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今日も土地神は暴走中です。  作者: かみきほりと
本編

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16/31

14 こんなに可愛かったんだな。

 ちなみに、三藤淑子(みつふじよしこ)さんが、ここで働くことが決まったのは、ほんのついさっきのことらしい。

 個人的には不安で仕方が無いが、雫奈が決めたなら多分大丈夫なのだろう。

 聞きたい事はいろいろあるが、それより今は大男のことだ。


 あの大男は、陰の気に反応させて相手を攻撃する技を持っている。

 考えてみれば優佳の天敵とも言える相手だ。

 それに、あの男の魂に絡みついていた、黒い蛇のことも気になる。


「ちょっと優佳の様子を見てくるけど、ついでにエクレアも渡してこようか?」

「だったら、私も一緒に行くね」

「いや、三藤さんを放っておいていいのか?」


 働いてもらうにしても、いろいろと説明や決め事が必要だと思うのだが……


「あっ、私のことならお構いなく。今からバンバン働きますよ」


 どうやら聞かれてしまったらしい。……って、今から?

 何をする気なのかは知らないが、それより今は、大男のほうだ。




 地下貯蔵庫は、かなり古く、二部屋分ぐらいありそうなほど広かった。多くの棚があったが、朽ちているものもあり、ほとんど空だ。照明は薄暗く、小動物の骨が転がってたりで、かなり不気味な場所だった。はずなのに……


 いつの間に改装したのか、石段とコンクリートの壁が木造になっており、雰囲気だけなら二階へ上る階段と大差ない。

 貯蔵庫の入り口も、錆びて開けるのに苦労したのに、大きなガラス窓の付いた引き戸になっている。

 そこから中の様子が丸わかりなのだが……


「……なんだか、楽しそうだな」

 

 貯蔵庫の中も改装されており、明るく綺麗になっていた。

 壁には新しい収納棚がずらりと並んでおり、貯蔵庫の機能には変わりがないが、もはや別物だ。

 中の音はあまり漏れてこないが、二人は、柔らかそうな素材の敷物に座っており、和やかに談笑しているように見える。


 どうやら優佳は平気そうなので、今のうちに雫奈に伝えておく。

 例の、男の魂に絡みついていた黒い蛇のことだ。


「えっ? 私、気付かなかったけど。ちょっと栄太、コレ持っててくれる?」


 トレーを受け取り、何をするのかと思っていると、抱き付かれた。


「ちょっとこのまま、あの人の魂を見てくれないかな」

「この前もだが、俺に抱き付くのに意味があるのか?」

「あれ、言ってなかったっけ? こうして近づくと親和性が増して、物質経由で魂に干渉しやすくなるのよ」

「しんわせい?」


「私がこうして近づいたら、栄太は私の事を意識するでしょ? 栄太が私を意識して受け入れてくれたら、栄太の魂に干渉しやすくなるって感じかな。……まあ、嫌がられたら逆効果なんだけどね。

 祝福を使って無理やり従わせることもできるけど、そういうのあまりやりたくないのよね。栄太に嫌われたくないし」


 とりあえず、雫奈が俺の事を気遣ってくれているってことは理解した。

 言っている意味も何となく分かる。

 つまり、強制的に従わせるのではなく、俺が協力する気になるよう頼んでいるのだろう。精神的な意味で。


「じゃあ、やるぞ」


 視界を切り替えて、大男の魂を観察する。

 相変わらず、気味の悪い黒いうねうねが、まとわり付いている。


「どうだ、雫奈。見えるか?」

「へぇ~、栄太には、こう見えてるのね。ん~、なるほど。私にはよく分からないけど、たぶん呪いかもね」


──くっそ、あの野郎、人の事を散々バケモノ呼ばわりしたクセに、自分が呪われてんじゃねーか。ふざけやがって。


「アレって、解けるのか?」

「う~ん、どうかな。私じゃ認識できなさそうだし、栄太経由で力を使ったら、たぶん栄太が大変なことになっちゃうだろうし……」


 いやいや、雫奈が大変って言ったら、本当に大変だから、勘弁してください。


 ……なんてことをしていたら、引き戸が開けられた。

 優佳が意味深な、それでいてどこか楽しそうな表情で、こちらを見ている。

 大男は、露骨に驚いた表情で、視線を逸らす。


「兄さま、姉さま、何こんな場所でイチャイチャしてるんですか? もしお邪魔でしたら、何も見なかったことにして、戸を閉めちゃいますけど……」


 たしかにコレは……

 トレーで両手がふさがった俺に、雫奈が抱き付いている格好だ。

 慌てて離れた雫奈が、優佳に呪いの事を説明する。


「そうなんですよね。私もどうしようか迷ってるんです。無理やり解呪をしてもいいのですけど、この人の魂に相当な負荷がかかるので」


 やはり、黒に関することは優佳のほうが詳しいようだ。


「相当ってどれぐらいだ。呪いの内容にもよるが、命を落とさない程度なら、このまま呪われ続けるよりマシじゃないのか?」

「おそらく精神を蝕むモノなので、負荷が強いと廃人さんになりますね。意識が目覚めないのであれば回復の見込みもありますが、心が壊れたら元には戻れませんから、あまりオススメできないです」


