魔女狩りの灯火
とある世界に魔女と呼ばれる集団がいた。
彼女らは生きている限り悪逆を尽くす、例えば、悪魔を信仰して家畜を攫い、時には人間をスープにして悪魔に捧げたのだ。
無論、これに反発する勢力が現れた。
「聖騎士百名。全員揃いました。」
それは聖騎士団、魔女のような者を狩る聖職者達。
この日は魔女狩りを行うのに集っていた。
「間抜けは居ないか? 聖鉄武器は全員持ったよな。」
魔女なる者を効率的に倒す為、武器にも工夫が凝らされている。
「じゃ、出発だ。」
鞭を振るって馬を駆り立てた。
馬車が動く、古い部品が小さな悲鳴を上げて。
魔女は基本的に森の中、そこを拠点に村々を襲っては迷惑をかけ、報告を受けては聖騎士団が対処しに動き出す。
それが彼らの日常、そして今日も、いつも通りに終わると思って彼らは森に向かっていた。
暇つぶしに畑作業がどうとか、綺麗な女がどうとか、道中はそんな俗っぽい事を喋りながらの行軍。
いつの間にか太陽は曇り、辺りは暗くなる。
「魔女の強襲だ! 武器を構えろ!」
この声を発端にしたかのように、魔女は空からやって来て、血に飢えた蛇の雨を降らせた。
その蛇は全て魔女の手下、聖騎士は武器を振るって叩き潰す。
この戦いぶりは血に血を塗るような濃い戦い。
それを飾るかのように金属を掻きむしる音。
魔女は揃いも揃って首飾りを身に着けていた。
その首飾りから悪魔を呼び出し、魔法を繰り出していた。
そんな魔法の一つにて、魔女らは空を浮遊して、地上で暴れる騎士団を散々笑い者にしているのだ。
「あの悪魔を誰か撃ち落とせ。」
その声に応じて、誰かが槍を投擲した。
すると、ある魔女が胴体を貫かれて首から落ちた。
自慢気に敵へ視線をやる誰か、けれど、それすらも他の魔女は笑って済ませているようだった。
これを気味悪がって罵倒してみるが、やはり釈然としない。
わっ、誰かが叫び声を出す。
なんと、あの哀れな魔女の死体から、黒い膿が湧いて出ていた。
その黒い膿からは、黒い霧が産まれ、地表を包み込もうと手を広げて行き、それをただ呆然と見る事しか出来なかった聖騎士団。
この黒い霧は瘴気であった。
吸えば万病を患う、死を内包したかのようなもの。
瘴気は聖騎士団の武器防具を嫌い避けて通った。
しかし、彼らの口から離れる事は決してなかった。
「あぁ、神よ。どうか我らに救いを。」
皆それを口にして、一人一人と朽ちていく。
残された聖鉄装備が白く光る。
それから幾ばくかの時が流れた。
あの場所を魔女が青年に鎖を付けて通っていた。
その青年は抵抗する気力もなく、あったとしても動けなかった。
これを詳しく言えば、悪魔の力なのか、魔女はあらゆる生物の魂を縛り付けて奴隷にする事が出来たのだ。
つまり、青年は魂を縛られていた。
このままではスープにされる運命である。
けれど、青年は生きることを諦めていた。
それは魔女によって彼の村が破壊されたからであった。
胸の内に復讐心はあれど、ここからどう立て直すかなんて予想がつかず、希望に縋るだけ無駄だと考えていたからである。
ほら、地面に転がる白骨の群れよ。
彼らの最期は知らないが、青年はきっと犬死だと思っている。
しかし、奇妙なことだ。
腐っていない死体があるなんて。
青年は死者に紛れ込む元気な肌色を見つけていた。
これを勝手に、最近の死体なのだろうと納得したが、それを否定するように一つの銃声が森を震わせた。
誰が放った銃弾であったのか。
青年には、魔女を殺した結果しか見えない。
「やぁ、青年。よく無事であった。」
白い絹に身を包んだ神官が現れた。
彼の裾は赤黒い血で染まってる。
「貴方達は誰でしょう。」
これを聞くと、こう言った。
「それには答えられない、間違えでも名前を魔女に聞かれれば、魂は簡単に縛られてしまうぞ。ここでは最低限度の常識だ。」
なので、と神官は。
「私達は聖騎士団の者とだけ名乗らせて貰おう。」
彼が青年に手を差し伸べると同時に、薄暗い地面から複数の騎士が立ち上がった。
これが魔女に反逆する者達の姿であったのか。
「さて、青年よ。」
「貴方は思うままに生きなさい。自由と責任を持って。神は、責任を持てば誰であっても自由が許されると言った。」
なんだ、いきなり説法を聞かされては変な顔にもなる。
青年は突然のそれを神官特有の何かだと思っていると彼は言う。
「今のは自由の一節と呼ばれているものさ。魔女に魂を縛られた者にこれを聞かせると、途端に自由にさせてしまう。」
あぁ、人がこの世を生きるのは全て神の計らい。
そう言って神官は一人で喜び始めた。
「これは放っておこう。」
これを発言したのは聖騎士団の一人、その中でも特別立派な装備の人。
その男は、次に、青年の肩を掴んでこう言った。
「よく生きていた。ありがとう。」
意味が分からなかった。
しかし、どうしてか涙が出てしまう。
その後、その男に連れて行かれて、青年は聖騎士団の物だろう馬車へ着いた時にこんな事を聞く。
「...自分も聖騎士団になれますか?」
「なれるさ。きっと、帝国一番の。」
この答えに満足し、青年は馬車に乗った。
そうして青年は聖騎士団に保護されたのだが、故郷を失った彼に行き場なんてありもせず、復讐心だけが彼の居所になったのだ。
それがどのくらい続くかは神のみぞ知る。