愛と涙の味
まずはこの作品に興味を持っていただいたたことを感謝いたします。
今の自分が書きたいことを書き、拙い部分も多く、お目汚しをするかもしれませんが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
また、あとがきにてこの小説のキャラ設定を載せていますので、興味がある方はそちらもぜひ。
この小説を読み、心を動かせたら一番嬉しいです。感想はもちろん、誤字、脱字、文章的におかしいところなどの報告もお待ちしております。
※この小説はハーメルンにも投稿しています。
「お、王女様、初めまして。私はエクル・レンダーと申します。恐れながら王女様の婚約者となった者でございます。ど、どうぞよろしくお願い致します!」
緊張と混乱と目の前にいる少女への愛情が綯い交ぜになり、貴族としての余裕がない。王女様の旦那となるには余りに頼りない……それが、周りの侍女達の初印象であった。
「……ええ、よろしくお願いしますね、エクルさん。どうか仲良くしていただけると嬉しいです」
ふわり、と可愛らしい顔に優しげな笑みを浮かべ、王女は優雅に返答する。表だけを見れば、若い男女の初々しい初会合に見えるかもしれない。
だが、王女は自分の名を名乗っていなかった。このアルファルト王国において、名を名乗る、名乗り返すというのは貴族の子供が最初に習う礼儀作法だ。つまり、王女はこう言っているのだ。
——『お前を婚約者などと認めない』と。
これは最大級に礼を欠いた行為と言っていい。だが、侍女達は王女を諌めることはしなかった。それは王女が怖いなどという理由ではなく、男の立場がそこまでしても問題ないほど低いからだ。
そもそもエクルの実家は辺境伯である。元は平民の家に、国境の警備を任せるとともに与えた称号であり、貴族としての権限など何もない名ばかりの貴族である。
そのことを知ってか、あるいは気づかずかはわからないが、エクルは礼を欠いた王女の挨拶を特に気にすることなく再び話しかけた。
「えっと……王女様は紅茶はお好きでしょうか? 大したものではございませんが、私の実家で栽培している中で一番良い茶葉をお土産にと……」
「まぁ! 嬉しいです! 早速淹れてもらいましょう!」
侍女達にも一瞬で分かるくらい、清々しいほどの作り物の笑顔だった。
◇◆◇◆
そもそもアルファルト王国第三王女であるドールテ・グラル・アルファルトにとってこの婚約は望んだものではないのは誰の目にも明らかだった。
当然であろう。事情あってのこととはいえ、婚約者の実家は辺境伯、何かの分野で功績を残したわけでもなく、他の家と違うところと言えば多少各地の辺境伯に顔が広いだけ。これでは政略結婚にすらならない。
親である王と王妃に何を考えているのか聞きたい気分ですらあったが、そんな気力も出ないほどに彼女は疲れ切っていた。
できるのはただエクルを婚約者と認めないと言うことだけ。まるで駄々っ子のようだと、宮中の者は思っているだろう。……ドールテも例外ではない。
とはいえ、エクルが辺境伯だからうんぬんというのはあくまで公としての理由である。別にドールテ自身がエクルを嫌いだとか、レンダー家に恨みを持っているわけではない。
……ただ今は色恋沙汰とかに関わりたくなかったのだ。
しかし国王もそんなことは承知でエクルを送ってきたということは、ここで彼をあからさまに追い返したところですぐに次の候補が来るだけである。
不幸中の幸い、エクルは人畜無害そうで大人しめな見た目をしているという、まさに下位貴族のテンプレをした性格そのままの見た目をしている。下手に迫ってくることもないだろうと判断したドールテは、ひとまず彼を迎え入れることにした。
……悔しいことに、彼が持ってきた茶葉から淹れられた紅茶は、王宮暮らしで肥えているドールテの舌をも唸らせるほどに美味であった。
◇◆◇◆
「お気を悪くなさらないでください」
王女様との初会合を終え、最低限の設備と自室まで案内してくれた侍女さんが唐突にそんなことを言い、エクルは疑問符を浮かべた。
「気を悪くするようなことなんてなかったですけど……」
今日は何もかもが初めてで楽しかったくらいだ。初めての王都、初めての王宮、初めての王女様とのお喋り……慣れない敬語と煌びやかな服、そして緊張によって疲れることはあっても気を悪くするようなことはなかった。
「……エクル様は少々、貴族としての礼儀作法、態度や裏を読む力が拙いようですね。ドールテ様の婚約者である以上、それらは直していただかねば……」
「が、頑張ります」
侍女さんの容赦ない物言いに割りかし弱い僕の心はかなり傷つくが、全て事実である。王女様の隣に立つために必要なことは何でもやる覚悟で来たのだ。それくらいやってみせねば。
「……明日からはそれらのお稽古が始まるでしょうから、本日は長旅でお疲れでしょうし、ゆっくりお休みなさいませ。また明日、お時間になったら参ります。何かございましたら遠慮なくお呼びください」
