110話 予期せぬ敗北
目の前にいた彼女が突然姿を消し、見つけた時には既に開始位置へと戻っていた
「使うつもりはなかったんですがやはり負けるのは嫌なので致し方ありませんね」
そう言うと彼女は今まで周りと同じだった構えを捨て、地面につきそうな程体を沈みこませ始めた
先程までの彼女とは気配が全く違う。さっきまでとはまるで別人のように感じる
それにあの構え・・・似ているな
彼女がどのような攻撃を仕掛けてくるのか、僅かな動きもみのがさないよう目を配っていると、軸足の方に力が入り踏み込んで来るのが見てとれた
来る。そう思った矢先、目の前にいたはずの彼女がまたもや姿を消した
突然姿を消すこの技・・・やはりこれはユリウスさんと戦った時に使われた技と同じものだ
あの時も勝利こそしたものの、結局技のタネを見破る事が出来ずに終わった
タネは分からなくても対策は可能だ。見えないものを無理に見ようとせず、他の感覚を研ぎ澄まして迎え打つ
右・・・左・・・よし、分かるぞ。技は同じでもユリウスさんの方が察知されないよう気配を消したりと工夫されていた分居場所が分かりづらかったけど彼女はそういったのがないから分かりやすい
「たぁ!」
彼女は掛け声と同時に背後から現れ、前傾姿勢で私の胴目掛けて一撃を放ってきた
先刻の構えから放たれる攻撃より数段鋭い。だがせっかく背後に回ったのに声を出しては奇襲にならないだろうに
すぐさま後ろを振り返りカウンターの一撃を彼女の面に放つ
「くっ・・・!きゃっ!」
「え?うわっ!」
自分の居場所を狙って来るとは思っていなかったのか、焦った彼女が軌道を変えようと無理矢理体勢を変えようとしたところ、道着を踏んでバランスを崩した
直前の事と予測していなかった動きが重なり、彼女が倒れてくるのを私は反応ができず受け止める形で転倒してしまった
「いたたた・・・・あれ?」
「おぉっ!」
2人で倒れていると何故か周りから歓声が上がる
上体を起こそうとするとなんだか下半身がスースーする。足下を見てみるとそこには私が下に穿いていた道着とそれを握りしめている彼女
今私は下半身下着のみ。連戦のせいで少し紐が緩んでいたがこれで最後だと思い放置していたのが仇となったか、この試合の激しい動きで更に緩み彼女が転倒の際に掴んだのがきっかけで脱げてしまったようだ
「いやぁこれはこれは、いいものを見れたわい」
「!!!!」
「ご、ごめんなさい!」
事態に気がついた彼女が咄嗟に私の元を離れる。そのせいで彼女の体で隠れていた部分が更に露わになり、それによって周りが更に盛り上がった
私は脱兎の如くこの場を去ろうと転移の魔法を使って道場から退散した。彼女の技について詳しく聞きたかったし道着等身に着けたままだったがそんな事はお構い無し
まさかこんな恥ずかしい思いをするとは。試合には勝ってた筈なのに何故か負けたような気持ちだ・・・・
その後人目のつかない所で急いで着替えをしてから少し遅れて集合場所へと戻った
宿で着たのと似たような感じの浴衣を人数分購入し、お昼は海を眺めながらの昼食を食べたりと港町での観光を皆と楽しんだ
そして夜、明日は海底都市へと向かう日。なので港町での食事はこれで最後となる
夕食は牛の肉や野菜、豆腐という白い塊を甘辛い汁に入れて煮込んだものでお酒が進む進む
その時に私は今日起きた出来事を話のタネとして皆に話した
「ってことがあってさ、散々だったよ」
「それは災難でしたねぇ」
「その者達の記憶を全部消しちゃいましょう♪」
などと冗談めかして話している様に見えて目が本気のフレイヤは珍しく酔っていて、適当に話を聞いているとそのうち眠りについてしまった
そして今度は私の話を横で聞いていたセレーネがこちらにすり寄ってきて耳元で呟いた
「ボクは君のパンツが見られたことより新しい剣をボクの前でこれみよがしに見せびらかしている方がショックだよ。ボクというものがありながら浮気をするんて」
「そんなつもりはなかったけど・・・いざという時があったらその時はお願いするよ」
「ボクとは都合のいい体だけの関係だったんだね!まぁボクは寛大だから今回許してあげるよ」
いちいち誤解を招くような言い方でこちらをからかってくるセレーネの言葉を話半分に流す。とにかく旅の恥はかき捨てという事で今日の事は飲んで忘れようとお酒をたくさん注文して夜遅くまで付き合ってもらった
途中お酒の肴として今日購入した浴衣のお披露目会をしようということになり、各自選んだ浴衣を着て見せびらかすという謎の催しが開催された
そんな風に楽しみながら何度目かにした注文の品を運んできてくれた従業員が扉を叩いてきた
「失礼します。追加注文の品をお持ちしました」
「ありがとうございま・・・・ん?」
注文した品を持ってきてくれた従業員を見ると、見覚えのある姿をしていた。座ったまま頭を下げてて顔は分からないし髪を束ねているから分からないが、雰囲気が道場で出会ったあの女性と似ている
やがて女性が顔を上げると目が合った。やはり彼女で間違いない
私が誰だか分かった彼女は途端に顔が青ざめ、私の元へと駆けつけてきた
「あの時はすみませんでした!何でもするので命だけは!」
流れるような動きで土下座をし、他の部屋にまで聞こえてしまいそうな声量でひたすら謝り倒してきた
このままでは迷惑になりそうだったので一先ず彼女をなんとか落ち着かせ、仕事が終わったらまた私達の部屋に来てもらうように伝えた
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