108話 妖刀:白蓮
オストシア大陸に到着し、宿でのもてなしを堪能した翌日。私達は朝食を食べた後港町へと再びやってきた
宿を出る際に従業員から港町のお店が詳しく書かれている地図を貰い、各々が行きたい場所へと行くことにした
「じゃあお昼になったらまたここに集合ね。港町からはでないように気をつけてね」
「「はーい!」」
集合する時間を決めて皆とは別れ、私は武器屋へと向かうことにした
昨日通りを歩いていた時に見かけない武器を腰にぶら下げていた人を見て気になっていたのだ
地図に書かれている武器屋は港町の1番端に記されている。武器屋に行くまでの道中気になったお店には、武器屋に行った後にでも立ち寄ろうと地図に記しをつけておいた
「らっしゃい。見かけない顔だな観光客か?好きに見ていってくれ」
お店に到着し中に入ると店主に出迎えられ、周りを見渡すと無数の武器が所狭しと置かれていた
私達の所でもよく見かける武器から見た事の無いものまで選り取りみどり。食料品だけでなく武器類も豊富なのようだ
色々気になるものもあったが、私は昨日見かけた例の剣を探して店の中を物色した
探している剣はお店の1番奥に置かれていて纏めて箱の中に入れられていたので、その中の1つを手に取ってみる
箱に貼られてる説明書きの欄には刀と書かれている。鞘から抜いてみると私が持っているような直剣と違って刀身が反っていて細い。刃は片側だけにしかついていないようだ
刃には波のような模様が浮かび上がっている。刃文というらしく焼入れの際に生まれるものだという
物珍しそうに刀を眺めている私が気になったのか、店主が私に話しかけてきた
「そっちの棚の方にも刀があるから見てみるといい。そこに入っている刀は今手に持ってる安物の剣と違って名だたる名匠達が作り上げた一品達だぞ」
店主が言う棚の方へと行くと無数の木箱が置かれていて、それらを見ていくうちに1本の刀が目に留まった。その刀は他の刀と違って木箱がボロボロで、鞘も埃まみれだった
明らかに他の飾られている刀とは違う。間違って置いてしまったんだろうか
何気なく鞘から刀を引き抜こうとすると突然店主が声を荒らげた
「お、おい待て!その刀は駄目だ!」
「えっ?」
店主の制止を聞く前に刀を抜いてしまった
鞘を見た感じ暫く手入れされていない様に見えたが、刃こぼれはおろか錆のひとつもついていない
他の刀と決定的に違うのは刀身が真っ白だということ。相当な業物なのは間違いないだろう
こんな刀がどうしてこんな雑に扱われているのかと不思議に思っていると、どこからともなく声が聞こえてきた
「テ・・・ワタシヲ・・・シテ」
頭の中に直接女性のような声で誰かが語りかけてくる
何を言っているのかいまいち聞き取れないが、私に何かを伝えようとしているのか?
なんとか言葉を聞き取ろうとするが、聞こうとすればする程頭の中が真っ白になっていくように思考が鈍っていくのを感じた
店主が私に声をかけているようだが何を言っているのか分からない。恐らくは精神支配系の魔法かなにかだろう。店主の様子から察してこの刀が原因なのか
かなり強力だがまだ間に合う。完全に精神が支配される前に精神支配を完全無効化できる魔法を自身にかけると、頭の中の霧が晴れていった
危なかった。もう少し対応が遅れていたら完全に飲み込まれるところだったな
気持ちが落ち着いてから再度声に耳を傾けると、私に向かって呼びかけていた声が段々と鮮明に聞き取れるようになった
「ワタシヲ・・・カイホウシテ」
私に語りかけていた声は救いを求めるものだったようで、それが聞こえると同時に目の前に着物姿の黒髪の女性が現れた
この女性は刀にとり憑いていたのか?その割にはあまり怖さを感じないな
女性と目が合うと私が見えてる事に気づいたようで、私の元へとゆっくり向かってきて口を開いた
「貴女は私の姿が見えるのですね。私の声を聞いて精神が支配されなかったのは貴女が初めてです」
「あなたはどうして救いを求めているのに相手の精神を支配しようとするんですか?」
「あれは私の意思に反して自動的に発動してしまうのです。それも私がこの刀に怨念としてとり憑いていたしまったのが事の始まりなのです」
そこから名も無き女性は淡々と刀の怨念となった経緯を話し始めた
彼女は昔名のある刀工として刀を打っていたらしく、この刀も彼女が作ったうちの1本だそうだ
この刀は暴君と呼ばれていた大名からの直々の依頼によって作られた刀で、断ることが出来なかった彼女は大名の無理難題を聞き入れ、寝食を忘れて一心不乱に打ち続けて大名を頷かせる程の渾身の一振りを完成させることができた
しかし自分が持つ刀より優れた刀を作られる可能性を頑として認めなかった暴君は、その元を絶とうということで彼女を亡き者にしようという暴挙に出たという
その無念から彼女は刀にとり憑き、持ち主である大名の精神を破壊して廃人にした
その後呪われた刀として人の手に渡っては廃人にしてまた他へと渡り渡ってこの武器屋にやってきたそうだ
先程も彼女が言っていたが精神支配は自分の意思関係なく発動してしまうようで、自分を殺めた元凶の大名以外はそんな事をするつもりはなかったらしい
これ以上被害が出ないようにと彼女は手にした者に助けを求めていたが、声が届く前に精神を犯されてしまっていたので苦悩していたようだ
そこで今回私が現れたということになる
「分かりました。私はあなたの事を成仏させてあげればいいんですね。できるだけ苦しまないようにします。最後に何か言い残すことはありますか?」
「そうですね・・・そうだ、この刀の名をお教えします。私にとってはこの刀は我が子のようなもの。後世に名を残して頂ければ幸いです。この刀の名は・・・」
その後私は彼女を浄化魔法を用いて成仏させた。中途半端な浄化魔法だとかえって成仏させる相手を苦しめてしまうので、一思いにいかせてもらった
店主には私が1人でブツブツと独り言を喋りだして終わったと思われたらしい
この刀は妖刀として有名でお客の手に渡らないよう倉庫の奥に保管しているそうだが、気がつけば商品棚に勝手に並んでる事がしばしばあったそうだ
この刀を買いたいと言うと店主は渋い顔をしつつも店から無くなってくれるならと、通常の半額の値段で売ってくれた
結果的にいい買い物ができた。この刀に慣れたいから暫くはこっちを使っていこう
「白蓮か・・・・早く試し斬りをしてみたいな」
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