幕間
「終わったな」
ミシェルが呟いた。
控室の画面では、ほぼ、同時に始まった三つの戦いが終了した。
珠樹龍光対矢島岳。
珠樹の勝利。
石火矢大吾対マルコ・ホーラ。
マルコの勝利。
多治嶋人対燕。
燕の勝利。
鎌倉さなえとカイルス・ガウガルスは登場せず。
いずれの戦いも、血と火花を散らしていた。
候補者五人のうち、まず脱落したのは、阿部と多治。
そのうち、待合で画面を見つめていたのは、四人。
結果、阿部のみが頭を抱えることとなった。
「すまんな」
藤原が阿部に声をかけた。
阿部は返さない。
敗北の事実。
そして、生死の境にいる親友。
壊れたプライドに後悔を混ぜた、苦い味わい。
とは言え、支配者として受けた教育は、阿部に折れることを許さなかった。
「いや、あんたの勝利を祝福するよ」
なけなしのプライドが放った、精一杯の強がり。
その矜持。
阿部は政治家だった。
政治家たらんとしていた。
阿部は懸命に、その矜持を保っていた。
ミシェルは、ワインを舐めながら、日本人たちとは距離を置いていた。
日本の将来を支えるであろう人間たち。
今後のことを考えれば、付き合っておく必要はあるだろう。
だが、いわば真っ直ぐに育ってきた「お坊ちゃま」たちである。
自分のような犯罪組織の人間とは、距離を置きたがるだろう。
そう考えての配慮だった。
「色物枠と自称していた割には、やるじゃないか」
ミシェルが顔を上げると、そこには大伴。
「ありがとうございます。まあ、うちのメイドはひと味違うので。綺麗な技も、汚い技も、いろいろと取り揃えています」
「多治を倒すとは思っていなかったよ。なかなか人材が豊富なようだ」
「荒事しか知らないもので。ですが、荒事ならば、いろいろなタレントはいますよ」
「我々が表に出るわけにはいかない仕事があるんだ。今日の決着がついたら、少し時間をもらいたいと思ってね」
「喜んで」
ミシェルは、大伴とグラスを合わせる。
そのタイミングで画面が珠樹を映し出した。
のんびりと握り飯を食うさまは、これが戦いの場であることを感じさせない。
そして、そこに燕が現れた。
「ほう。燕の相手は剣聖か」
ミシェルの呟き。
「これは残念だったな。珠樹殿に勝てる人間は、この世にいない」
大伴が笑みを浮かべる。
「まあ、どうだろうな」
火花が散る。
雇い主同士が火花を散らす中、画面では燕が花柄のビニールシートを敷き始めた。
珠樹がそれに応え、ビニールシートに腰を下ろす。
「おいおい。そこは何が始まった?」とは藤原の声だ。
阿部も、何かよくないものを見ているような表情。
大伴も怪訝そうな表情で、画面を見ている。
もう一つの画面ではマルコ・ホーラと鎌倉さなえが対峙していた。
こちらは、互いに武器を構えた臨戦態勢。
ここで一人ないし二人の候補者が落ちる。
代理人を戦わせて、いい身分だな。
ミシェルは、そんなことを思いつつ、舌でワインを転がす。
そう考えると、多治という男が、香久耶にもっともふさわしかったのではないか。
自分のことを棚に上げつつ、そんなことを思う。
そして、バトルロイヤルの第二戦が始まった。