 真剣だった優佳の表情が、突然、満面の笑顔に変わる。


「こんな場所で立ち話もなんですから、本人も交えて、ゆっくり話し合いましょう。早く中へ入って下さい。兄さま。ほら、姉さまも」


 たしかにトレーを持つ手も辛くなってきた。

 貯蔵庫に入ると、どこに置いてあったのか優佳が円形の座卓を持ってきた。

 トレーを置き、スリッパを脱いで敷物に座る。

 物が整理されたお陰で、広く見えるが、確かもっと広かったはずだ。……と思ってよく見たら、奥にもうひと部屋あるようだ。


 何も考えずに座ったが、大男の正面だ。

 ……なんだろう、大男の様子が変だ。襲い掛かってきた荒々しさは完全に消え、興味津々といった感じで俺と雫奈を見つめている。


 俺の左に座った雫奈は、早速、紅茶の準備を始める。

 優佳は右だ。エクレアが気になって仕方がないようだ。


「ところで優佳、この人から話は聞けたのか?」


 俺の問いかけに優佳は答えず、ゆっくりとうなずき、ニコニコ笑う。

 別に俺の事をバカにしているわけではない。それだけは分かる。

 笑みの意味を計りかねていると、突然大男が後ろに下がり、敷物のない床で土下座した。


「先ほどは誠に失礼仕りました、繰形殿っ!」


 ……なんだこれは?

 いや、まあ、優佳が何かをしたんだろうけど。

 それにしてもエライ変わりようだ。


「まさか貴方様が解脱の域に達しようという聖人様だとは露知らず、あのような暴挙に至りました我が不明、どうかお許しくだされよ」


 モノノケ、バケモノ、妖怪、悪霊ときて、今度は聖人か。ホントに、どうなってんだ?

 優佳を見ても、意味ありげに微笑むだけ。

 

「話はそちらの優佳殿からお聞き致しました。なんでも繰形殿は、まだこの世界に救うべき者たちがいるからと、解脱の道を捨て、呪いをその身に受けることで御身を穢し、現実に留まる道を選ばれたと。この兎角幻坊(とかくげんぼう)、その境地に至らぬ身なれども、感服仕りました」


 とりあえず、その言葉遣いは何だ? どこの武士だ。

 そのせいで話の内容が全く頭に入ってこない。


 えっと、何だっけ?

 解脱……は、ニギミタマになって天国送りになるってことか?

 呪いってのは、優佳の祝福のことだとして、現世に留まるってのは……

 結局は、言い方を変えているだけで、大体合っているのか?


「あー、名前は、()()()()()()()さんでいいのかな?」

「申し訳ござらぬ。つい興奮して捨てた名を口走ってしもうた。ワシは、時末忠次郎(ときすえちゅうじろう)と申す。ワシの爺様は、ここが豊矛神社と呼ばれし頃に、宮司をしており申した」

「時末忠次郎さんね。わかった。それで……」


「少し話が長くなりますので、私から説明しますね。兄さま」


 それは助かる。武士言葉のままで延々と聞かされても、たぶん内容が頭に入らない。……と思う。


 優佳の話はこうだった……

 この時末という人は、祖父の代で途絶えた豊矛神社を再興する為に来たらしい。

 亡き祖父との約束を守るため、宮司になるために戻ってきたんだそうだ。

 なのに、すでに新たな宮司の元、静熊神社として再始動していると知る。

 その後、どこの誰に聞いたかは思い出せないが、新たな宮司の悪評を聞き、義憤に燃えて乗り込んで来た。そこに現れた、邪の気配を纏う俺を見て、なぜかこれが悪の根源である新しい宮司だ、と思って襲った……というわけだ。

 迷惑にも程がある。


 どうやら時末は、過去に兎角幻坊と名乗って修験者をしていたらしく、オーラというのか、人の気を見ることができるらしい。

 だが今は、その過去を捨て、神職の資格を得た浪人中の神主さんだ。


「じゃあ、呪いの件はどうなってる?」

「それは、これから話すところですよ。兄さま」


 てっきり、もう話しているものだと思っていたが……

 何か訳があって黙っていたのなら悪いことをした。


「よもやワシが敵の術中に落ちていたとは……」


 優佳から話を聞いた時末は、さすがにショックを受けている。

 不思議なことに時末は、優佳の言葉を全く疑わない。やけに仲が良かったし、いったい俺の居ない所で、何があったんだろう。


「そういうことなので、これから私たちで、その呪いの解析をしてみたいのですが、覚悟は良いですか? 時末さん?」

「もちろん、全てお任せ致しまする」


 いやいや、人が変わったような素直さだな!

