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今日も土地神は暴走中です。  作者: かみきほりと
終章
31/31

なんだか騒がしくなりそうだ……

 なんだかいきなり忙しくなった。

 以前、会社に送った企画案が、今頃になって通ったらしい。

 というのも、例のお守りに入っていた三姉妹女神の姿絵が、俺が描いたものだと会社にバレたのだ。

 その結果、お金の匂いを嗅ぎつけた会社が、ゴーサインを出したらしい。


 その内容は、ローカル神社の祭神たちをキャラクター化して、グッズ化を手始めに様々な展開をして、応援するという企画。

 その売り上げの何割かが神社に奉納される仕組みだ。

 自分で言うのも何だが、かなり無茶な企画だと思う。よく通ったものだと不思議に思う。

 この対応で、三藤さんは、すごく張り切っているらしい。

 自分から企画を売り込んでいくほどの熱の入れようで、ヘッドハンティングされないかヒヤヒヤだ。


 とりあえず、前に書いて世に出ないであろうと思っていた、三柱のカラーイラストを送ったのだが、その後から、追加のイラストを催促される日々が続いている。


 そんなわけで、ギリギリで仕事を仕上げ、会社にデータを送信する。

 なので、ギリギリ偽装システムの出番はなかった。

 わざわざ偽装するまでも無く、俺の精神はギリギリまで追い詰められている。




 いつもの様に、秋月神社の丸太ベンチに身体を預け、朝日を浴びながら風景を眺める。

 今日もご神木は、いつもの様に立っている。いつもの景色だ。


 俺の心を読んだかのように、二つの気配が生まれた。

 確認するまでも無い。秋月様と豊矛様だ。


「霧香さん、爺さん、お久しぶりです」

「はて? この前会ったばかりじゃがな」


 確かに、鈴音と会いに来てから、まだ一週間も経っていない。

 だが遥か昔のように感じる。


「そうだな。……まあ、前置きも無しですまないが、今回も俺たちを試したのか?」

「試した……というのは、少し違うかの。もうワシでは力になれんからの。お前さんたちの実力を見せてもらっておった」

「いやでも、あんな時間に騒いで、誰も出てこないって変だろ? 爺さんが何かやったんじゃないかって思ってたんだが……」

「ワシ……ではなく、秋月様じゃな」

「それにしては、ひとりだけやって来て、ゴミを投げ入れていったんだが。わざわざ見逃すとか、てっきり爺さんの仕業だと思ってたんだが」

「あー、それはワシがお願いした。どうじゃ? いいヒントになったじゃろ?」


 やっぱりそうか。……とは思いつつも、爺さんらしいと苦笑する。


「いやぁ、見ていて飽きん奴らじゃわい。ヒヤヒヤさせよるが、いろいろ考えよるものじゃと関心した。これなら、後を任せても問題はあるまい」

「何言ってんだ。俺は爺さんが居るから、多少の無茶もやらかせてるんだからな。まだまだ見守ってもらわないと困るんだが」


 甘えるなとか言われそうだと思ったが、面白そうに笑われた。


