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今日も土地神は暴走中です。  作者: かみきほりと
本編
4/31

02 新しい服で巡回です。

 目覚めたら朝だった。

 ちゃんとベッドで寝ていたようで、寝間着代わりのラフな格好になっていた。

 記憶がないが、身体から石鹸の匂いがするし、ちゃんと頭も洗ったようだ。

 ジャケットやカバンはいつもの場所にあるし、ケータイの充電も完了している。

 買ったものは棚に並んでるし、たぶん、冷蔵庫にも入れてあるのだろう。

 おまけに洗濯物も干されている。


──そっか、夢か……


 そりゃそうだ。いくら何でも無茶苦茶すぎる。

 祭神の変更とか、雫奈が宮司とか。おまけに俺が神主だって!?

 悪い夢にもほどがある。


 とりあえずパソコンを眠りから覚まして、メッセージを確認する。

 特に問題はなさそうだ。

 とにかく普段通りに過ごすのが一番。まずは着替えて朝メシだ。


 目覚めの日課をひと通り終わらせると、少し心に余裕が生まれた。

 やはり、一応確認しといたほうがいいだろう。

 静熊神社……だったか。

 窓からその場所を見てみる。

 ここからだと、木や建物の陰になっているが、新しい石柱だけはよく見える。

 ……まあ、冷静になれ! 俺!

 別の石柱とか、別の名前が刻まれてる可能性のほうが高い。……たぶん。


「雫奈、ちょっといいか」


 ……留守なのか?

 そう思った瞬間、キラキラとした粒子が部屋の中に満ちていく。

 この光には見覚えがある。

 まさかと思いながら見つめていると、収束して人の姿になった。


「栄太、起きたのね。何か食べる?」

「いや、もう食った。……じゃなくて、今のは何だ! どっから現れた!」

「ん? 栄太に呼ばれたから、神社から飛んできたんだけど?」


 もはや、何でもアリだな……


「……って、神社から?」

「そうよ。今のところ、ここと神社しか繋がらないけど、でも便利でしょ?」

「まあ、よく分からんが……って、そうだ。昨日の話だ。アレって本気なのか?」

「静熊神社のこと? もちろん本気よ。私の拠点になるんだから、少しでもいい場所にしなきゃね。今も掃除してたところ」


 早朝に神社の境内を掃除する、巫女姿の雫奈か……

 それもいいなっ!

 いやでも宮司なら、宮司の衣装だよな。どんなだっけ……


「栄太、どうしたの?」


「あっ、いや。………ずっと、その服なんだなって。春っても、まだ寒い日もあるだろ? ブラウスにホットパンツじゃ、さすがに寒そうだなって」

 妄想を封印して、全力で平然を装い、常識的に答えた。

 とっさに出た言葉とはいえ、冗談抜きで、この格好では辛いだろう。

 もう少し暖かい服を着ればいいのに。


「あっ、平気平気。気温の変化は感じるけど、だからって人みたいに体調を崩したりしないし。それに、栄太が決めてくれた服だからね」


 いやまあ、その気持ちは嬉しいが。

 それだと、なんだか俺が無理やり、そんな恰好をさせてるみたいだ。




「そういや、雫奈の部屋って見たことないな。ちょっと見せてもらっていいか?」

「えっ? べつに構わないけど、どうしたの?」

「いや、ちょっとな……」


 この壁を越えるの初めてだ。

 とはいえ、そっちを向けば、通路越しに部屋の中が勝手に見える。今まで意識してなかったが、その風景が全く変わらないのは少し変だ。

 中に入って、軽く部屋を見渡す。


「…………だよな」


 思った通り、シンプルそのもの。

 ベッドどころか冷蔵庫も無い。何も無いガランとした部屋だった。

 押し入れを開けてみる。

 この前見た敷物とテーブル、あとは、なつかしのバランスボールとブタの貯金箱……いや、蚊取り線香立てか?