 でも、いったい優佳は何をする気なんだろうか。

 ついさっき、解呪は難しいって言ったばかりなのに……


「それでは兄さま、私たちが力を合わせますので、あの人の呪いを解析して下さい。心配しなくても、私たちがサポートをしますので、集中してしっかり観察して下さいね。では姉さま」


 何がなんだが全く分からんが、とにかく見ればいいんだな。……っておいっ!

 雫奈と優佳が身体を寄せて来た。

 いやまあ、これもまた、親和性を高めて……ってことなんだろうけど、やっぱり気になる。……いや、この場合は、気にしたほうがいいのか?

 とにかく、視界を切り替える。


「兄さま。これがいつもの兄さまの視界です」

「そうだな。いつも通りだ」

「でも、これでは圧倒的に情報が不足してます。なので、まずは姉さまの視界を体験して貰います。私たちの因子が定着した今なら出来るはずですので、あまり気負わずに楽にして下さいね。兄さま」

「お、おう、やってくれ」


 一瞬、視界がブレる。

 なんだろう、これは。微細な粒子が飛び交っているようにも見えるし、大きな塊のようなのも見えるが、何がなんだか分からない。


「栄太、集中したまま、もっと視界を広げて。遠くから見る感じで……」


 雫奈の声が聞こえる。

 言われた通り、意識を集中させるのだが、一点に集中させずに、視野を広げて全体を見るようにする。


「えっ? コレって……」


 妖精や精霊が見える。とても可愛い。

 照れたり喜んだりしている様子もハッキリと分かる。

 時末も、ちゃんと人の姿をしているし、その感情も分かる気がする。

 今まで俺が見てたモノとは、比べ物にならない光景だ。


「では、次は私の視界ですね。覚悟はいいですか? 兄さま」


 いやだから、その言い方は怖いって。

 でもまあ、きっと、俺が怖がる様子を期待して、ワザとそんな言い方をしてるのだろう。そう思ったのだが……


「よし、こいっ」


 再び、視界がブレる。

 黒と赤? 黄色? あれは紫か?

 なんだかケバケバしい色に溢れている。


「兄さま。先ほどと同じように、全体を見るように集中してみてください」


 おお、そうだ。

 言われた通りにやってみる。


「……えっと。これは、なんだ?」

「魂に宿る、悪意ですよ。兄さま」


 いやまあ、そうなんだろう。

 雫奈の時は、おとぎ話の世界だったが、ここはまるで魔界だ。

 精霊たちは比較的大人しい。特に感情を露わにはしていない。だが、油断すると何をしてくるか分からない怖さがある。

 妖精はあからさまに、こちらの隙を狙っている。もちろん、積極的なモノ、消極的なモノなど、個性は様々だ。

 そして、肝心の時末は……


「それが、時末さんが秘めている負の感情です」


 泣きながら、刃物で自分を刺している。とはいえ、血が飛び散ったり傷ができたりはしていない。だが、ひたすら何度も繰り返して……

 こちらに気付いたのか、自分を刺す行動をやめると、こちらに手を延ばし、泣きながら謝っているように見える。衝動的な怒りのようなものも感じる。

 正直、見ているのが辛い。こちらの精神が削られるようだ。


「幻影みたいなのに、まとわりついてた黒い影が呪いか?」

「さすがです、兄さま。あのモヤモヤが呪い、攻撃者が放った悪意の塊です」

「じゃあ、このまま、あの呪いを観察すればいいんだな?」

「いいえ、違います。今のは、兄さまの参考になればと、見てもらっただけですから。どうでしたか? 少しはイメージ作りの参考になりましたか?」


「これは個性の違いなのか? それとも女神と悪魔の違いなのか? 雫奈は魂の良い面が見えて、優佳は悪い面が見えてた気がする。よくあれで、魂が白に傾いているとか、黒に傾いてるとかって判断できるな……って感じだった。