「あ、じゃあ聞いても良いですか? その……ぶっちゃけ、僕って王女様に歓迎されてませんよね?」
さすがにそれくらいは気付くか、というのが侍女の率直な感想だった。
紅茶に頰を緩めはするが、エクルの話には生返事ばかりで自分からは会話をしない。笑顔こそ浮かべているが、まるで仮面のようにその表情から変わることなく、本心からのものではないことが丸わかりだ。
侍女兼王女の教育係としては補修まっしぐらな点数をつけたいところだが、空っぽになってしまったドールテを見て責める気にもなれなかった。
「……申し訳ありません。ドールテ様には私から言っておきます」
「いやいや大丈夫です! 王女様の気持ちもわかりますし……僕自身もなんで僕が婚約者に選ばれたのか分かりませんし……」
ドールテもドールテでそこは気になるところであろうが、一番気になるのはエクルだろう。
いつも通り仕事をしていたら、突然この国で最高の身分を持つ一人の婚約者となってもらいますと言われるなんてまるで小説だ。
もちろん、貴族……それも王族の結婚に打算がないわけがない。だが王女様と自分の結婚によって王族にもたらされる利益とは一体なんなのか? 長い旅路の途中で考えても答えは出なかった。
「エクル様、今代の国王様についてどこまで知っていますか?」
「え? えっと……戦に強くて、一代で領地を広げている武王であり、優れた政策を打ち出す賢王とも呼ばれていることくらいしか……」
……よく勉強している。
国境の警備を任せるとはつまり、国の中心……王都から一番遠い場所にいたということだ。国の中枢の事情が勝手に入ってくるわけではなく、国王のことも自ら知ろうとしなければ知らない者ばかりだ。
「その通りです。国土が広がるということは、そこを守る者達にも影響を及ぼします。どんどん前進させられれば、辺境伯にも不満が溜まる。国王様は今、辺境伯に注視されています」
「え? えっと、つまり?」
「国王様が言うには国とは上だけを固めても土台がしっかりしていなくては成り立たない……つまり、国王様は辺境伯との繋がりを強めようとしているのです。そして、貴族社会においての繋がりの意味は簡単です」
「結婚……」
呟くように言うと、侍女が頷く。
確かに、実家ではストレスを発散するように父がいつもより多くの酒を煽っていたし、領地拡大により他国の兵との小競り合いも増えた。不満が溜まっている、というのは確かだろう。
「しかし、問題も多い。血筋を重視する貴族の反発や、王族と辺境伯との身分、価値観、生活の違い。いきなり大々的にやるわけにはいかなかった。少なくとも、成功例がなくてはやる意味がない」
「それが僕達ってことですか」
「はい。ヴウール地方辺境伯のリーダー的存在であるレンダー家……そのの跡取りであるエクル様と王族であるドールテ様が仮に上手く行き、結婚でもすればヴウール地方の不満による反乱の可能性は限りなく低くなります。国王様はいずれはこれをすべての地域で実施し、反乱の芽を可能な限り潰したいらしいです」
言うなれば、国策の被験体みたいなものだ。
成功例があれば血統主義の貴族を黙らせることができ、国力は強まる。失敗したならやらなければ良いだけ。どちらに転んでも損はなかった。
「……教えてくれてありがとうございます。ワケがわかってスッキリしました。えっと……」
「エリカ、と申します。しかし宜しいのですか? エクル様からすれば勝手に決められた望まない婚約なのでは? 拒否権はないかもしれませんが……」
望まない婚約? とんでもない!
「エリカさん、大丈夫ですよ。だって、僕はドールテ様を愛していますから」
◇◆◇◆
私に新しい婚約者が出来て、数ヶ月が経った。
エクルは辺境伯という名の実質平民なので、王宮で暮らす以上身につけなければならないことは沢山ある。
教養、馬術、ダンス、お茶の淹れ方、文字の読み書き、礼儀作法や立ち振る舞い。
エリカに言われて暇な時はエクルのお稽古を見に行くが初めの頃よりマシになったな、程度にしか思わなかった。そこらへんの貴族の子供の方がまだ出来るだろう。貴族が子供の頃から仕込まれているのに比べるのも酷な話だが、必要なことなのだから仕方がない。
そんなエクルを笑う者も多い。身分の低さも相まって、王宮内での彼の生活は良いものとは言えない。
それでもエクルは文句を言わずにお稽古に励んでいた。望まない婚約のためにここまで頑張れるモチベーションはなんなのか、私にはわからなかった。
エクルのことは嫌いではない。素朴だが、真面目で優しく、頑張り屋だ。だが彼のために何かしてあげようと思うほど好きでもなかった。
私たちは未だに手すら握っていない。
一緒に歩いていると、時折エクルは手を差し出そうとするが、私の顔を見ると困ったように笑い、黙って手を引っ込めた。
女性の手をある程度強引に取りに行かない奥手さは貴族の男性としてはマイナスだが、個人的にはありがたかった。
いつかはエクルと手を繋ぎ、口づけを交わし、子を為す日が来るのかと思うと全く想像出来なかった。
