思うと耐えられん!」
ということらしい。それからギルドマスターからの報告で模擬戦の話やエルフ、赤竜族の仲間がいる事を聞いたそうだ
それで私達に依頼が回ってきたということか。あまり周りに言いふらさないで欲しいな・・・
今までの話を聞き、2人に目配せしてこの仕事を受けるかどうか確認する
2人共異論なしということなので領主の依頼を受けることにした
「分かりました。その仕事私達が受けさせていただきます」
「ありがとう、では娘を紹介するとしよう。ハワード頼む」
領主がハワードさんに娘さんを連れてくるよう指示する。一体どんな子だろうか
あれだけ過保護になるって余程可愛い子なんだろう
少しして扉が叩かれその先からやってきたのはまだ幼くなんとも可愛らしい女の子だった
「これが私の娘のシスカだ!可愛いだろぉ」
確かに可愛いが・・・男を近寄らせたくないというからてっきり年頃の女性かと思ったが、まだまだ子供じゃないか。心配するには早すぎる歳な気がするが・・・親バカというやつか
「シスカ、この人達が今度お前と王都に行ってくれることになったぞ。挨拶しなさい」
「シスカ・フォルローです!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。シスカお嬢様」
うん、まだ子供なのにしっかりしてていい子そうだな
「出立は明後日だ。それまでに準備をしておいてくれ」
「分かりました」
それから2日後、私達は領主の娘シスカを連れて王都へと向かった
見送りに領主がやってきたが、娘を心配するあまり終始泣いていた
王都から帰ってくるまであんなんで大丈夫だろうか・・・
それにしても王都か。もう200年以上も経ってるからどんな風に様変わりしているか楽しみだ
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