はじまり
何となく、つい……。
「身を固めようと思います」
とあるパーティーの場。
その発言は、爆弾のような威力を発揮した。
発言の主は、持仏堂家の長女、香久耶。
持仏堂家は、この国を護る霊的な象徴として確固たる地位をもった家柄だった。
その家の長女の夫となるという事実は、この国の裏側を手にするということと同義だった。
その日から、政界、財界の様々な血筋の若者たちが、香久耶への目どおりを求めて押しよせた。
その、押しよせた者たちを前に、香久耶は言った。
「五月のよき日、九頭山の頂上の庵にて、私の夫になる人を待とうと思います。私を護る三人の衛士を打ち倒し、たどり着いた者が私の夫となる方です」
座が凍りついた。
三人の衛士。
常に香久耶の脇に、入れ替わり控える三人の武人。
槍を携える者。人の背ほどの長大な直剣を携える者。日本刀を携える者。
いずれ劣らぬ強者ばかりと噂の三人。
腕自慢が立ち会いを願い出て、一瞬のうちに打ち据えられたとの話も伝わっている。
「彼らに勝つ自信のない者は、代理の方を立ててもかまいません。大切なのは、私のもとにたどり着くこと。その命を賭して」
香久耶の退席した後、御付きの者が改めて条件を述べた。
一つ、飛び道具は許されない。特に銃火器の使用は許されない。
九頭山は聖なる山。それを汚すことは、決して許されない。
それともう一つ。生命を奪っても、その夜に限り、不問とする、と。