「まあ、ともかく今回も助かった、ありがとう。霧香さんも、ありがとうございました」

「お礼の言葉など、いいのですよ」

「そうですね。霧香さんには言葉よりも、こっちですね。三人とも来てくれ」


 その言葉に応えて、三人が跳んでくる。

 犬耳、犬尻尾姿に犬っぽい服までそろえた鈴音。

 それに加えて、猫コスプレの雫奈と、狐コスプレの優佳まで現れる。


「キャー、みんな可愛いのです。すごいです。パラダイスです。もう、このまま全員お持ち帰りしたいのですよ」


 どうやら、お気に召して頂けたようだ。

 爺さんもご満悦のようでなによりだ。娘の姿にメロメロだろう。

 それに気付いたのか、鈴音が犬の姿に変身して爺さんに近付く。


「豊矛様、ボク、ちゃんと土地神さま、やれてるかな」

「おお、鈴音や、もちろんじゃよ。ワシの自慢の娘じゃ。絶対にワシより立派な神様になれるから、精進するのじゃぞ」

「うん、ボク、絶対に立派な神様になるからね。豊矛様、本当にありがとう」


 鈴音がそう言った瞬間、遠くで何か音が鳴った。

 そちらの方を見ると……


「えっ? ご神木が……」


 三分の一ほどを残して、上部が崩れ落ちた。

 突然のことで、状況が理解できない。

 これってつまり……


「そろそろ時間のようじゃの。皆の者、愉快じゃった。達者で暮らせよ」

豊矛神(トヨホコノカミ)様、長き時を経ての助力、誠に感謝いたします。本当にご苦労様でした」


 霧香さんが、深々と頭を下げる。


「そっか……爺さん。ホント今までいろいろ助かった。ありがとうございました」


 皆も一緒に頭を下げると、爺さんは笑顔のまま、景色に溶け込むように消えて行った。


「なんだよ、爺さん……突然すぎるだろ……」




 まだご神木の倒壊の衝撃が冷めやらないが、急いで連絡すべき相手がいた。

 正直、気は進まない。だが、放置しておくと、後でもっと面倒な事になる。


 仕方なく電話を掛ける……


「はーい、パパでちゅよ。元気にしてまちたか~」

「スマン、掛ける相手を間違えたようだ」

「まあ、そう慌てるな。マイエンジェルよ。お前の守護神『お父様』だ」


 だから気が進まなかったのだが、報告しないわけにもいかない。


「忙しい所、悪いな」

「会社だが、全く問題ないぞ。息子の為なら、重要な会議でもすっぽかしてみせる」

「そんな事、会社で言ってもいいのか?」


 それに、会社で赤ちゃん言葉とか、どんな鋼のメンタルだ。


「それは全く問題ない。親バカで有名だからな。周りも温かい目で祝福してくれている」


 生暖かい目で見られているってことだろ! ……なんてツッコミを入れたら負けだ。このままでは、全く話が進まない。


「郡上家に関する報告だ。簡潔に話すからよく聞け。郡上家が引っ越すことになった。今は建築中で、その間の仮の住まいとして、近くの神社で暮らしている。それと、叔母さんの容態が改善しているようだ。近いうちに退院できる見込みだ。……以上だ」

