10話 仲間が増えました
暫く抱きついていたフレイヤはようやく落ち着きを取り戻し、私から離れた
悠久の時を生きる竜にとって200年というのは大した歳月ではなかっただろう。しかし私が死んだ後でもそれだけの間ずっと想ってくれていた事が純粋に嬉しかった
久々の再会の余韻に浸っていると、先程から様子を隣で窺っていたフィオナが質問を投げかけてきた
「あのぉ、その方はエレナさんのお知り合いですか?」
「エレナさん?ご主人様の名前はエイ・・・むぐっ!」
【フレイヤちょっと待って】
即座にフレイヤの口を塞ぎ、竜族の言葉を使って制止する
竜族は人間の言葉とは異なる独自の言語を用いて会話する。昔フレイヤの故郷、赤竜族の里に赴いた際に教えてもらった
これなら話してる内容は分からないだろう
フレイヤには前世の事をうっかり漏らさないよう釘を刺しておかないとな
【いい?私は生まれ変わって今はエレナという名前で生活してるの。私が勇者エイクだということは誰も知らないし知られたくないから今後はエイクと呼ばないようにね】
【なるほど〜分かりました。それにしても随分と可愛らしいお姿になられましたね】
【そこは触れないでくれると助かるかな・・・ところでどうして私がエイクだって分かったの?】
フレイヤの話によると遡ること約16年前。勇者エイクと同じ魔力の反応一瞬だけだが感じ取ったという
恐らく私が転生した時だろう。死んだはずの私の魔力の反応を感知したフレイヤは私が生き返ったと信じて捜索を始めたらしい
人の姿になっているのはその為で、竜の姿だと恐れられて話が出来ないということで覚えたそうだ
私を探し始めたのはいいものの、感知できたのは一瞬でその後は全く音沙汰なし。分かっていたのはこの大陸で反応があったことだけだったので、大陸中を虱潰しに探し回ったようだ
このエルド村にやってきたのは一月程前で、始めは洞窟の中にいた魔物や近くを通る盗賊達を脅して確保していたみたいだが、次第に魔物もいなくなり盗賊達もこの辺りを避けて通るようになって食料が確保できなくなったことで村から・・・という経緯らしい
事情は把握したが、それでも人の物を盗むような行為は許されることではない
【私をずっと探してくれていたのは凄く嬉しいけど人の物を盗むなんてこともうしちゃ駄目だからね?】
【すみません・・・】
フレイヤも反省しているようだしこの件は解決、と言いたいところだが村に与えた損害に対する賠償をどうするか・・・聞いた限りでは相当な量のようだ
形はどうあれこの件のきっかけになったのは私でもあるからどうにかしてあげたいところだが、果たして私の所持金だけで払い切れるのだろうか・・・
どうしたものかと頭を捻らせていると、ふとフレイヤの後方にあるものが視界に入った
それは大量に積まれている麻袋で見た感じまだ中に入っている。食料ではないのは確かだろうが・・・何が入っているのだろうか
【フレイヤあれは?】
【あーあれは全て金品の類ですね。盗賊から食料頂く時に一緒に持ってきちゃったんですが食べられないからその辺に置いておいたんです。よければご主人様に全て差し上げます】
いやいやそのお金を使って食料買えばよかったのでは・・・とツッコミたいところだったが、そういえばお金で物を買うという概念は竜族にはなかったんだっけ
稀にお金や宝石を好んで収集する変わった竜もいるらしいが、収集するのが目的であって使う為に集めている訳ではないらしいし・・・フレイヤには今度しっかりお金の使い方を教えてあげないといけないな
とにかくこれだけあれば被害額は弁償することができる。あとは誠心誠意謝るしかないな
「さっきからよく分からない言葉で喋って私を除け者にしてー!私も混ぜてくださいよ!」
しまった。話し込んでいてフィオナの事をすっかり忘れていた
事情を説明してフレイヤの事も紹介しないとな
「フィオナ、この子はフレイヤって言って私の昔の知り合いなんだ」
「ご主人様にお世話になっていましたフレイヤと言います」
「あっ私はフィオナと言います・・・ご主人様?」
呼び方に疑問を抱いているようだが、それ以上は突っ込まれなかったのでフィオナにも事の経緯を説明してフレイヤを連れて村に戻ることにした
袋の中身を確認をすると金銭や高価な装飾品がぎっしりと入れられていて袋1つだけでも損害分を出しても余りが出る程だが、同じような袋が50近くある。一体どれだけの盗賊を襲ったんだ・・・
フレイヤは私にくれると言っていたが、冒険者が盗賊から金品を回収して自分の物にする場合はギルドに2、3割程納めなくてはいけない
そして残りは自分達の物になるという仕組みだが・・・これだけの大金となると2、3割渡したとしても相当な額が手元に残るだろう
どれくらいの金額になるかは一先ず置いといて、今日はもう深夜を回っていたので明朝フレイヤと一緒に謝罪をすることにした
「ご主人様〜」
「姿は変わっても甘えてくるのは変わらないね」
ベッドは2つしか用意されていないので私とフレイヤが一緒に寝ることとなった
昔は良くフレイヤに体を寄せて一緒に寝ていたものだが、人の姿となった今は反対に私の懐に入ってきて甘えてくる
長い間ずっと私を探してくれていたのだからこれ位は許してあげよう
「ご主人様は大分変わられましたね。なんというか雰囲気が柔らかくなった気がします」
フレイヤにそう言われて昔の自分を思い返す。考えてみれば今より大分口数少なかったような気もする
仲間達とは最低限のコミュニケーションはとっていたつもりだが、あの頃は勇者としての重責もあって常に気も張っていたし我を出さないよう抑えていたからなぁ
「前の方が良かった?」
「そんなことありません!勿論前も素敵でしたが今はありのままのご主人様を見れている感じがして私はこっちの方が大好きです!」
「そ、そっか。ありがとうね」
面と向かってそう言われるとなんだか照れてしまうが、ありのままの自分を好きでいてくれるというのは嬉しいものだな
その夜はフレイヤにこれまでの話を聞かせてもらい、翌朝村長に事情を説明して農作物の損害分と迷惑料として金品の入った袋を2つ渡した。村人の人数を考えてもそれだけあれば今年は悠々と暮らす事が出来るだろう
村の人達はそれで快く許してくれたが、丹精込めて作った農作物を食べてしまった事実は消えない
再度フレイヤにはしっかりと言い聞かせておこう。フレイヤにとって私はご主人様なのだから
色々想定外な事はあったが仕事も無事終わり、街へと戻る準備をしているとフレイヤがおずおずと近寄ってきて口籠りながらも私に気持ちを伝えてきた
「あのご主人様・・・私もお供させていただきたいんですが・・・ダメですか?」
フレイヤからすればようやく再会することができたのだ。僅かな時間共に過ごしただけでお別れなんて出来ないだろう
それにしてもそんな上目遣いどこで覚えてきたんだ・・・見た目も相まって母性本能のようなものが湧いてくるな
私の答えは最初から決まっているのでフレイヤの頭を撫でながらそれを伝えあげる
「勿論いいよ。というか端からそのつもりだったんだけどね。フィオナはどう?」
「私も大歓迎ですよ!よろしくお願いしますねフレイヤちゃん」
「やったー!もう離れませんからねご主人様!」
こうしてフレイヤが仲間に加わり、3人パーティとなった。これから益々賑やかになりそうだ
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