115話 料理人の腕前
チェルシーさんの案内によってやって来た神殿。最初は本当に宿なのかと疑わしかったが、中に入ってみると外観とは裏腹に思い切り宿泊仕様になっていた
天井は吹き抜けで広々としたほぐ放感のある空間となっていて、私達のいる階には受付の他に宿泊客をもてなす為の遊戯部屋や目の前に広がる自然のアクアリウムを眺めながらお酒を楽しむことができる小洒落た酒場、他にもエステや本を読みながら寛げる喫茶店等様々な施設が並んでいた
最早神殿の面影は外観以外全く感じられなかったが、ここが上等な宿ということは理ほぐできた
「いやぁ神殿がこんな立派な宿になっているなんて驚きました」
「少し前まで観光スポットの1つとして建っていたんですが老朽化でいつ崩れてもおかしくない状態でしたので修繕、補強をしたんですけど、その時に誰が言ったのかただ元に戻すだけでは面白くないという話になり、外観はそのままに思い切って宿として改装することになったんですね。そしたらそれが観光客に思いの外人気みたいで今では常に満室の状態なんですよ」
まぁ確かに見た目と中のギャップで興味を惹かれるし設備も充実しているから観光客は物珍しさで集まって来るだろうな
受付を済ませチェルシーさんが私達の部屋へと案内してくれた。部屋は神殿の最上階にある一室で家具類は至ってシンプルなものだったが、テラスに出ると都市が広がっていて最上階ということもあり一望することができた
浴室からは来る時に見えた海辺が見えて耳心地の良い波の音が聞こえてくる。港の時といい今回といい抽選で無料で泊まるには申し訳ない位上等な宿
海底都市での滞在期間は1週間。これらの費用は全てレジティアの街の領主であるフォルロー侯爵が負担していると聞いた
これだけの旅費をポンと出せるのだから流石といったところだ。経済に関しては疎いが今回の抽選という催しで街が更に活性化して結果的に領主の懐も潤ったことだろうから大した負担にはならなかったのだろう
チェルシーさんは案内役を終えるとお辞儀をして部屋をあとにした。時間も夕方に近づいてきているのか、具体的な時間は分からないが太陽が沈んでいく代わりに周りで発光していた石や珊瑚が徐々に光を弱めていって少しずつ辺りが暗くなっていってるのが上から見て分かった
天然の照明が消えると都市は闇に包まれるだろうが、ここに来る途中に魔力結晶を用いた通常の街灯も存在していたから問題ないだろう
その様子を暫く眺めているとラミアスのお腹から空腹を訴える音が聞こえてきた
「お腹空いたなぁ・・・」
「そういえば朝食べた後お昼は軽く済ませただけだったからね。少し早いけど夕食食べに行こうか」
「ヴォールスさんのお店ですね。行ってみましょう」
チェルシーさんから貰った地図を頼りに皆で先程出会ったヴォールスさんがやっているお店へと夕食を食べに行くことにした
貰った地図の裏にはメモ書きがされていて、お店は昼の部と夜の部と分かれているとのことだった。さっき担いでいた魚は夜の部で使われる材料だったということか
時間的にちょうど始まった頃だろうから今ならあまり混まずに入れるかもしれない
しかしその考えは甘かった。大通りから少し外れた場所にヴォールスさんのお店を見つけたのだが、中は既に大勢のお客さんで賑わっていた
チェルシーさんの口ぶりからして人気のお店なんだろうとは思っていたが、夕方開店直後からこの盛況ぶりとは恐れ入った
外に待機列は出来ていなかったのでとりあえず中に入って空いている席がないかと見回していると、運良く料理を食べ終えて空くテーブルが出たので私達はそこへ座ることにした
その席は厨房からよく見える席で、厨房に目を向けるとヴォールスさんがちょうどあの時担いでいた魚を捌いているところだった。するとこちらに気がついたヴォールスさんは作業を続けながら周りの活気に負けない位の大声でこちらに呼びかけてきた
「おぉ!お嬢さん方来てくれたんだな!約束通りサービスするからたらふく食っていってくれな!」
「ど、どうもありがとうございます」
あまり大きな声で言うと周りのお客さんの視線がこちらに集まるから控えて欲しい・・・
とりあえずテーブルに置かれていたメニュー表を開いて各々食べたいものを注文し、料理が出来上がるのを待つ
待っている間ヴォールスさんの手捌きを拝見させてもらっていたが、チェルシーさんの言う通り8本の腕を駆使して物凄い勢いで料理が作られていく。ある腕はフライパンで調理をし、またある腕は魚を捌いたりと8本の腕を器用に動かしていた
あれだけの工程を同時にこなすなんて私には到底無理。料理人としての腕前は確かなものだ
注文してから5分も経たないうちに一品目の前菜が人数分テーブルに届けられた
地上で購入された野菜と海で採れた海藻、エビが使われたサラダ
シャキシャキした野菜と海藻のコリコリッとした食感。淡白だがプリプリのエビとさっぱりとしたドレッシングとが調和がとれていてあっという間に平らげてしまった
サラダを食べ終えたのも束の間、私達の席にメインの料理が届けられる
私とセレーネが注文したのはリッチクラブという小柄だが殻の中に身がぎっしりと入っている蟹が使われたパスタ。身はふんだんに使われていて、パスタに和えてあるソースは殻から出汁をとった後に粉末状になるまで砕ぎ、最後に出汁、かにみそと合わせたもののようで他の調味料は一切使われていない身から殻まで惜しみなく使用されている一品だ
ソースにパスタをしっかりと絡ませて口へ運ぶと口の中は蟹一色。身はホロホロと解れていき、濃厚なソースは癖になりそうだ
この料理にはバケットもついていて、余ったソースをバケットにつけて食べても絶品だった
ラミアスは旗が飾られているお子様ランチ。フィオナ、フレイヤ、シエルの3人はヴォールスさんが捌いていた魚のステーキを注文していたが、用意されたナイフを使うまでもなくフォークで軽く押しただけで身は解れ、魚から出る良質な脂は見ているこちらも唾を飲み込んだ
ヴォールスさんの食事を堪能した後は許可をもらって宿に行く途中で購入したお菓子をその場で頂いた
「はぁ満足満足♪美味しかったぁ」
「そうだね、ヴォールスさんご馳走様でした」
「おぉ!暫く滞在するならまた来てくれな!」
ヴォールスさんに挨拶をし、私達はお店をあとにした
お店を出ると辺りはすっかり暗くなっていて夜の賑わいを見せている
このまま夜の都市を散策といきたいところだったが、今日は移動の疲れもあったし初日ということもあり明日に持ち越す事にして宿へと足を向けた
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