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今日も土地神は暴走中です。  作者: かみきほりと
本編
6/31

04 みんなで食べると楽しいね。

 外に出たついでに、静熊神社に立ち寄る。

 たとえ名前だけとはいえ、ここの関係者だ。

 困っていたら、手伝ってやりたい。……ぐらいのことは、ずっと思ってた。


 軽くお辞儀をして鳥居をくぐる。

 小さな神社だ。居ればすぐに見つかるだろう。……と思ったが姿が見えない。

 巡回に出てるのだろうか。


 考えてみれば、この神社の事をほとんど知らない。

 待ってる間に、いろいろ見て回ろう。


「エイタ、何してんだ?」


 聞き覚えのある子どもの声がする。……なのに姿が見えない。

 気のせいかと思い、再び歩き出す。


「おい、エイタ。こっちだって!」


 見つけた。

 事務所……社務所だっけ?

 その建物の窓から、あの少年が、こちらを見て手を振っている。

 窓に近づいて話しかける。

 

「よっ、ミヤチ……だっけ。こんな場所で何してんだ?」


「遊びに来た。シズナ姉ちゃんも中にいるよ。エイタもこっち来いよ」


 そういうと、トタトタ足音を鳴らして奥へ引っ込んだ。

 チラッと中を見ると、畳の部屋に座敷机(テーブル)が置いてあり、見知らぬ少女が湯飲みを手にしながら、こちらに向かって会釈してきた。

 状況が分からんが、とりあえず会釈を返す。


──そういや、雫奈が言ってたな。これが噂のミヤチの彼女か?

 少し大人しそうだが、なかなか整った顔立ちの女の子だ。

 それに、どことなく利発そうな印象を受ける。


 お客がいるなら帰ろうかと思ったが……

 相手がミヤチなら、ここで帰るほうが不自然だ。

 入口へと向かう。

 

 前までくると、勝手に引き戸が開く。

 来客を知らせる鈴の音が心地よい。

 だが、引き戸の音は静かだ。ちゃんと手入れがされているのだろう。

 建物の中から、ぴょこんとミヤチが顔を出した。なんだか嬉しそうだ。

 

「ほら、早く上がって」


 お前の家じゃないだろ! と、心の中でツッコミつつ、中に入る。

 ここに入るのは初めてだが、新品とはいかないまでも、柱や床板が輝いて見える。それに、少し広いとは思うが、普通の住居にもありそうな玄関だ。

 扉を閉めて、靴を脱ぐ。揃えて隅のほうに置くのも忘れない。

 ついでに、ミヤチの靴もそろえてやる。


 勝手にスリッパを拝借して歩く。

 廊下もピカピカだ。


 障子の隙間から、ミヤチが顔を出して手招きしている。

 部屋に入ると、さっきの女の子がいた。

 その向こうにあるのが、さっき俺がミヤチと話していた窓なのだろう。

 ここからだと境内の様子がよく見える。


「ちょっと僕、シズナ姉ちゃんを呼んでくるね」


 なんとも忙しい奴だ。

 やけにはしゃいでいるように見えるが、これが本来のミヤチなのだろうか。


──つーか、初対面同士を放っていくなよな……


 部屋の隅に積まれた座布団を、勝手に使って座る。

 正座でもいいが、ここは楽に胡坐(あぐら)をかかせてもらおう。


「よっ、俺は繰形栄太。ここの使用人みたいなもんだ。俺の事は気にせず、ゆっくりしてってくれ」

「はい。鷹持縁(たかもちゆかり)っていいます。お邪魔しています」


 なんだろ。じっと見られている気がする。


「おお、そうか。俺のことは栄太って呼んでくれ。別に呼び捨てでも構わんぞ」

「はい、エイタさん。じゃあ私も、縁って呼んでください」


 やっぱり見られてる。

 

 こういう時はテレビに限る……が、この部屋にはないようだ。

 まあ、俺の部屋にもないが。

 

 窓の外を眺めててもいいが。ここはやっぱり……

 

「なあ、ユカリって、ミヤチのこと、好きなの?」


 次の瞬間、頭に衝撃が走った。……と同時に、何か白いものが宙を舞う。


「ちょっ……お前、なに聞いてんだよ!」


 振り向けばミヤチが、何やら白い物体を持ち、真っ赤になってニラんでいた。

 さっきは、足音が鳴ってたのに、なんで今は全く音がしなかったんだ?

