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今日も土地神は暴走中です。  作者: かみきほりと
本編
5/31

03 ケガレを浄化します。

 そういえば、あの公園はボール遊びが禁止だった。

 雫奈に気を取られていて、完全に忘れていた。

 だからといって、今さら戻って注意するのも変だ。


──どうか少年たちよ、事件とか事故とか、起こしてくれるなよ。


 そうでないと、俺が後悔する。

 それに、雫奈も悲しむだろう。




 祠に手を合わせた後、メッセージをチェックする。

 珍しい。いとこの郡上美晴(ぐじょうみはる)からだ。

 どうやら叔父さん──美晴の父が、俺のことを心配してるらしい。

 その気持ちは嬉しいが、ちょっと過保護すぎる気がする。

 仕事も順調で、全く問題ない。……と返信する。

 さすがに、雫奈の事は伝えられない。それに、ちゃんと説明できる自身がない。

 土地神と一緒に世直ししてます。……なんてものを送ったら、血相を変えて、すっ飛んでくるに違いない。絶対に面倒なことになる。


 チラリと隣を見る。

 どうやら雫奈も、祠の神様との会話が終わったようだ。

 

「そろそろメシの時間だが、どうする? どこか近くの店に寄ってもいいけど」

「ちょっと待って。その前に行くところがあるの。栄太も付いて来て」


 おそらく祠の神様から、何かを聞いたのだろう。

 それなら仕方がない。素直に付いて行くとしよう。


 あまり人を見かけなかったが、脇道に入ると更に人の気配が無くなった。

 木々の間の小径を進んでいくと、何かの施設だろうか、コンクリートの壁が見えてきた。……それに人影も。

 どうやら、子供たちのようだ。


「……見つけた」


 雫奈が探していたのは、この子たちなのだろう。

 三……、いや四人か?

 少し剣呑な雰囲気だ。


「アイツら、こんなとこで何やってんだ?」

「栄太、もうちょっと近づくから、気付かれないように付いて来て」


 すぐ前を、雫奈が音も無くどんどん進んでいく。さすがの身のこなしだ。

 こっちも頭を低くして、そっと近づく。


「なんだか言い争ってるようね」

「止めるか?」

「ちょっと待って。できれば誰も逃がしたくない。すぐに準備するね」


 何をする気なのか分からないが、何かをするつもりなのだろう。

 周りを見て、木の配置や隠れられそうな場所を確認する。


「栄太、お待たせ。合図を出したら、地面に座り込んでる子を取り押さえて。かなり狂暴だから、気を付けてね」

「おう、任せろ」


 見たところ、相手は小学生か、せいぜい中学生。

 俺のほうがまだ大きく、力も強い……はずだ。

 さすがに、こんな子供に負けるつもりはないが……

 でもまあ、せっかくの神のお告げだ。せいぜい気を付けることにしよう。


 ポンと背中を叩かれる。たぶん、これが合図だ。

 できるだけ音を立てず、死角を意識して進んでいく。

 どうやら、座り込んでいる一人と、立っている三人との喧嘩のようだ。

 もうすでに、暴力が振るわれている。


「ちょっとあなたたち、動かないでね。こんな所で何をしてるのかな?」


 雫奈の姿を見て、子供たちが驚いている。……いや、もがいてる?

 どうやら植物のツルが、足に絡まっているようだ。

 ターゲットの背後から、そっと近づく。


「栄太っ!!」


 雫奈のそんな声、初めて聞いた。……と思ったら、光が迫ってくる。

 子供とは思えない気迫と鋭さで、振り向きざまに突いてきた。

 半身を引いて空を切らせ、目の前の手首を素早くつかむ。


──コイツ、刃物なんて持ってやがったのか!


 しかも、迷いなく心臓を狙ってきやがった。

 神のお告げのお陰で助かった。警戒してなかったらヤバかった。

 コイツ、子供の喧嘩で、相手を刺そうとしてたのか?


 そのまま手首をひねり上げる。

 手から離れたカッターナイフを、地面に落ちる前に遠くへ蹴り飛ばす。

 さらに、相手の腕をひねって背後を取り、顔を地面に押し付けるようにして動きを封じる。うつ伏せになった相手は、激しく抵抗をするが、こうなっては簡単には抜け出せない。……はずだ。


 刃物にビビったか、三人組は怯えてへたり込んでいる。

 そんな子供たちの前に、仁王立ちする雫奈。


「あなたたち、ケンカなんてしちゃダメでしょ」

 コツン、コツン、コツンと軽く頭にゲンコツを落として行く。


 いやいや雫奈さんや、幼稚園児じゃないんだぞ。

 心の中でツッコミを入れるが……


「「「おにいさん、おねえさん、ごめんなさい。もう悪い事はしません」」」


 へたりこんでた奴らが普通に立ち上がると、憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔で、素直に謝罪してきた。

 どうなってんだ?

 拘束が解かれた三人組は、頭をペコリと下げて去っていく。……笑顔で。


 まあいい。あとは、コイツだ。

 手加減しているとはいえ、そうそう動けないはず。

 なのに、諦めずに抵抗してくる。


 雫奈が近づき、俺の耳元でささやく。


「ごめん、栄太。まさか、武器まで用意してるなんて思わなかった」


 ちょっ、雫奈さん、近いんだが……

 ただのナイショ話だろ? ……もちろん、ちゃんと分かってるさ。

 だから、俺の心臓よ。落ち着け!