「了解した。我が息子よ、その後の美晴ちゃんとの進展を報告せよ。どうぞ」

「進展も何にもねぇよ。一応報告したからな。もう切るぞ」


 全く、どういうつもりなんだか。

 でもまあ、これで義務は果たした。


「ちょっと待て、最後に一言、言っておくことがあった」


 切る寸前に呼び止められて慌てる。


「我が自慢の息子、栄太よ……お疲れ様」


 それだけ言って切りやがった……

 考えてみれば、親父がもっと早く、分かりやすく郡上家の内情を話してくれりゃ、こんな苦労も無かったかも知れないのだ。

 だが、わざわざ掛け直してまで、文句を言うのも疲れる。

 たぶん、もっと、途轍もなく疲れさせられる。


 結局、もやもやした気持ちを抱えたまま、静熊神社へと向かう。




 郡上家の内情は、後から全て聞かせてもらった。


 母親は、そこそこ有名なブランドのデザイナーをしていたらしい。

 出張も多く、ほとんど家には帰ってこれない。そのことで近所の人から、不倫をしているのではないかと疑われたそうだ。

 もちろん、父親は噂を否定したが、幸せ家族の生活は壊れた。


 美晴はまだ幼かったが、学校でイジメられ、親戚に家に預けられる事になった。

 数年経って、母親が会社を辞め、美晴も戻って一緒に暮らすようになった。

 だが、誹謗中傷は酷くなるばかり。

 弟が二人生まれたが、母親は心を病んでしまった。

 長く入院して、家計も苦しくなったらしい。


 父親は収入を増やそうと会社で頑張った。

 その分、美晴は家事全般と弟たちの世話をする毎日に。


 久しぶりに外泊が認められ、母親が家に戻ってきた。

 それで、今回の事件が起こったらしい。


 優佳が言うには、その姿を近所の人が見て、また噂話のネタにして盛り上がったんだろう……ってことだ。そのせいで、弱っていた悪霊が活性化したらしい。


 ともかく、家が壊れてしまい、住めなくなったので、郡上家には神社に住んでもらっている。

 もちろん、新しい家が建つまでだが。


 お辞儀をして鳥居をくぐる。

 今日も多くの人が訪れている。

 授与所では、三藤さんと……


「美晴……か? アイツ何をやってんだ?」


 三藤さんの横で、巫女姿の美晴が手伝っていた。

 いやまあ、人手が欲しいと思っていたから助かるんだが、美晴はそれどころじゃないはずだ。叔父さんは相変わらず仕事の虫だし、二人の弟の世話もある。それに加えて、引っ越しやらなんやらの手続きとか大変なはずなんだが。


 美晴が俺に気付いて、手を振っている。

 ……いや、そんなことをしたら目立つだろ。

 軽くお辞儀を返す。


 雫奈と優佳は、今日もあの場所へと行っているはずだ。

 周辺住民に呪詛返しが起こっているから、その後始末だ。

 優佳はどうやら本気で怒っているようで、元凶となった三人に対して、口にも出せないキツイお仕置きをしているそうだ。それも連日。


 今は郡上家の家なので、そう気軽には入れなくなった。

 そう思っているのに、美晴が早く来いと身振り手振りで催促している。

 隣の三藤さんも困った顔で笑っている。

 仕方がない。行くとしようか。


 家の中は、変わらず綺麗なままだ。

 そりゃそうだ。まだ何日も経っていない。

 このまま鈴音に挨拶をして帰ったら、後で大変なことになるだろうな……と思いつつ、社務所へ向かう。


「もう、ホンマ兄さん、気付くん遅いわ。もっと(はよ)う来てくれんと、アタシ恥ずかしいやん」

「恥ずかしいのは、こっちだ。でもまあ、元気そうで良かった」

「まあな、ホンマありがとう。アタシの為に身体ボロボロになってまで、助けてくれたんやもんな。せやから、どやっ! アタシの晴れ姿、好きなだけ見てもええで」


 たぶん、見せたくて仕方が無かったんだろう。

 ここは大人として、ちゃんと褒めてやるべき所だろう。


「うん、美晴も立派な巫女さんだな。元気な巫女もいいと思うぞ」

「えー、ホンマか? そんなに褒められたら恥ずかしいやん」


 悪いが、全然恥ずかしがっているようには見えない。

 それどころか、もっと見ろとばかりに、ターンまで決めている。


「忙しいんじゃないのか? 何でこんな事やってんだ?」

「そりゃまあ、罪滅ぼしっちゅうか、人手が足りんって聞いたから、手伝ってもいいかなって。弟たちは鈴音ちゃんが見ててくれるからな」

「お前、犬に面倒を見させてるのか?」


 なんだか、美晴がニヤリと笑っている。嫌な予感しかしない。

 美晴は俺を引っ張って、鈴音部屋へと向かう。

 そこには、人姿の鈴音が、弟たちと遊んでいた。


「てへっ、バレちゃった☆」


 俺の姿を見るなり、鈴音が可愛く、そう言った。




 ちょっとした息抜きに、秋月神社で休憩をした帰り道。

 愛用の肩掛けカバンを揺らしながら、のんびりと歩く。


 中に入っているのは、さっき立ち寄ったコンビニで買ったもの。

 数日分の食料やドリンクなどだ。

 あとは、急に雨が降った時のための、折りたたみ傘ぐらいか。


 鍵を開けて部屋に入る。

 なぜか当たり前のように、三人が出迎えた。


「あっ、栄太。昼食の準備、できてるわよ」

「ちゃんとデザートもありますよ。兄さま」

「ねぇねぇ、食べ終わったら一緒に遊ぼ☆」


 俺は今まで、安全なほうへ、面倒事にならないようにと人生を歩んできた。

 平和が一番、そう思っていた。

 だが今では、こういう生活も悪くないと思えるようになった。


 今日も、なんだか騒がしくなりそうだ……


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