……私達って、本当に婚約者なのだろうか。
◇◆◇◆
「……今日も何も進展がありませんでしたよ……」
「……そうですか。愚痴を言うために私を呼ぶのはおやめくださいと何度も言っているのですが……」
この数ヶ月ですっかりエクルの相談役になってしまったエリカはボヤく。確かに彼らの関係が上手くいくように援助するのも仕事であるが、毎日のように呼び出され、慣れたように見送る他の侍女達の態度に不満を抱かざるを得ない。
「……すみません。なにぶん他に話せる人がいないもので……」
それを言われるとエリカも弱い。
エクルは王宮で肩身の狭い思いをしている。それがエクルに何か問題があるならばエリカもここまで親身にならないが、本人は至って真面目に慣れない稽古に励んでおり、生活態度にも問題はない。
普段鉄面皮で分かりにくいが、そんなエクルを拒絶することが出来ないくらいの情をエリカは持ち合わせていた。
「はぁ……構いません。これもお仕事なので。本日もドールテ様へのアプローチをご一緒に考えればよろしいのですか?」
「あ、はい。それはもちろんお願いしたいんですが……あの、ドールテ様がなんで異性からのアプローチを嫌がるのかと思いまして……」
最初は自分が嫌われているのかと思い、毎晩枕を濡らしたものだがドールテ様は最初からあんな態度だった。それに社交パーティーでも、貴族達のダンスの誘いをやんわりと断っていた。貴族世界の雰囲気を感じさせるために参加させられたパーティーは見学しかさせてもらえなかったが、彼女がダンスに誘われるたびに奥歯を噛み締め、断るたびに安堵したものだ。
「あまり込み入った事情はお話するべきではないのですが、簡潔に言いますとドールテ様にはエクル様の前に、別の婚約者がいました」
「エッ!?」
故郷で大男との戦闘で鎧越しに食らった棍棒並みの衝撃が頭に走る。
……いや、考えてみれば当然なことだ。ドールテ様は第三位とは言え王女様。立派な王族であり、許嫁がいてもおかしくなかった。
「そして、その婚約者のことをドールテ様は大層愛していました」
「ウッ!」
「それはもう、見ているこちらが恥ずかしくなるくらい甘々な雰囲気で……」
「イッ!」
「熱い接吻をしているのも見たことがあります」
「アッ!」
「まぁ、最後のは嘘ですけれど」
次々と明かされていく新事実に打ちのめされている僕が俯いていた顔を上げると、エリカさんが悪戯っ子のような笑みを浮かべている。どうやらからかわれたらしい。良かった……あれ? 最後のはってことは、他のは本当のこと!?
「しかし、そんな中で相手方の実家がエルート戦争で大きな武功を挙げ、国王様はより強い繋がりを求め……その婚約者は、現在では第一王女様の婚約者です」
「……つまり、ドールテ様は……」
「はい。出世のために捨てられたも同然です。少なくとも、ドールテ様はあれから変わってしまいました。悲しんでいるのか、憎んでいるのか、怒っているのか……私にはその胸中を推し量ることは出来ませんが、エクル様が本気でドールテ様と結婚するつもりなら避けては通れない問題でしょう」
「……難しい問題ですね……」
エクルはドールテを愛している。これは胸を張って言えることだが、それだけではやっていけないこともエクルは理解していた。
ドールテに未だ残る胸のわだかまりをどうしたら解せるのか? エクルはドールテが初恋で、捨てられたら泣く自信があるが、実際に捨てられたワケではないため、ドールテの気持ちがわからないのだ。
何をしたいのか、何をしてほしいのか。
愛する人の心模様一つ読み解けない事実が歯がゆかった。
「……そこまで気負う必要はありませんよ。もしかしたら時間が解決するかもしれません。それに、女心を読み解くのは、どんな文才があっても不可能だと言われるくらいですから」
「……はは、確かにエリカさんの女心は誰にも読み解けなさそうですね」
「……たまには私も愚痴を言わせていただきます。最近教え子が生意気な口を利くようになって来たのでお稽古を厳しくしようと思うのですが、どう思いますか?」
「か、勘弁してください……」
そんな冗談の言い合いに、二人して頰を緩める。
うん、エリカさんとだって少しずつ仲良くなって軽口が叩けるくらいになったんだ。ゆっくりと、僕達のペースで近づいていけたらいっか。
◇◆◇◆
第一の事件が起きたのは、そんな時であった。
王族は、当然だが気軽に外出できる身分ではない。故に愛を育むデートをするのは王宮内である。
エクルとドールテは、久々に王宮内の花園でデートをしていた。
「ドールテ様、見てください。滅多に葉を付けないオオシダレがあんなに青々としていますよ」
「そうね、綺麗ね」
だが、結果は芳しくなかった。エクルが話しかけ、ドールテが相槌を打ち、エクルが苦笑いをする……この二人の会話は出会った時からこんな感じだ。あまりの進展のなさに、さしものエリカも顔を覆いたくなった。
しかし三人ともあることを失念していた。