「そ、その話はあとだ。これで解決したんだろ?」

「それがまだなんだよね」

「えっ? じゃあ、これ、どうすんだ?」


 この子供にしてみれば、俺もあの三人組と同類だろう。もし親か何かが出てくれば、俺が首謀者にされかねん。俺が社会的に死ぬ。

 雫奈は何か、難しい顔をして考え込んでいる。


「ちょっと、いろいろ試してるんだけど、どうも上手くいかないのよね」


 さっぱり分からん!


「どういうことか、聞いてもいいか?」

「うーん、そうね。簡単に言うとね、この子の心を探ってるんだけど、複雑すぎてよく分からなくて」


 心を……探る?


「何を探してるんだ?」

「この子が抱えてる穢れ(ケガレ)……かな。う~ん、この子を狂気に駆り立てる原因って言ったら伝わるかな」


 やっぱり分からん!


「さっきの三人組みたいに、頭をコツンじゃダメなのか?」

「ケガレが表面についてるだけなら、それでもいいんだけど。この子の場合は、中に入り込んでるからね。中の構造が複雑で上手く解析できないのよね」

「よく分からんから、それは雫奈に任せる。で、俺はどうすればいい?」

「そうね。その子の悩みを聞いてあげて。たぶん、それが原因だから」


 悩み相談とか、俺に出来ると思うのか?

 なかなかの無茶振りだ。

 とはいえ、ここままだと暴力事件の主犯にされかねん。

 嫌でも手伝うしかない。


 とにかく和解をする必要がある。

 優しく手を引っ張り、子供の上半身を起こしてやる。


「手荒な真似をして悪かった。放っておくと、取り返しのつかないことになりそうだったんで、勝手に出しゃばった」


 かなり気の強い子供のようだ。ふくれっ面で睨んでくる。

 だが、刃物で攻撃して、この程度で済んだのだから、感謝して欲しいぐらいだ。


「そんな顔するなよ。アイツらも反省して帰ったし、これでケンカも終わりだ。まだ何か、他に心配事でもあるのか?」


「反省したって、そんなの信じられるか」


 やっと子供が言葉を話した。一歩前進だ。


「まあそれは、次に会えば分かることだ。お前の心配事はそれだけか?」

「お前って言うな!」

「そう言われてもな。名前、知らないし。なんて呼ばれたい?」

「ミヤチで……」

「じゃあ、ミヤチデはさ……」

「違う違う、ミヤチだ、ミヤチ」

「おおスマン、ミヤチだな。じゃあ俺の事も栄太と呼ぶことを許可するぞ」


 まだ思いっきり警戒されているが、とりあえず会話が出来ている。

 もうそろそろ、本題に入ってもいいだろう。


「なあミヤチ、お前は何を怒ってたんだ?」

「そんなの、どうでもいいだろ」

「いや、俺、それで殺されかけたんだが?」

「それは……悪かったって思ってる」

「追い詰められて暴発したって感じじゃなかったし、気のせいかも知れんが、誰かの為に自分がやらなきゃって、そう思ってなかったか?」

「なんで、そんなこと分かるんだよ」

「いやいや、分かんだって。気持ちの違いで、身体の動かし方が変わったりするもんだ。怖がってる時にさ、気合の入ってる時と同じように動けると思うか?」

「まあ、……そうだね」

「だから、身体の動かし方を見れば、なんとなく気持ちが分かったりすんだよ」

「それ、すごいな……」

「だろ?」


 一緒になって、雫奈もうなずいている。

 ……って、ちょっと雫奈さん? 目的、忘れてないよな?

 

「絶対に解決してやる……なんて約束はできんが、相談ぐらいは乗ってやるぞ」

「なんでエイタは、そんなに聞きたがるんだ? 別にどうでもいいことだろ?」

 

 肩を落としてため息を吐く。……もちろん演技だ。

 

「俺さ、いきなり神主になれって言われてさ……。神社にいる、あの神主」

「神社の偉い人だろ? すごいじゃん」

「でもほら、俺ってこんなだろ? らしくないのは自分でも分かってんだけど、やっぱ相談とかくるわけだ。そこでビシッと解決しなきゃ、バカにされちまう」

「そっか、エイタも大変なんだな……」

「だからさ、ミヤチの悩みをズバッと解決出来たら、自身がつくって思うんだよ。っていうか、相談すらしてもらえないのは、正直へこむんだが……」

「もう、しょうがないな……」

 

 ミヤチの悩み事は、やはり、あの三人組が関係していた。

 

 ミヤチには仲の良い女の子がいたんだが……

 三人組のひとり──仮にA君としよう。

 そのA君が女の子のことを好きになったらしい。

 それを知った、残るB君とC君が協力を申し出て、仲の良いミヤチを排除しようとした。その方法が、いわゆるフェイクニュースだ。

 根も葉もない嘘の噂が広められ、女の子はそれを信じてしまった。

 

 その後、女の子と疎遠になったミヤチの耳に、A君がその女の子と付き合ってるという噂が届く。

 これも嘘の噂だったが、卑怯者の手に女の子は渡せないと立ち上がり、今回の凶行に及んだ……というわけだ。

 ……まあ、未遂だが。

 

 原因が分かれば簡単らしく、すぐに雫奈は対処した。……らしい。

 後日、ミヤチは、わざわざ静熊神社のことを調べ、その女の子と一緒にお礼参りに来たらしい。そこで、雫奈に会って報告したようだ。

 

 

 

 まさか、こんな事に巻き込まれるとは思わなかった。

 今回、俺、かなり頑張ったよな……


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