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持仏堂香久耶のお願い

「香久耶さま、そのあたりにしておいてください。これ、あまり長いこと放っておくと、繋がらなくなりますよ」

 声の方を見ると、黒髪の少女。

 公式の「香久耶さま」がそこにいた。

 僕の左手をぶらぶらと下げている。



「そ、そうね。クロ、ちょっと待ってね」

 ガウさん、いや香久耶さまが僕の左手を持って、手首と繋げようとしている。

「魔術?」

「そうね。魔法の一種」



「浅葱祐実と申します。香久耶さまが、いろいろとご迷惑をおかけしました」

「いや……」

 そもそも、状況をつかめていない。


「私は香久耶さまの影。常に香久耶さまのおそばで、お守りする者です」

 表に出ていたのは、この人だ、ということ。



「香久耶さまは、あなたと一緒になるために、このお祭りを考えられました。我々も、かなり大変でしたの。責任、取ってくださいね」



 せ、責任?



 その時。

 ヘリの飛ぶ音がした。



 二人が驚愕の目で見ていた。

「なぜ、あんなものが?」

 そのヘリから、完全武装の兵士たちがラペリングで降下してきた。

 いい予想はしない。

 僕は立ち上がる。

 左手は、普通に動いた。

「すごい魔法だね。ありがとう」

 ガウさん、いや香久耶さまは返事をしない。



「ダメ、駄目なのクロ。この山で内燃機や銃を使っちゃダメなの。爆発は、龍を起こすの!」

 先ほどの自信は、どこへやら、といった感じの不安顔。


「祐実、これは一体?」

「香久耶さま」

 祐実さんがガウさんの脇に寄り添った。

「魂鎮めを」

「うん」

 ガウさんが返事。そして、僕を見た。




「クロ、お願い。私を守って」




「私は『世界』のために、今は死ねないの」




 守って、と言われた。

 僕と同等の強さを持っていた彼女が「守って」と言ったのだ。



「ガウさんには、絶対に手を触れさせないよ」



「ありがとう」



 ガウさんが走り始めた。

 奥の社殿に向かって。



 整理する。

 ガウさんは、この国の霊脈に住んでいる龍を押さえている存在。

 そして、その龍は「爆発」で目を覚ます。

 だから、ガウさんが鎮めなくてはいけない。



 僕の仕事は敵を排除すること。

 何だ。いつもやっていることと変わらないじゃないか。



「クロ!」

 背後から、ガウさんの声。

 振り向くと、一本の刀が文字通り「飛んで」きた。



 僕はそれを受け取る。


 朱鞘の日本刀。

 すらりと抜く。


 いい、光だ。




「香久耶を止めろ!」

 大伴だった。珠樹の雇い主。

 脇の兵士たちがこちらに向かってきている。



 あれが、敵か。



 兵士の数は、数十人。

 ヘリだけじゃない。

 トラックからも、バラバラと兵士たちが散っている。



 だが。

 負ける気はしなかった。




「撃て」

 兵士たちが、銃撃を開始した。

 一気に間合いを詰める。



 大伴の前に立ちはだかる二人の首を飛ばす。

 向けられた銃口と殺意を全身に感じつつ、懐へ。

 心臓を一突き。

 そして、刺した男の背中で銃撃を受ける。



「くくくく、くそメイドがあああああ」

 大伴が拳銃を向ける。


 ふと見ると、少し様子がおかしい。

 あんなに、口が大きかったか?

 何となく、蛙というか、魚というか。

 両生類っぽさを感じる。


 興奮のしすぎか?