王族の逢瀬は、王宮で行われる……そして王族とは、ドールテ一人だけのことではない。
最初に見つけたのはドールテだった。もし、エリカが最初に見つけていたら……あるいはエクルが彼の顔を知っていたら、それとなく進路を変えていたかもしれない。
ドールテの視線の先には一組の男女がいた。だがそれだけで、ドールテが逃げ出してしまう充分な要因だった。
「ドールテ様!?」
突如逃げ出したことに頭が混乱するエクルに対し、状況を把握したエリカは迅速だった。
「エクル様、ドールテ様を追おいください」
「エリカさん?」
「いいから、早く!」
エリカの珍しい大きな声に、エクルは弾かれたように走り出す。普段からかうことはあっても、稽古の時の厳しさを感じ取ったからだ。
ドールテが走って行った方向で、ドールテが向かいそうな場所の心当たりは一つしかなかった。普段、ドールテに呼ばれることはないため、エリカに呼ばれた時にしか向かわないドールテの部屋である。
ドールテの部屋の扉は部屋主の気持ちを代弁したように暗く見えた。
怖がらせないように、優しくノックをするが返事はない。仕方ないので、扉越しに声をかけることにした。
「……ドールテ様、エクルです」
「……帰ってよ」
声はすぐそばから聞こえてきた。きっと部屋に入ったら動く気力すらなくなったのだろう。だがそんなことよりも、エクルにとってはドールテが泣いていることの方が問題だった。
愛する人の初めて見た本気の表情が泣き顔だとは、自分の力不足が嫌になる。
「……すみません、いくらドールテ様の命令でも聞けません」
エクルは初めてドールテの命令に逆らった。そしてそれきり沈黙が続くが、それを破ったのはいつも通りエクルだった。
「……ドールテ様、どうしたのですか? 何か私が至らぬことをしたのでしょうか? もしそうなら、誠心誠意謝罪致します。教えていただけないでしょうか? ……恥ずかしながら、未熟者の私はドールテ様が今何をお思いなのか、検討もつかないのです」
「……あなたには関係ないじゃない」
「あります。私……いえ、僕はドールテ様の婚約者なのですから」
情けないことに、エクルはドールテに対しハッキリとした意思を示すのも初めてであった。その気迫に気圧され、またしてもドールテが黙る。しかし、今度沈黙を破ったのはドールテの方であった。
「……私に、あなたの前に別の婚約者がいたことは知ってる?」
「……はい。不躾ながら、エリカさんから聞きました」
「本気で愛してた。この人と手を繋いで歩いて、キスをして、この人の子を産みたいとすら思ったわ」
「……はい」
当時を思い出しているのだろうか、ドールテの声色は弾んでいて……エクルの心は沈んでいた。ドールテの砂糖はエクルにとって毒も同然だった。
「でも、そんなのは私の子供じみた夢でしかなかった。彼は家の意向に従って、私を……」
「ドールテ様」
声が震えていた。エクルは、その先を言ってドールテがこれ以上泣いてほしくなかった。自分はそのことを知っている。知っているのに知らせようとして泣かせている。
「……大丈夫よ。……彼は私を捨てたの。今は同腹の姉様である第一王女の婚約者。さっき、そんな二人を見て、耐えられなくて、逃げ出した。それだけよ」
「……つまり、ドールテ様は今でも」
「……えぇ、愛しているわ」
胸が、苦しかった。何かが詰まっているような、締め付けられているような痛みが絶えずエクルを襲った。いつの間にか、眦から涙が溢れていたことに気づく。
「……ごめんなさい。婚約者であるあなたに話すことじゃなかったわね。……笑ってくれていいのよ? 自分を捨てた男を一年近くも引きずって、未だ愛しているなんて馬鹿な女だって」
「……笑いませんし、笑えません。僕も同じです」
「……あなたも?」
「えぇ。とても辛いし、目からは涙が溢れる。胸は締め付けられ、胃液が口から飛び出そうなくらいだ。好きな人に、愛している人がいると知って、本当に辛いのに、それでもなお、私はドールテ様を愛することを辞められそうにないのですから」
「……え?」
初めて聞くドールテの惚けた声に、そういえば直接愛しているって言ったのは初めてかもしれないと気づいた。
そして、三度沈黙の空間が彼らを包んだ。
「……ドールテ様、今の状況はお辛いですか?」
「……辛いわ」
エクルは婚約者として、男として、そして何よりドールテを愛した者として、その一言を消したかった。そしてこう言わせるのだ。幸せだ、と。
「ドールテ様、僕は今まで、僕が振り向いて欲しくて必死にドールテ様にアプローチして来たつもりですが、それだけはもう辞めます」
「……え?」
「これからは、ドールテ様が叶わぬ恋に悲しまなくてもいいように、僕に振り向かせます。振り向かせるくらいにいい男になります。……約束です」
自分がドールテ様の愛する人になるくらいの男になれば悲しませずに済む。結局やることは今までと変わらないが、意識が変われば行動も変わるだろう。
「……そもそも何で私なんか好きになったのよ」