 そういや、雫奈の視点だと、時末の黒いモヤモヤって言うか、呪いの痕跡っぽいものが全く見えなかったな。だから雫奈は気付かなかったんだな。

 いっそ、二人の視点が同時に見れたら、判別しやすいんじゃないか?」


「では、兄さまの視点に戻しますので、思いのままにイメージしてみて下さい」

「その前に、ひとつ質問させてくれ。管理者の視点はいろいろあって、その中のひとつを見せたって感じか?」

「ん~、あまり思い込みがない状態のほうがいいのですけど……、その通りですよ。がんばってくださいね、兄さま」


 まあ、そりゃそうか……


 だけど、少しホッとした。

 優佳が常日頃からあの光景を見続けているとしたら、さすがに可哀想だ。

 俺の為に、悪意が剥き出しの光景を選んだのなら、いかにも優佳らしくて憎らしくも安心する。


 さて、どうするか。

 自分の視点をイメージするって、言われてもな……


 やはり魂の状態が分からないと話にならない。白黒度合いも重要だ。

 それにケガレが分かりやすいほうがいい。原因を読み解ければなおいい。

 あとは呪いだな。

 いっそ、ケガレは身体に刺さったトゲ、呪いは巻きつく蛇のように、分かりやすくなればいいのにな……


 イメージするというより、デザインするってのはどうだ?

 それなら得意分野だ。

 とにかく、自分に分かりやすく、扱いやすくするにはどうする……?


「よし、いくぞ!」


 気合を入れて、意識を周囲に向ける。


 殺風景だった貯蔵庫も、多くの精霊や妖精が居るって分かった。

 そのお陰か、視線を向けると一瞬だけ姿を現す。それぞれお辞儀や手を振ったりしてくれるのは、たぶん挨拶してくれているのだろう。

 すぐに消えるのは、異変や用事がなければ見えないようにと設定したからだ。

 それでも、歓迎してくれている気持ちが伝わってきた。


 少し覚悟を決めて、正面を見てみる。

 ちゃんと時末の姿が、人に見える。

 それに重なるようにして、球形の魂が見える。少し明るい灰色で、三十八%という数字が表示されている。ゼロが白、百が黒とした魂の色だ。

 そこに、黒い蛇が巻きついている。


 とりあえず成功……だと思う。


「こんな感じだが、どうだ、雫奈」


 そう言いながら左を見る。


──えっ?!


 思わず「誰だ?」と問い質しそうになったが、この感じは間違いなく雫奈だ。

 だが……


「……うん、その姿も悪くないぞ」


 金髪碧眼の美少女。……だが、どう見ても子供だ。

 道理で言動がたまに幼かったり、やけに素直だったりするわけだ。

 西洋の女神っぽい衣装がよく似合う。


「どうやら、私たちとつながったことで、本来の姿が見えるようになったのですね。兄さま」


 口調は間違いなく優佳なんだが、声がとても……なんというか色っぽい?


 そちらを見ると、声の雰囲気に合う、スタイルの良い豊満な女性が見えた。

 ピンク髪を結い上げ、色白ながらも健康的な身体を、黒くて露出度の高い悪魔装束で包んでいる。当然、角や尻尾、コウモリ状の翼も完備だ。


「なるほどな。高笑いに煽り目線、優佳の謎行動の全てを理解したよ。この姿だったら、ああなるな……」

「分かって頂けましたか? 兄さま」

「そうだな。その姿でこの口調だと、違和感しかないな」

「兄さまに少しでも気に入って頂けるようにと、努力したのですよ。今では、これが普通になりましたけど」

「そっか、ありがとな。できたら今も、もうちょっと普通の、悪魔っぽくない格好になってくれるとありがたいんだが……できるか?」

「もちろんですよ、兄さま」


 目の前で、一瞬にして、羽衣和装の土地神姿に変わる。

 ちゃんと、角や尻尾、翼も消えている。

 ピンク髪なのは少し違和感があるが、結い上げ方が変わるだけで、すごく清楚な雰囲気になった。


「おお、これはこれで悪くない」

「この姿の時は、ユカヤと呼んでください。兄さま」

「それだと雫奈は………シズナのままだな」


 なんてことをやっていると、雫奈が俺の服を引っ張る。


──えっ? 服?


 そこで、自分も人の姿になっていることに気付く。

 手も足もあるし、触れば顔もある。もちろん服もそのままだ。


 さらに強く袖を引かれる。

 小さな雫奈は、頬を膨らませて目をうるうるさせていた。


「おお、悪かった。雫奈の本当の姿って、こんなに可愛かったんだな」


 頭を優しく撫でてやる。

 現実世界では絶対に出来ないことだ。


「そんなことはいいから、壮太、いつもより消耗が激しいから、早く戻らないと」


 テンションが上がって、分からなかったが、確かに危険そうだ。

 周囲の情報を閉じ、意識を自分の中へと集中させる。

 意識のブレを感じてから、ゆっくりと目を開けた。


 あれっ、ヤバイ、また意識が……

 気絶に慣れてきたせいか、これは昏倒するレベルだと分かる。


 それにしても、容姿通りの少し舌っ足らずなシズナの声、可愛かったな……

 そんなことを思いながら、俺は意識を失った。


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