100話 新たな家族
父が村に常駐してくれていた助産師さんを呼びに行き、家に戻って来るとそこから本格的に陣痛が始まった
私が思っているよりも出産というのは壮絶なもので息を飲む時間が続いた
その間私のできる事と言えば母の手をしっかりと握り声をかけてあげることくらいしかできない
それでもしないよりはマシだと懸命に声をかけながら母を見守り続ける
「母さん大丈夫。ゆっくり息吸ってからゆっくり吐いて」
「頑張れシェリー!」
「ゔぅ~!」
そんな感じで呼吸を整えながらいきむ。そしてまた呼吸を整えてと繰り返して時間が過ぎていく
お産が始まったのが夕暮れ時で、気がつけばいつの間にか辺りは真っ暗になっていた
季節は冬。大分気温が下がってきているのに母の体からは大量の汗が流れていた。その度に汗を拭いてあげては水分をしっかりと補給させる
「顔が出てきましたよ!もうひと踏ん張りですお母さん!」
助産師さんの声で出産もそろそろ終盤を迎えている事が分かった。母は残っている力を振り絞るようにいきむ
ゆっくりと、けど確実にお腹の中の子が姿を現す
そして長い痛みに耐えながら遂に出産を果たした
産まれてきた子が泣かなかったので助産師さんが赤ちゃんを持ち上げて背中を予想していたよりも強めの力で何度か叩くと・・・・
「おぎゃー!おぎゃー!」
出産が始まってから5時間弱。無事赤ちゃんが大きな産声をあげて産まれてきてくれた。元気な女の子だ
大仕事を終えてぐったりしている母を号泣しながら労う父
それを見た私も自然と涙が溢れてきた
今までどんな事があっても涙を流した事なんて一度なかったんだが・・・・泣かないなんて無理な話だ
「お疲れ様母さん。本当に・・・」
「ありがとう・・・早速だけど赤ちゃんの体を洗ってあげてちょうだい」
母に言われ、助産師さんにも見てもらいながら赤ちゃんを産湯に入れてあげて体を綺麗にしていく
なまじ力があるので痛くしないよう優しく布で洗う。洗っている間は大人しくしてくれていたのでその隙にほっぺを軽くつついてみた
押すとしっとりと吸いついてくるハリのある肌。これが産まれたての赤ちゃんの肌・・・・延々とやっていても飽きないくらいだ
するとほっぺを弄っていた私の指を赤ちゃんが握ってきたと思ったら、ほんの一瞬ではあったが天使のような明るい笑顔を見せてくれた
それを見ていた父と私はその笑顔に完全に落とされてしまった
洗ってあげた後は素早く体を拭き髪を乾かして毛布に包んで暖めてあげる
母が赤ちゃんを抱くとやはり様になっていた。ゆりかごのように優しく揺らしてあげると瞬く間に赤ちゃんは眠りについてしまった
準備しておいた赤ちゃん用のベッドに寝かせ、ようやく一段落ついたと思い椅子に座ろうとしたところで母が何かを思い出したかのような顔で私に尋ねてきた
「それでエレナ。この子の名前は決まったかしら?」
「・・・そうだった。すっかり忘れていた」
無事産まれてくるかどうかの心配と生まれてからの感動とで感情がぐちゃぐちゃになっててすっかり忘れていた
急いで頭を働かせて母の隣で寝ている赤ちゃんを見ながら名前を考える。純真無垢な寝顔、そして先程見せてくれたあの笑顔を思い出し、1つの名前が思い浮かんだ
「この子の名前はヒナタなんてどうかな?」
明るく朗らかな子に育って欲しいという私なりの思いを込めた名前。咄嗟に思いついた名前だったので2人の反応はどうだろうか・・・
「ヒナタ・・・いい名前じゃない。あなたはどう思う?」
「あぁ!凄くいい名前だ。これからよろしくなぁヒナタ〜」
2人にも気に入ってもらえたようでとりあえずは一安心。この子にも気に入ってもらえるといいな
ヒナタが生まれてから暫くの間は母の代わりに家事掃除に買い出しを引き受けた。たまにお風呂に入れさせたりおむつ替えをしたりと初めての事尽くしで最初は上手く行かずヒナタを泣かせてしまったりもしたが、時折見せてくれる天使の笑顔で疲れなんて吹き飛んだ
月に何度かフィオナ達も赤ちゃんを見にやってきてくれた。ヒナタが笑顔を見せると私と同じ様にメロメロにされて簡単に落ちていった
感情をあまり出さないシエルですらその有様なわけだから末恐ろしい・・・・
「いやぁぷにぷにしているなぁ。可愛いなぁ!」
「ヒナタが大きくなったら遊んであげて。ラミアスもこれからはお姉ちゃんになるからね」
「私がお姉ちゃん・・・!」
周りには同い年か歳上しかおらず自分が一番歳下だったラミアスにとってお姉ちゃんと呼ばれるのは初めての事で、その余韻に暫く浸っていた
ヒナタがラミアス位の歳になる頃にはラミアスも私ぐらいに成長するんだろうなぁ。2人の成長が楽しみだ
ヒナタは人懐っこく誰が抱っこしてあげても喜ぶ。ただ1人、フィオナの時だけは他の人とは違う行動をとる
フィオナが抱っこする時は必ずと言っていい程母の母乳を欲する時と同じ行動を起こす。その度にフィオナは困った表情でヒナタに謝る
「ごめんねヒナタちゃん。私はまだおっぱい出ないんですよぉ」
「あぅ〜・・・」
他の人が抱っこしていてもあぁはならないのに・・・本能的があの胸からは母乳が出ると勘違いしているのか
ヒナタが産まれて暫く経ち、ある程度落ち着いた後は私もレジティアに戻り通常通り仕事をこなした。それでも夜泣き等で母が眠れない時間を心配して今までより頻繁に実家に帰るようにし、私がヒナタの世話をしている間に母を休ませてあげるようにした
新年から怒涛の日々を送ることとなったが、充実していて毎日が楽しい
こんな日常がいつまでも続くといいな
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