「なんか、というところは凄く訂正したいですが……僕、実はドールテ様に一回お会いしたことがあるんですよ」
「嘘!?」
「ホントです。……僕の実家が辺境伯なのはもうご存知かと思いますが、父が物凄い厳格な人で、毎日しごかれてたんですよ」
その話はドールテも聞いたことがあった。ワケを聞いてみれば、それは至極真っ当なことであったが……。
「……【辺境伯は強くあれ】。父の口癖でした。辺境伯は要は国境を守る防人。当然他国との小競り合いもあるから、強くなくてはいけない。厳しい稽古も、今思えば父の親心だったんだとわかります」
「……」
ドールテは黙って話を聞いていた。王宮ではまず聞くことがない、ともすれば野蛮だと切り捨てられる話。しかし現実として、王宮貴族達が野蛮だと言う仕事でアルファルト王国の国境は守られているのだ。
「……で、僕はこんな見てくれですからいじめられてたんですよ。嫌われてたワケじゃなく、ストレスのはけ口にされてたんだと思います。……僕が泣いて帰ると、父が木刀を持って毎回こう言いました。やり返してこいってね」
「……【辺境伯は強くあれ】」
「その通りです。舐められてはいけない。やられてもいいからやり返さなきゃならない。強くあれ……いじめっ子より父が怖かった僕は律儀に毎回やり返しに行くんですけど、多勢に無勢で相手を倒してもこっちもボロボロでした」
痛かったなぁと笑うようにぼやくエクルに、ドールテは初めて世界が違うと感じた。……エクルが初めから王宮暮らしに馴染んでいたわけではなく、きっと自分がエクルを眼中にすら留めていなかったのだろうと思うと、ドールテは自分で自分が嫌になる。
「……まぁ、そんな生活を続けていればいつかは限界が来るわけで……ある日、空腹と痛みと疲労で、僕は路上に倒れこんだんですけど、その時、ある人がパンを分けてくれたんです」
「それが……私?」
「はい。お互いに幼き日に僕らは出会い、ドールテ様がパンを分けてくれ、一緒に食べて……その後は特に何もなく別れました。あの時食べたパンは、世界で一番美味しかったなぁ……」
少年が憧れの英雄を語っているほどに明るい口調で彼はドールテとの思い出を語った。まるで、大切な宝石を眺めるように。
「……それだけ? 何でその女の子が私って分かったの?」
「はい。それだけでも僕にとっては万の宝に勝る思い出なのです。ドールテ様と分かったのは、お互いに名前だけは自己紹介したからですね。王族の方と同じ名前を付けるのは禁じられていますから」
アルファルト王国には、王族と同じ名前を付けるべからずとした法律がある。王族の名は神聖なものであるかららしいが、今代の国王……つまりドールテの父は鼻で笑っていた。
そしてドールテは羞恥に悶えていた。キラキラした思い出を語られたから……ではない。幼い頃に名前を教えあった、と彼は言った。対して、数ヶ月前のドールテは名前すら言わずに礼を欠いていた。……そう、彼女は幼い頃の自分に負けた数ヶ月前の自分を恥じていた。
「……ごめんなさい。私、その出来事全く覚えてないの」
「大丈夫です。人は非日常のことを覚えやすいもの。きっとドールテ様にとって、倒れている人間にパンを恵むなど当たり前のことだったのでしょうね」
……私、そんな立派な人じゃないんだけどなぁ……。
端から見れば、かつての婚約者を今でも愛していると今の婚約者に告白し、それでも自分を愛していると告白され、ろくな返事もできていないクズ女である。
本当に、たったそれだけのことで何で自分なんかを好きになるのかが分からなかった。
「……ホント、何で自分の心すら思い通りにならないのかしらね?」
「思い通りにならないからこそ、強い愛になるのでは?」
「フフッ、何それ。……でも、ありがとう」
エクルは、初めて自分の力で笑わせた愛する人の声を生涯忘れないだろう。
◇◆◇◆
「……と、言うわけでその元婚約者さんよりイイ男になりたいんです!」
「何が、と、言うわけで、ですか……! ……しかし、ドールテ様との関係が前進したことは大きな収穫ですね」
もう何度目かすらわからないドールテ攻略会議の開催である。議員はもちろんエクルとエリカだけだが。
「でも、あのドールテさんが今でもあ、愛してる……ってことは凄くイイ男だと思うんですよ……」
「自分で言って傷つかないでください。ですが……ユリアス様ですか……経済力、社交性、容貌、能力……正直、エクル様が太刀打ちできるところが見当たりません」
「え、エリカさん……」
開幕でジャブどころか、スカイアッパーを食らった気分である。効果は抜群だ! エクルは会議開始数分でKO寸前だ。
「……ですが、エクル様が優っている部分もあります。人の良さと……ドールテ様への愛情です」
「え、エリカさん……!」
地の底に叩きつけてから、天に昇らせる。恐ろしい飴と鞭であり、エクルはすでに骨抜きである。ドールテという愛する人がいなければ、エリカに惚れていた……かもしれない。
「……でも現実問題、すぐに成長出来るわけではないですからね。地道にやる他ないんですかね?」
