1話 序盤からクライマックスです
最南端に位置する魔王が住まう城、ハラルド城
そこは単身で乗り込み、魔王討伐を目論む勇者がいた
白銀の鎧を身に纏い、手には金色の剣を持って襲いかかってくる魔王の配下達に次々と切り伏せていく
最上階に到着し扉を開けるとその先には魔王が待ち構えていた
「ふっ、まさかたった1人で我が城に乗り込んで来るとはな。勇者エイク」
「今日で長年に渡った戦いに終止符を打つ。覚悟しろ魔王!」
勇者エイクが剣を向けて宣言する
それを見ていた魔王は高らかに笑った
「ふはははっ!そう言って挑んできた勇者を何人も葬ってきた。貴様も他の勇者達と同じ場所へ連れて行ってやる!」
その言葉を皮切りに魔王との最終決戦が始まった
ありとあらゆる手段を用いて攻撃を仕掛けてくる魔王の攻撃を全て真っ向から受け止め反撃する
先代の勇者達を倒してきただけあってやはり一筋縄ではいかない
「ふっ、今までの勇者の中で貴様が一番骨があるな」
お互いがあと一歩攻め手に欠けてなかなか決着がつかずにいたが、それでも魔王は余裕の笑みを浮かべていた
魔王はこのハラルド城にいる限り延々と魔力を供給し続ける
今までの勇者は皆それが原因で敗れたのだろう
先程まで互角に渡り合っていたが、徐々に押され始め傷が増えていった
このまま長期戦となると負けは目に見えている。やはり強力な一撃で魔王を上回って倒すしかない
勇者は傷だらけになった体で剣を振り上げ、全魔力を剣に注ぎ魔王に向けて放った
「この一撃で終わりにしてやる!"聖剣の断罪"!」
「終わるのは貴様だ!"暗黒星雲"!」
両者の放った攻撃が激しくぶつかり合う
しかし勇者の全魔力を注いだ渾身の一撃でも魔王には届かない
(このままでは負ける・・・やはりあれを使うしかないか)
勇者が覚悟を決めると突然体が白く輝きだす
すると攻撃の威力が上がり魔王の攻撃を押し始めた
これには魔王も予期していなかったようで、初めて焦りの表情を見せた
「貴様!なんだその技は!」
「"生命変換"自分の生命力を削る事によって一時的に攻撃を大幅に強化する俺の固有魔法だ。出来れば使いたくなかったがな」
奥の手を使って優位にはなったものの魔王も負けじと食らいついてくる
生命変換は1度の消費が激しい。これ以上使うと命の危険があるが、魔王は膨大な魔力を保有しているのでこのまま粘られるとこちらが先に限界がきてしまう
勇者は一瞬の逡巡の後、再び生命変換を発動した
「うおおおおおおおお!!!」
「馬鹿な!?貴様刺し違えるつもりか!」
更に生命変換を発動する。3度目の発動で胸を締めつけられるような痛みが勇者を襲い、傷口から勢いよく血が噴き出す
3度に渡る生命変換によって遂に勇者の攻撃が魔王に直撃した
「ぐわああああああ!!!おのれ勇者めえええ!!!」
限界を迎えた勇者は倒れ伏しながら魔王の方を見ると、霞んでいく目で魔王の姿が霧散していくのを確認した
長年苦しめられた魔王の侵攻もようやく終わりを迎えたのだとホッと心の中で息をつく
「エイク!」
「勇者様!!」
「エイク殿!」
仲間のカルラ、セーニャ、アレンの声が聞こえてきた
どうやら1人で乗り込んだのに気づいて追いかけて来たようだ
こちらに近寄ってくる気配がするが生憎もう目が見えない
生命変換を立て続けに使用したのはやはりまずかったようだ
手を強く握られ必死に呼びかけてくる声が聞こえてきたが、段々と3人の声が遠くなっていき、やがて視界が真っ暗になった
突如意識が戻ると俺は見知らぬ空間にいた
魔王を倒した後自分も事切れたはずだ。つまりここは・・・
「そうか、ここは天国か」
ここが天国だと察すると途端に力が抜けていき、仰向けで大の字になった