 白い物体の正体は、大根だった。その欠片をユカリが、丁寧に拾っている。


「いや、まあ、大事な事だろ? お前、ユカリが他の奴と付き合うって聞いて、動揺してたし。今度また、そんなことがあったら、大変だろ?」

「だからって聞くか? 普通……」

「え? でも二人、付き合ってんだろ?」


 ミヤチが言葉を詰まらせ、チラチラとユカリの方を見る。


「私はダイくんのこと、大好きですよ。でも、まだ付き合ってないんです」


 なんだか、予想と違ってきた。

 てっきりミヤチの片思いだと予想していたのに、ユカリのほうが積極的だ。


「そうか。でも、まだってことは、その気はあるってことだよな」

「はい、もちろん。でも、ダイくんが嫌がるんです」


「そっか。クラスの奴らにからかわれるのが恥ずかしい……とか、そんな感じか」

「そうみたいです。かわいいですよね」


 なんというか、相当変わり者っていうか、なかなかに心が強そうな子だ。


「だったらなんで、噂を信じたフリをして、距離を取ったんだ?」


「あのまま一緒だったら、ダイくんがもっと悪く言われるって思って。それに、犯人を見つけて、ちょっとお仕置きしようかと思ったんですけど……」

「先にミヤチがブチ切れたってわけか……なるほどな」


 この様子だと、ついでに、なかなか付き合ってくれないミヤチに、揺さぶりをかけたってことも十分にあり得る。これは将来が楽しみだ。

 それにしても、ミヤチが、やけに大人しい。

 もっと騒いで話を止めにくるかと思ったのに、黙ったままこっちを見ている。真剣な表情だが、怒りや敵意は感じない。


「ミヤチ、悪い事は言わん。この子を大切にして、絶対に逃がすなよ。この子の前じゃ、つまらん意地やプライドは必要ないからな。よく覚えとけよ」

「うん、分かった。気を付けるようにする」

「なんだ、やけに素直だな。まあ、そのほうが俺も助かるが」


 いや、本当にどうした?

 これだけ素直だと、逆に心配になってくる。


 それにしても、ダイくんか……

 そこで、大事なことに気が付く。


「そういや、俺、ミヤチのフルネーム、聞いたこと無かったな」

「えっ? 雅地功大(みやちこうだい)だけど。言ってなかったっけ?」

「いやスマン。俺の記憶が抜け落ちただけかも知れんが。ミヤチコウダイ、ミヤチ、コウダイだな。よし、覚えた」


 そんなことを話していると、廊下のほうから、足音が聞こえて来た。

 ……ってか、雫奈(コイツ)は足音を立てるんだな。

 勝手な想像だが、てっきり足音を立てないと思ってた。それどころか、空を飛んでも不思議はない。……とさえ思っている。


「みんな、お待たせ。栄太もごめんね、待たせちゃって」

「おう、邪魔してるぞ」


 おおっ、これは……

 やはり神社で奉仕をするなら、それなりの格好ってものがあるだろう。

 そう思って、作務衣を作ってあげたのだが……

 雫奈は、そのついでに作った巫女姿で現れた。しかも、エプロンを付けて。


「……って、なんだその格好は!」


 しかも、たすきを掛けて、動きやすくしている。

 激レア衣装ではあるが、どうせなら、もうちょっとエプロンのデザインを……じゃなくて!

 これって、神様とか、いろんな人に怒られたりしないか? 大丈夫なのか?


「どう? 似合ってるでしょ」

「いやまあ似合ってるが、エプロンのせいで、おかしな雰囲気になってるぞ。それより作務衣はどうした?」

「う~ん、アレも悪くないんだけど、やっぱりこっちのほうが、こう身体に馴染む感じがするのよね」


 ホントなら、神職の衣装を描いてあげたかった。だが、いまいち雫奈に合うイメージが涌かずに中断した。その代わりに描いたのが、この巫女服だ。、

 これなら、資料は山ほどある。

 もちろん神職装束が仕上がるまでの、代わりの衣装であって、他意はない。


「ダイくん。大根、もしかして切らしちゃってた?」


 大根……って、さっきのか?


 拾い集めたユカリが、見事にポッキリ折れ、三つのカタマリと、小さな破片に変わり果てた大根を、そっと雫奈に差し出した。




 なんだか外が騒がしい。

 サイレンの音だ。


「今のは、消防車か? なんか最近多いな」

「そうなのよね。心配だわ……」


 雫奈の言う通り、火事も心配だが……


 どいうわけか、ミヤチやユカリと一緒に、食卓を囲んでいた。しかも……


「真っ昼間から、鍋って……」

「エイタさん、ご飯をよそいましょうか?」

「いや、鍋の具、あまらせたら勿体ないし、ヤメとく。気にせず食べてくれ」


 ユカリは、気の利く、とても良い子だった。

 ミヤチのほうは……やっぱり、なんだか大人しい。

 大根のことなら、ちゃんと洗って一部は具材に、残りは大根おろしにして、余さず使ってある。だから、気にしなくてもいいんだが。


「でもいいのか? 外食とか、二人の親は大丈夫なのか?」


 ユカリが箸を止めて、こっちを見る。


「全然、大丈夫ですよ。今日も両親は家にいませんから。みんなで食べるのって、楽しいですね」

「そっか。休日なのに、両親、忙しいんだな。ミヤチもか?」

「うちは、シズナ姉ちゃんとこへ行くって言えば、平気だよ」


「うん、私がちゃんと連絡したから、大丈夫。こう見えても私、信頼されてるんだから。この食材だって、商店街の人から頂いたものだし」

 新しい具材を鍋に投入しながら、雫奈が胸を張る。


 ……って、ちょっと待て。これ、絶対に食べきれない量だぞ!