「そうですね……幸い、国王様から婚約期限の指定はありませんし、ドールテ様の事情もご存知ですから、すぐにどうこうということはないかと」
「……じゃあ、いつも通りお稽古頑張ります」
「はい」
話は終わったと判断し、椅子を引いて席を立とうとする。本来侍女が同じ席に着くことは褒められたことではないが、命令なら別だ。
「あ、エリカさん、別の相談もあるんですよ」
「まだあるのですか……」
若干嫌そうな声をしても席に着き直してくれる辺り、心底良い人だと思った。
「実はですね……ドールテ様があれ以来よそよそしい? 僕を避けてる? んですよ」
……こういう時、なんと言えばいいのだったか……ああ、そうだ。
「爆発してください」
「何故に!?」
◇◆◇◆
……あれ以来、エクルとは顔を合わせづらい。
言ってしまえば、告白をされたわけであり、返事をしていない状態である。気恥ずかしい、というよりは気まずいのである。
嬉しいか嬉しくないかで言えば、当然嬉しい。あれほど情熱的な告白をされて嬉しくない女性はそうそういないだろう。そして、あれ程情熱な告白をされても変わらない自分の気持ちの融通の効かなさに嫌になる。あれからこのループに陥っていた。
部屋にばかり篭っていても気が滅入るが、下手に王宮を歩き回ってユリアスや姉様、そしてエクルに鉢合わせたくもなかった。
……一年前と同じ場所から全く進めていない。
このままではいけないという気持ちも自覚もある。なのに、たった一歩が踏み出せない。
王族には全く縁がないはずなのに、幾千もの鎖が自分を締め付けているようだった。
◇◆◇◆
更に約一カ月後、第二の事件が起きた。
「エクルが意識不明の重体ってどういうこと!?」
「……私もその場にいたわけではないので、正確なことは存じ上げませんが、何でも、エクル様がユリアス様に殴りかかった、と」
その日は王宮内が慌ただしかった。それもそのはずで、一辺境伯の跡取りに過ぎないエクルが名門中の名門貴族の正式血統であるユリアスを殴り飛ばしたのだから。そしてその後、ユリアスの取り巻きの貴族達にタコ殴りにされ、騎士達が出張るまで事態は大きくなった。今、エクルとユリアスは別々の医務室にいるらしい。
エクルの眠るベッドに二人が辿り着くのを見計らっていたかのようにエクルは眼を覚ます。寝起きでぼんやりとした眼差しがだんだん鮮明となり、傍に寄り添う二人をしっかりと捉えた。
「あ……ド、ルテさま。エリカ、さん。すみませ、ん……」
相当酷くやられたのだろう、声は掠れ、至る所に巻かれた包帯は血が滲み、少しだけ露出している肌もアザだらけであった。
「……エクル様、何故です? この数ヶ月、あなたと関わってきましたがワケもなくこんなことをする人には思えません」
あくまでも冷静な声音を保つエリカの声から逃げるようにエクルは顔を背け……チラリとドールテを見た。
「ド、ルテさまがいるなら、しゃべ、らない」
「な、何でよ!」
「ドールテ様!」
掴みかからんばかりの憤怒を体現したドールテを、エリカが必死に抑えた。ドールテに話さないとは、よっぽど意思が固いはずだ。自分の教え子は真面目で、ちょっと頑固なのをエリカは知っていた。
「……ドールテ様。ここは、私に任せていただけないでしょうか」
その強い眼差しに、ドールテは何も言わずにうつむきながら医務室を出て行った。……だが、扉のすぐそばで聞き耳をたてる。あんなことを言われ、素直にハイそうですかと納得出来るほどドールテは素直じゃなかった。
「……ドールテ様は出て行きましたよ。話してください」
「あり、がと、ござい、ます」
そして、ポツリポツリと語り出した。
「さい、しょは、廊下ですれ違ったから、ちょっと話していた、だけなんです。そしたら、ユリアス、様が『ドール、テ様とは、仲良く、やってる?』って」
ここまでは至って普通の世間話だったが、出世のために簡単に婚約者を捨てられる男がかつての婚約者を気にかけるような殊勝な奴には思えなかった。
エリカの予想通り、会話はどんどんエスカレートしていった。『あの美人な侍女とはよろしくやってんの?』やら『どうやって落としたの?』やら『ドールテ様は甘い言葉を囁けばすぐに惚れてくれる』など……聞くに耐えない。
そして、ユリアスはエクルにとって決定的な一言を言ってしまう。
「そ、れでぼくが、ど、るてさまをどう思、ていたのか聞いたら、『都合のいい女』、って」
それが契機となり、ドールテは膝から泣き崩れた。絶望と悲しみ、あんな男を好きになってしまった悔しさ。全てがごちゃ混ぜになり、涙として物質化して流れ出てくる。
「……それで、殴ったと?」
「許せ、なかった……! ドールテ、さまの心を、掴んではな、さない人が、あんなことを、言って……! エリカ、さんまで、バカにして……!」
つまらない男の嫉妬だった。自分に振り向いてくれない愛する人が好きな人を、許せなかったのだ。
「……なぜ、ドールテ様にはこのことを話さないのですか?」
