お呼び出し
翌朝、執事のモートン様が、私を呼びだした。
「昨日はご苦労だった。ダグが感謝していた」
僕は無言で一礼。謝意を示す。
「日本へ行け」
いきなりの言葉。
「はい」
とは言え、僕には選択の余地などない。迷う必要はなかった。
ワイルドバンチのためなら、いつ、いかなる時でも命を捨てる覚悟で行動する。
僕の魂レベルに刻まれた命令だ。
ただ、疑問は感じる。なぜ日本へ。
「ミシェル様がお前を必要としている」
僕の胸の内を読んだように、モートン様が言った。
ミシェル様。
ジョージ様の次男。
今は日本で新しい市場の開拓を行っていると伺っていた。
「戦う兵士が欲しいと仰せだ。ただし、銃は使えない」
銃なしが条件、となれば僕が選ばれることには納得がいく。
ふと、モートン様が郷愁に満ちた表情を見せた。
「父親が生きていれば、あの男にまかせた仕事だ」
僕の父さん。
僕がワイルドバンチに身を寄せるきっかけとなった張本人。
そう言えば、モートン様は、父の戦友と聞いている。
銃なしの条件だったら、本来は父さん、もしくは姉さんの仕事だった。
生きていれば。
ならばなおさら、これは僕の仕事だ。
三年前。
父さんと姉さんは、南米の組織との戦争で死んだ。
今でも覚えているのは、怪我をして立てなくなった僕を置いていく時の笑顔。
「無駄死にはするな。全力で戦えなくなったら、後ろへ退がるのは当たり前だ。なあに、元気な俺たちにまかせておけ」
姉さんも一緒に笑っていた。
「さあ、雲雀。行くか」
「うん。じゃあ、燕、行ってくるよ」
「はい。父と姉の代わりは、私が務めます」
僕にできるのは、その務めを果たすことのみ。
「頼む。負けるとしても、不名誉な負けだけは許されない。いいな」
「信頼、必ずお応えします。そして、ワイルドバンチの名誉を汚すことはありません」
一礼。
チケットと指示書が差し出された。
「身なりも整えていけ。ウォーリックにも伝えてある」
「はい」
もう一度、一礼して受け取った。
僕はそのままモートン様のお部屋を出て、自室へと戻る。
レザーのトランクに生活品一通りと、愛用の刀を用意する。
部屋を見回す。
ひょっとすると、ここには、もう二度と帰ってこれないかもしれない。
調度品と呼べるほどのものもない部屋。
ベッドと鏡台。ゲーム用のPCとデスクと椅子。
唯一の飾りはPCのモニターの前に立つ、黄色い鳥のぬいぐるみ。
僕はそのぬいぐるみに声をかける。
「留守番、よろしくね。ラッピー」
僕は屋敷を後にした。
ラッピー、可愛いですよね。