 左右に身体を振って距離を詰める。



 一人の兵士が大伴の前に立ちはだかる。

 ライフルで、僕の刀を受ける。

 そのまま、ライフルを捨て、ナイフで切りかかってきた。

 なかなかの判断と動き。

 だが、一刀で切り捨てる。



 この程度の人数。

 全員仕留める。

 決意というレベルではない。


 ただ、そう決めただけのこと。

 一人として、生かして帰さない。



 殺気。

 ステップして避けると、大地がえぐれていった。

 ヘリからの銃撃だった。

 ヘリの脇から、ガトリングガンが火を噴いている。


 機関銃手は笑顔だった。

 何人か、兵士が巻き添えを喰らっている。


「むちゃくちゃじゃないか!」


 こういう時は、正直手も足も出ない。


 はずだった。


 いきなり、機関銃手がのけぞった。

 首筋に矢。



 視線を走らせると、弓を手にしたマルコ・ホーラが木の上にいた。

 額には包帯。


 次々と矢を射掛ける。


 さすがに、コクピットの強化ガラスを破壊する、というわけにはいかないものの、フルオープンの銃座には、誰もやってこない。



 助かる。


 僕は走り、立ちはだかる兵士を斬り捨てていく。


 一人、大柄な兵士が立ちはだかった。

 顔には、暗視ゴーグルとガスマスク。

 普通にバケモノの類だ。


 肩がけに振り下ろす。

 妙に硬い手応えに、はじかれる。


 足を止める。


 銃撃。

 くそ、止められない。


 左に回り込もうとする僕に向かって、その大柄な兵士が殴りかかってきた。

「!」

 上段からの一閃。



 ゴーグルとガスマスクが二つに割れた。


 その中に。



 明らかに人じゃない顔があった。



 魚のように扁平な顔、大きな目、

 魚の顔だ。


 何だ、これは。

 できの悪いホラー映画の半魚人?



「むん」

 鉄棍が魚の顔に突き刺さった。

「viiiiiviviviviviiiiiii」

 聞き取れない叫びとともに、魚は倒れた。



「深きものどもか」


 多治嶋人がそこにいた。


「こいつら、邪神の眷属どもだ」


 僧服の袖が翻る。

「安心しろ。殺せば死ぬ。ちったあ、硬いが、お前の刀なら、何とかなるだろうよ」

 そして、鉄棍を振り回す。


「そうだな、斬ろうと思えば斬れる」

 背後から声。

 足元には、斬り伏せた半魚人。

 剣聖、珠樹龍光がそこにいた。


「さあ、一匹残らず始末するぞ」

 多治が叫ぶ。


 ああ、一匹残らず、始末してやる。



 だが、言うほど簡単ではなかった。

 始末したはずの兵士たちが、ゆっくりと起き上がってきたのだ。



 魚の顔で。



 ただの人よりはしぶといということだ。



 だが、こちらの人数も増えていた。

 遠くに見えるのは、たしか、鎌倉さなえ。

 秋葉原で見た女。


 恐ろしい速さで、兵士たちを切り刻んでいる。




「RPG!」

 誰かが叫んでいた。

 トラックの影に、ロケットランチャーを担いだ兵士。


 マルコの矢が襲いかかる。

 大きくのけぞったその兵士は、そのまま引き金を引いた。



 空に向かったロケット弾は、そのままヘリに命中し、爆発した。

 そして、大地へと叩きつけられる。



 思いきり、大地が揺れた。



 爆発の衝撃だけではない。



 山が揺れていた。

 大地にいくつもの裂け目ができ、そこから光と煙があふれている。



「まさか」

 龍って、本当に?



「ハハハハハハハハ。よみがえれ、我らが神よ! 深海の九頭竜よ! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん……」



 大伴が叫んでいた。


「さあ、後はかぐやを殺せば、障害はなにもない! 進め、そして殺せ!」


 その叫びが、僕に火を点けた。

「殺させる……ものか!」

 集団の中に飛び込む。


 そこへ、さらに数台のトラックが入ってきた。

 ただ、音がしない。

 電動のトラックだ。



 わらわらと人が降りてくる。

 大きな透明の盾と、銃を抱えている。

 整列と同時に、手に持った銃を構える。

「射てい」

 声と同時に、矢が発射された。

 無音で。


 半魚人たちが壁となる。


 その脇には僧兵たち。

 おそらくは、多治の仲間。


 彼らの突入の背後で、真ん中にいたトラックが進み始めた。

 見ると、神官というか、巫女というか、時代錯誤な格好をした人々。


 あれが、ガウさんの「援軍」なのだろう。


 戦力の投入によって、戦況は変わっていった。




「ええい。引くぞ」

 大伴が、自軍の不利を悟って、撤退を命じはじめた。

 ヘリに向かって撤退を始める。



 飛び交う銃弾は、僕らの足を鈍らせる。

 その隙に、ヘリがふわりと浮いた。




「ヤツを追え! これ以上、何もさせるな」

 叫んだのは多治。

「でも」

 ガウさんを置いていくのは。

 躊躇する僕に、多治はきっぱりと言った。



「これを押さえるのは、俺たちの仕事だ。ヤツらはまかせる!」



 気づくと、多治と似たような格好の僧侶が数人立っていた。

「さて、かぐや様をお助けしよう」

「応よ」



「ヘリを追うぞ!」

 トラックの運転席に、マルコが収まっていた。

「今なら乗せていく。来るか」

「もちろん」


 僕と珠樹は、トラックに乗り込んだ。

 鎌倉たちは残ることを選択。

 奴らの残党を警戒してのことだ。

 石火矢もトラック組。

「さあ、行くぞ」



 トラックは無音のまま走り始めた。


A Kind of Magic(魔法の一種)

とある剣劇映画のセリフの一つ。

筆者はその映画の大ファンでもあります。


セリフがそのまま曲名になっており、歌うはQueen。


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