「あっ、それ。この前、助けた人からもらったの。テーブルとマットは、さっそく役立ったよね」


 玄関には靴もないし、靴箱も空っぽ。

 あとは、キッチンの棚ぐらいか……


 引き出しを開けると、ひとり分の箸や食器が入っていた。

 足元の戸棚にはフライパンと鍋。オタマやフライ返しもある。


──なんでキッチン用品だけ、揃ってんだ?


 まあ、食べるのが大好きって言ってたけど。

 だが、肝心の食材がない。

 上の戸棚を空けてみる。

 ……!!


「あー、なんだ、雫奈さん? ここ、冷蔵庫じゃないんだが。なぜ卵と牛乳がこんなとこにある? あーほらこれ、牛乳の日付、切れてるし」

「いや、だから私は女神なんだって。ちゃんと鮮度は保ってるから平気だよ。私だって腐ったものは食べたくないし」


 女神の力、こんなことに使っていいのか?

 まあ、それより……


「見たところ、着替えの服がないんだが。ずっとその格好なのか?」

「えっ? あっ、もしかしてコレのこと?」


 身体からキラキラした粒子が舞い散り、収束すると、エプロンが現れた。


「いや、そうじゃなくて、他の服だって」

「ん~、そうね。あとはコレぐらいかな。」


 雫奈は再び衣装を変える。

 ま、まさか、これは……


「おおっ! 清楚お嬢様風ワンピか。しかも、ツバ広の麦わら帽子付き!」

 確かに、この姿は初めて見る。……等身大サイズでは。


「……って、これも俺が作ろうって思ってた服じゃねぇか。そうじゃなくて、今の季節に外を出歩いても変に思われない、あったかそうな服は無いのか?」

「これで全部かな。でもまあ、どれも気に入ってるし、別に変じゃないでしょ?」

「いや、変だし、大問題だ。そもそも洗濯はどうする?」

「えっ? 必要ないよ。服、汚れないし」


 まあ、そう言われそうな気がしてた。だが……


「あーなんだ。俺が言うことじゃないかも知れんが、人に溶け込んで活動しようってんなら、もうちょっと人のことを学んだほうがいいぞ」

「たとえば?」

「服は汚れるもので、洗うのが普通。だから、毎日同じ服を着てたら、変な目で見られることもある。しかも、季節に合わない服をずっと着てたら、絶対に変だと思われる。だから季節に合った服を着て、時々着替えたほうがいい」

「そう言われてもね……」


 あまり関わるつもりはないが、すでにどっぷり関わってる気もするし、今後も一緒に出かける機会も増えるだろう。

 あまり変な噂が立ったら、俺が困る。


「仕方ない。だったら買いに行くか? 無茶な量じゃなきゃ、買ってやるぞ」

「まあ献上品って意味じゃ嬉しいけど、やっぱり栄太の想いが詰まった服のほうが、安心できるんだよね。だからほら、パソコンでパパッと作れない?」

「絵じゃないんだから、衣装ひとつ作るのにどれだけ掛かると思ってんだ」

「思いが詰まってたら、別に絵でも文章でも、木彫りの人形でもいいわよ」

「ホントにそんなこと、出来んのか? ……でもまあ、試してみるか」


 幸い、その手の資料なら山ほどある。

 雫奈に似合いそうな服で、春っぽく、それだと……

 モニターに次々と画像を表示させて、イメージを膨らませる。

 タブレットを接続して、一気に書き上げた。


「まずは試しに、これなんかどうだ?」

 寒い日や、急な雨でも安心。フード付きパーカーをデザインする。

 こだわりの、フードを収納できるタイプだ。


「へぇ、絵、上手いんだ。じゃあ、やってみるね」


 モニターからキラキラ粒子が放出され、雫奈の身体に集まっていく。

 