ようやく勇者の重責から解放されて肩の荷がおりたようだった
勇者になってからというもの、休む暇もなく毎日毎日打倒魔王の生活で正直辛かったが、人類の命運を各国の王に頼まれては断る事も出来ず無理矢理勇者を演じ続けてきた
魔王を倒した後だったらのんびりと暮らせる日々が待っていたかもしれないのに自分まで死んじゃ意味がないだろう・・・馬鹿なことをした
だがカルラ、セーニャ、アレンを危険に晒さずに済んで良かった
あの3人は周りと比較すると十分手練れではあったが、まだ若くこれからの人材だ
俺がいなくなったあとはあの3人が中心となって国を守ってくれることだろう
「これからどうなるのかなぁ」
「初めまして、勇者エイクさん」
不意に女性の声で名前を呼ばれ驚く
振り向くと目の前には現世で見た事のない絶世の美女が座っていた
こちらと目が合うと女性は自己紹介を始めた
「私は女神ルキナス。勇者エイクさん、貴方は自分の命も顧みず見事魔王を倒しました。その功績を称えて貴方に転生する権利を与えましょう」
「女神様・・・転生?」
あまりにいきなりのことで頭が回らない・・・1つずつ処理していこう
この女神の名はルキナス。自分達の国では誕生の女神と知られていて確か王都に彫像も置かれていたな
その女神が魔王を倒した褒美として転生、つまり新たに人生を始める権利をくれるというのか
もしそれが本当ならば心残りがあった俺には願ってもいない話だ
けどその前にいくつか質問させてもらいたい
「俺、いや私が生まれ変わる時代は何時になるのでしょうか?」
「そうですね、200年後位の世界に転生してもらうことにしましょうか」
200年後か。それだけ年月が経てば流石に魔王軍の残党もいなくなって平穏な世界になっているだろう
更に質問を女神に投げかける
「前世の記憶は残りますか?」
「はい。貴方の記憶は新しい体にそのまま引き継がれます」
良かった。勇者になって色々辛い目にあったものの良い思い出も勿論ある
それを全て忘れてしまうのは少し寂しいものだ
「最後の質問ですが、転生の権利を行使しなかった場合はどうなるんですか?」
「その時は天国へと行っていただきますが・・・正直天国はオススメしませんよ。変わり映えのしない景色で毎日同じような事の繰り返し。そういうのが好きな人にはいいかもしれませんがね」
それは確かに退屈かもしれない
となると必然的に選択肢は1つしかないな
「女神ルキナス様。私は2度目の人生を選択します」
「分かりました。では転生時に何か望むものはありますか?容姿や身分等希望があればそのようにしますよ」
望むもの・・・正直言ってあまりない
お金なんて必要最低限でいいし貴族のような立派な身分が欲しいわけでもない
ただ平穏な日々が送れればそれでよかった
なので俺は女神様にその旨をそのまま伝えた
「ごく普通の家庭でのんびりと過ごせれば私はそれでいいので他はお任せします」
「分かりました、では私の好みで色々決めさせてもらいますね♪」
女神様にも男の好みとかあるんだなぁと些細な事を考えていると足元に大きな魔法陣が現れ、体が宙へと浮き上がり始めた
どうやら転生が始まるようだ。この体ともこれでお別れということか
「勇者エイクさん。2度目の人生がどうか良きものになるよう願っています」
女神の言葉を最後に再び視界が真っ暗になる
1度目の人生は世界の為に身を粉にして尽くしたんだ。2度目は自分の好きなように生きるぞ!
読んでいただきありがとうございます
次回更新は水曜日19時です。よろしくお願いします!
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