阻む者たち
「さて、いずれ劣らぬ五名の武人がそろいました。お約束通り、勝ち抜いた方を、私の生涯の伴侶とさせていただきます。どなたが勝ち抜くのか。楽しみに見させていただきたいと思います」
香久耶は言葉を切った。
そして、改めて口にした。
「では、当家の衛士を三人、ご紹介させていただきます。皆様に劣らぬ、一騎当千の三人。ご紹介しておきます。まずは、湖東院流槍術、矢島岳」
壮年の男。決して大きくない体と、それに似合わぬ豪壮な筋肉。
岩のような男。
僕は名前も顔も知らない。
だけど、珠樹と石火矢が驚きの表情で見ていた。
その筋では、有名人、ということか。
「双樹真流抜刀術、鎌倉さなえ」
二人目。和装の女性。白い着物に墨染の袴。
そして手には規格外の長刀。
だが、何よりも。
その顔には見覚えがあった。
知っていた。
僕は知っていた。
秋葉原で見た、あの女だ。
まさか。嫌な予感。
「そして、流派はありません。カイルス・ガウガルス。我が衛士長にて、最強の戦士です」
その言葉に合わせて三人目が登場した。
目を見張った。
ガウさん……に見えた。
いや、だが男性だ。
骨格からして違う。
纏う空気は、女性と見紛う華を持っている。
そして、それに似合わぬ両刃のロングソードをさげている。
右腕には、小ぶりのバックラーも装備している。
胸は革製の防具に覆われている。
一瞬、目が合った。
だが、視線は一瞥して外れた。
やはり、ガウさんじゃないのか……。
いや、そもそも向こうも気づいていないかもしれない。
この格好だ。
そう簡単には気づかないだろう。
ガウさんには似ている。
そして、あの女もここにいる。
秋葉原で会ったとき、女性の格好をしていた、というだけだったのか。
見た目の性別が異なる、という点については、僕も人のことは言えない。
それとも兄妹? 血縁なのか?
呼吸を整える。
悩んでも仕方がない。
戦うだけだ。
相手が誰であろうと。
そう。むしろ、戦って倒すなら。
前に立ちたいと思え。
他の人間にガウさんを倒させる? ありえないだろう。
そして、今日の僕の仕事は、誰よりも勝ち抜くこと。
思考を切り替える。
「では皆さま。私は九頭山の頂上にてお待ちしております」
モニターが切れた。
そして、再度ついた時、画面は十六分割された画面に変わった。いずれも山中の風景だった。
初老の男が再度口を開いた。
「お待ちの方々のために、山中の風景はこちらにてご覧いただけます。戦いが始まるまで、しばしのお待ちを。そして、戦場へ入られる方はこちらへ。山の入り口へとご案内いたします」
引き締まった空気の中、四人の代理人と一人の候補者は移動を始める。
僕は、と言えば籐のバスケットと日本刀を収めた刀袋を肩がけして案内に付き従う。
ミシェル様が「ピクニックかよ……」と呟いたのが聞こえた。
まあ、そう見えるかもしれないけど、一応考えての行動です。
衛士の三人は別行動らしい。
まあ、恣意的に組み合わせられることもあるのだろう。
当たるのかな、あのガウさんらしき人と……。
そんなことを思いつつ、表で小型のマイクロバスに乗り込む。
ここで一緒に乗っていたら、声をかけられただろうか。
それとも、怖くて聞けなかっただろうか。
バスは無音のまま走り出す。電気自動車のようだ。
「山道の入り口は五箇所です。それぞれから山頂を目指していただきます」
運転手がそう言った。
要するに、巨大なあみだくじ。
僕は最後までバスに残り、最後の山道を上がることにしよう。
そして、その望みは普通にかなった。自己紹介の順に降りていったからだけど。
山道をのんびり歩く。
風が心地いい。
絵面だけ見れば、昼食の入ったバスケットを持ったピクニックの最中のメイドさん。
本来の仕事を忘れそうなくらい爽やかな空気。
だけど、まあ、そんなわけにはいかない。
ちょっとした広場になっている、山道の交差点。
「よう」
多治嶋人。
僧形の男がそこにいた。
話の区切りって、どこでつけたらいいのか、ちょっとそのへんが曖昧。
本当は、全部一気に掲載した方がいいのかなあ。
いや、そこまで書き溜めできてないんですけど。