「あんな、やつでも、どる、てさまが愛してる、人だから……知ったらきっと、悲しむ」
出尽くしたはずの涙が、ドールテの目の奥から再び溢れ出した。エクルはどこまで行ってもドールテ本位で……誰よりもドールテを愛していた。
「……エクル、あなたは馬鹿です。大馬鹿者です。その程度の悪口、笑って流していつものように私に愚痴れば良かったではないですか! 自分のことでは腹を立てもしないのに……! ユリアス様に手を出すということが、どういう結末を辿るか、わからないあなたじゃないでしょう!」
……エクルがエリカが本気で怒ったのも、泣いたのも、初めて見た。エリカも自分がここまで感情を発露させたのはいつぶりか思い出せなかった。
夕暮れの医務室は、暫し三人の泣き声で満たされた……。
◇◆◇◆
……それから数日後。
何とか動けるまで回復したエクルは荷造りをしていた。
事の顛末はこうである。
事情を知ったユリアスの実家は、当然レンダー家に責任を求めたが、レンダー家はエクルを勘当し、エクル・レンダーはただのエクルとなった。そしてレンダー家と繋がりのなくなったエクルを第三王女の婚約者にしておく謂れもないと婚約者関係を解消。エクルは完全に身一つとなる。
貴族において、勘当はある意味で死より重い意味を持つ。ユリアスは死んだわけでもないため、王宮は勘当でその罪を贖ったことにした。……あくまでも表向きは、だが。
そして、旅立ちの日である。
当然見送りに来てくれるような知り合いはいなかったため、エクルは文字通り最後の別れをしていた。
「……ドールテ様、エリカさん、今までありがとうございました。そして、こんなことになってすみません」
「……全くです。毎月手紙を送らないと許してあげません」
「……そのくらいで許してもらえるなら安いものです」
この場には勿論エクルとエリカだけではなく、ドールテもいる。だがドールテは一言も喋ることなく、ずっと黙っているばかりであった。
「……ドールテ様、最後くらいちゃんと挨拶してあげてください」
その言葉にもドールテは反応しなかった……いや、ポロポロと零れ落ちる涙が彼女の心中を表していた。
「行か、ないで……」
あまりにも弱々しい姿に、エクルは思わず抱きしめたくなるが自制した。
今回の一件、表向きは決着が着いたが、ユリアスの実家からすれば名門である自分達の家の正統な跡取りが、どこぞの者ともしれない男に殴り倒されたなど、家門に泥を塗られたも同然だ。必ず報復に来るだろう。そして、貴族の報復とは驚くほど残酷だ。エクルがどういう未来を辿るのか、ここにいる誰もが簡単に予想出来た。
「……出来ません。【私】がここに残れば、必ずドールテ様やエリカさんにご迷惑がかかります」
そして、そのことを貴族社会についてエリカから教えてもらっていたエクルも、充分理解している。
仮にここに残ったとしても、貴族だけじゃない、王宮すらも敵に回る。ドールテは王女であるが権力があるわけではない。侍女のエリカは言わずもがなである。自分がここに残れば、匿っている二人にも報復の手が及ぶかもしれない。
それだけは許せなかった。
「なんで……! なんで、今【私】なんて言うのよ! いつもみたいに僕って言ってよ!」
ドールテの悲痛な叫びは全てエクルの心の急所に突き刺さる。……よそ行きの仮面でも被らなければ、残りたいと言ってしまいそうだったのだ。
「……ドールテ様、すみません。あなたを僕に惚れさせてみせるって約束したのに、その約束を果たせませんでした」
「……いいえ、いいえ! あなたは立派に約束を果たしてくれたわ!」
「……えっと、それはどういう……」
二の句が継げなかった。唇が熱い。すぐ目の前に、誰よりも愛した人の顔があった。
長い長い口付けを終え、唇を離すと二人を繋ぐ唾液の糸が垂れ……そして切れた。
「……好き、好きよエクル。愛してるわ。私はあなたと手を繋いで歩きたい。キスをしたい。あなたの子を産みたいわ。だから……私の傍を離れないで。行かないでよ……」
誰よりも望んだ人から、何よりも望んだ言葉を贈られ、エクルは何故か涙を流した。どうしようもない多幸感でいっぱいで、それでもエクルはドールテの肩を優しくつかみ、押し返した。
「申し訳、ありません……。それでも、それでもドールテ様とは一緒にいられません……」
必死に絞り出した言葉はどうしようもないほど掠れていて。
心はどうしようもないくらいに一緒にいたいと叫んでいた。
エクルも、ドールテも、エリカですら泣いていた。
自分の心なのにどうにもならない感情が愛ならば、エクルはどうしようもないくらいドールテを愛している。そしてドールテもまた、エクルを愛してしまった。
「……ドールテ様、僕はあなたにキスをしていただいたこと。あなたに初めて僕の名を呼んでいただけたこと。この二つの幸せだけで充分です。僕はあなたとその先の幸せを共有することは出来ませんが……どうか、これから先に現れるであろう、僕なんかよりあなたにふさわしい殿方と、この先にある幸せを掴んでください」