「心配しなくても大丈夫。余ったら、ちゃんと保存しておくから」


 ホンット便利だな。冷蔵庫が泣くぞ!




 昼間っからこんなに食べるもんじゃないな。

 お腹がいっぱいだ。このまま横になれば、どれだけ心地いいだろうか。

 さすがに、お客様の前で、そんなことはしないが。


「雫奈、ここって社務所だろ?」

「ん~、まあそうだけど」

「それにしては、普通の家っぽくないか?」


 トイレも風呂も、キッチンもある。ベランダに物干し、地下に貯蔵庫まである。

 いやまあ、地下貯蔵庫のある家は、そうそうないかも知れないが。


「栄太は知らなかったっけ。ここって、社務所も兼ねてるけど、神社の関係者が住む家なんだって」


「なんで、兄ちゃんが知らないんだよ。ここの偉いさんなんだろ?」

 ミヤチもあきれ顔だ。


「いや、だから言ったろ? 肩書こそ偉そうだが、実際は使用人みたいなもんだって。……いや、ミヤチには言ってなかったか?」

「聞いてないって。ホント兄ちゃん、苦労してるんだな」


 ちょっと待て、こいつ今……


「おい、ミヤチ。今、俺のこと『兄ちゃん』って呼んだか?」

「うん言ったよ。シズナさんのこと『姉ちゃん』って呼んでるのに、エイタは呼び捨てって可哀想だろ? 嫌だったらヤメるけど」

「いや、それは全く構わんが。……まあ、ちょっとビックリしただけだ」


 さすがに驚いたが、そうやって慕ってくれるのなら、悪い気はしない。たとえ、理由が「可哀想だから」だったとしても。

 でも、まだミヤチの表情は暗い。


「兄ちゃん、殺そうとして、本当にごめんな……」


 慌ててミヤチの口を塞ぐ。

 ちょっと待て、お前、何を言い出してんだよ!

 ここには、ユカリも居るんだぞ!


「ちょっと待て、ミヤチ、ちょっと落ち着こうか。ユカリも見てる」


「あっ、ユカリちゃんなら大丈夫。全部知ってるよ。三人組に怒って、何をしようとしたかも、邪魔しようとした栄太を殺そうとしたことも」

「えっ? どういうことだ」

「ああ。なんだかユカリちゃん、三人組の企みを知ってたらしくて、どうやって懲らしめようかって考えてたんだって」


 たぶんそれは、さっきも聞いた気がする。


「なのに、いきなり三人組が謝ってきたから、なんでだろって気になってたらしくて。だから、全部教えてあげたのよ」


 マジか、この暴走女神。……って、ちょっと待て!


「えっ? つまり全部知った上で、今もミヤチのことが好きだって……」


「はい、大好きですよ。私のために、こんなに怒って、そこまでしようって思ってくれるなんて、感動ですよね」


 おいおい待て、夢見るお嬢様ってレベルじゃねぇぞ!

 常識は、どこへやった!


「あっ、もちろん本当に犯罪者さんになったら困りますよ。だから、それを止めてくれたエイタさんのこと、気になってたんです。お会いできて嬉しいです」


 だから俺のこと、ずっと見てたのか。

 ……おっと、忘れてた。

 苦しそうにしてるミヤチを解放してやる。


「ったく、落ち着くのは兄ちゃんだよ」


 苦しそうに咳をしている。……って、そんな大げさな。

 全然チカラ、入ってなかっただろ?


「悪かった。スマン、スマン」

 とりあえず謝る。


「いや、だから、危険な目に合わせて、本当にごめんない。それと、止めてくれて、本当にありがとう。……これだけは、絶対に言っておきたかったんだ」


「そっか、わざわざ来てくれてありがとうな。あー、だからか。ずっと元気がなかったのは。もっと早く行ってくれれば良かったのに」


「でも、せっかくシズナ姉ちゃんが、ご飯作ってくれてるのに、食べてる時に気まずかったら悪いだろ?」


 結局のところ、コイツ、いい奴なんだよな。


「ったく、もう、しょうがねぇなぁ。可愛い奴め」

 ギュッと抱きしめて、頭をわしゃわしゃしてやる。


「まあ、正直に言えば、アレでは俺どころか、そうそう人は殺せないけどな」

「なんだよそれ。兄ちゃん、何度も殺されかけたって言ってただろ」


 業者用のデッカイ奴ならともかく、子供が工作に使う奴では、さすがに……


「まあな。アレじゃ厚い生地の服は、そうそう貫けないし、横に力が加われば簡単に折れる。それでも、急所をやられたら、ホントに死ぬからな」


 最後に、頭をポンポンと叩いて解放してやる。


「絶対に解決してやる、なんてことは言えないが、相談ぐらいは乗ってやる。だから、あんまり危ない事はするなよ」


「わかったよ、兄ちゃん」




 エプロンやタスキを外し、巫女姿になった雫奈と一緒に、二人を見送る。

 笑顔で仲良く去っていく後ろ姿を見送りながら……


──ミヤチ、ユカリ、幸せになれよ……


 そっと心でつぶやいた。


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