「栄太は、こういうのがいいの?」

「いや違うから! すぐに書き足すから、ちょっと待ってろ」


 たしかに背中側しか書かなかったし、フードの説明に力を込めた。だからって、前側が全く無いというのはヒドすぎる。これじゃ、マントの出来損ないだ。

 パーカーで良かった。これがもしブラウスだったらと思うと、冷や汗が出る。

 急いで手直しすると、残りも一気に書き上げる。


「……よし、これで最後だ」


 なんとか出来上がった。

 布地を多めにして暖かさが増したブラウスに、少し丈の長いショートパンツ。収納フード付きパーカーに短めのソックス。そして、明るい色のスニーカー。これなら大丈夫だろう。……たぶん。

 

 新しい服に身を包んだ雫奈は、嬉しそうに身体を動かし、着心地を試している。

 この短時間で作ったにしては、なかなかのクオリティーだと思う。

 自分を褒めてあげたい。


「どう栄太? おかしな所ない? 似合ってる?」

「ああ、もちろんだ」


 似合ってるに決まってる。

 だが、雫奈の魅力を最大限に引き出せたかと言われたら、首を横に振るしかない。まだまだ改良の余地はある。

 それに、外出着が三種類だけじゃ、全然足りない。

 空き時間にでも、もっと作ってあげないと。

 想いを込めるってのは、いまいち分からないが、絵で済むなら楽でいい。


「じゃあ栄太、外に行こっか」


 もう、仕方がないなぁ。新しい服だからって、ハシャギ過ぎだろ。

 でもまあ、気持ちは分からんでもない。


「おう、準備する」


 徹夜明けでもないのに、朝から出かけるなんていつ以来だ?

 そんなことを考えながら準備を整えると、部屋を出た。




 今日も雫奈は散策していた。

 この前とは道順が違うが、祠や地蔵に手を合わせるのは変わらない。

 その横でそっと手を合わせる。


「ちょっと栄太、待ってて。すぐ戻るから」


 何をするのかと見ていたら、木から降りられなくなった猫を助けるようだ。

 枝が折れ、少し危なっかしかったが、なんとか無事に救出できた。

 どうやら、身体能力が高いという設定は、引き継がれなかったらしい。

 雫奈は猫を見送ると、枝を拾う。


「ごめんね……」

 雫奈がそう呟くと、枝が光の粒子となって、幹の中に吸い込まれていった。


 木登りが苦手だと知っていれば、俺が変わってやったのに。

 言っておくが、俺だって、何もせずに見ていたわけじゃない。

 猫が落ちたら受け止めようと、下で待ち構えていたし、雫奈が落ちてきたら……

 まあ、受け止めきれずに下敷きになると思うが、その覚悟もしていた。

 そうならなくて、ホントに良かった。


 今度は、地蔵に手を合わせた雫奈が、いきなり走り出した。

 公園から転がり出ようとしたボールを受け止め、蹴り返した。

 いい感じの強さで、コントロールも悪くない。……設定、引き継がれてるのか?

 子供たちが礼を言っている。

 次の瞬間、車が道路を、結構なスピードで走り抜けて行った。


──まさか雫奈が、子供たちを車から守った?


 ただの偶然かも知れないが……

 だが、雫奈が行かなかったら、事故が起こった可能性がある。


「なあ雫奈、なんでボールが飛び出すって分かった?」

「お地蔵さまに聞いたからよ」

「そっか、さすが土地神さまだな」

 

 どうやら俺も、かなり雫奈の行動に慣れてきたようだ。

 大抵の事は、土地神だから、女神だからで納得できるようになってきた。

 土地神の仕事って、もっと悪霊とかと戦う印象があったのに、実態はコレだ。

 でも、これで平和が保たれるなら、悪くない。

 

「……!?」

「どうした? 雫奈」

「ん~、気のせい……かな?」

 

 また、地蔵か何かの声を聞いたのだろうか。

 

──これじゃ、いつもの巡回だな。


 新しい服でテンションが上がってるのかと思ったら、そうでもなかった。

 いやまあ、別にそれでもいいんだが。

 俺が来た意味は無さそうだが、でもまあ……

 新しい衣装で動き回る、雫奈の姿が見れただけでも良しとしよう。


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