これ以上ここに居たら決心が鈍ってしまう。エクルは急いで荷を持ち、出て行こうとした。
「エクル! エクルゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
悲痛な叫びをあげながら、ドールテが必死に手を伸ばす。しかし、エリカが自身も泣きながら、その伸ばした手を抑えていた。
「……この遠い空のどこかの下で、エクルはいつでもドールテ様の幸せを願っています」
そして無情にも、扉は閉まった。
これが、ドールテとエクルが交わした最後の言葉であった。
◇◆◇◆
……それから数日後。
王都のとある路地裏で、遺体が一つ見つかった。
遺体は激しく損傷し、犯人から相当な恨みを買っていたことが伺えた。また、その損傷の激しさ故に何処の誰なのか、誰にも分からなかった。
しかしその遺体にも特徴があり、そこから身元の特定へと繋がる。
その特徴は、遺体は身体中の至る所に包帯を巻いていて、独特な紅茶の香りを漂わせていたと言う。一説によると、この事件がアルファルト内乱の始まりと言われている。
……そして更にそれから約五十年後。
アルファルト王国は滅亡を迎えることになる。
キッカケはとある辺境の地の貴族達の反乱からだった。戦火は王国全土へと広がり、抑圧的な上級貴族への不満を抱えた下級貴族を中心にして、本格的な内乱が始まる。
始めは武王率いる王国軍が優勢かと思われたが、武王が病気によって没すると形勢は逆転し、反乱軍は徐々に王都に迫る。
そして世界史上最長の内乱と言われるアルファルト内乱は、実に四十五年に及ぶ内乱であった。
こうして約千年の歴史を持つアルファルト王国は世界地図から姿を消したが、現在に至るまで何処に存在した国かは確定出来ていない。
そして、いつかの時代の何処かの王女が愛したとされる茶葉が、アルファルト王国が存在したとされる予想地の一つで今も栽培されているそうだ。
その茶葉を栽培する農家に聞いてもいつ、誰かに名付けられたかわからない、或いは名前をつけたのはこの茶葉を愛したという王女様かもしれないと噂されているその茶葉の名前は、Goût d'amour et de larmes……現代語に訳すと、【愛と涙の味】と言う。
人物設定
エクル(18)…辺境伯の跡取り。強くあれ、と育てられたため、相応の訓練を積んでおり、精鋭揃いの王宮でもまぁまぁ強め。ドールテにベタ惚れし、最終的には相思相愛になるも結ばれず終わる
ドールテ(17)…アルファルト王国第三王女。婚約者に裏切られて、婚約者がいなくなったので今回の国策に白羽の矢が立つ。本編では描ききれなかったが、小説好きで夢見がちなため、まるで恋愛小説のような甘い言葉に弱い
エリカ(25)…ドールテの専属侍女だったが、ドールテの婚約者であるエクルの侍女も兼任する。とある貴族の三女であり(貴族の長女は政略結婚に出され、それ以外の女性は公の仕事に就く場合が多い)、作中にもあったが、幼い頃から礼儀作法諸々を仕込まれ、その腕前は若くして王女の世話係である侍女を任されるほど。美人だが、その鉄面皮と生真面目さで王宮にいるような軽薄な男性とは相性が悪く、モテない(美人故に絡まれはする)。実はエクルを憎からず思っていた。
国王様…近年稀に見る賢王であり、一代で次々と領土を広げる。知・武・勇と三拍子揃った王であったが、本編の終盤、アルファルト内乱の最中、病死。その有能な王の跡は王子には荷が重く、彼の死を転機に戦況が変わる。ドールテに対しては正妃の娘であるため、他の子達よりも可愛がっており、婚約に対しても国策の意味もあったが、前の男を忘れさせようと男をあてがったという親心もある。そういう意味でユリアスを嫌っているが、公私混同はしなかった。
第一王女…おっとりとした性格であり、ドールテの実の姉であり、ユリアスの現婚約者。ドールテとの仲は悪くはないが、お互いに王女という立場上、直接会うことはあまりなかったため、ドールテとユリアスも政略結婚以上でも以下でもないと思っていた。ユリアスのことはキザったらしいセリフを気持ち悪いと思う以外はただの政略結婚相手としか思っていない。
ユリアス…立場と所業を考えるなら、本編で一番クズ。顔も器量もいいため、女に困ったことがなく、故に女を弄ぶようなやつに歪んでいった。戦闘力は同年代にしては強い方だが、実戦も訓練回数も上のエクルのパンチを受け、一発KOした。
エクル父…辺境伯は強くあれが口癖。エクルに対して厳しく当たるが、それは敵との殺し合いをする最前線ゆえに強くなって死なないでほしいという親心の裏返し。強くもないのに偉そうな上流貴族が嫌いであり、エクルがユリアスを殴り飛ばしたと聞いた時はよくやった!と褒めている(本編終了後、エリカから正しい経緯を聞いたため)。
エクル母…厳格な父に対して、優しい性格であり、家族の雰囲気を和ませるムードメーカーでもあった。かつて他国との小競り合いに巻き込まれ、死亡。この頃から父の口癖が出来た。