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その後、耐えきれなくなった私はドレスの裾を持ち上げ、逃げるように外に出た。
そして、庭の中央に美しく存在している噴水を見つけ、そこを目指した。
(あー、もう、最悪よ!)
最初こそ、令嬢たちの嫌味になんとも思っていなかった私だが、流石にここまでやられるとは思っていなかった。
正直、やり返してやりたい気持ちもあったが、相手がどこの誰かも分からない私は、下手なことを言う前に逃げてきたのだ。
「これ、落ちるかな・・・」
私は噴水の傍にあったベンチに座り、ドレスの裾を持ち上げて呟いた。
かなりの量が入っていたのだろう、もう誤魔化せないくらい大きなシミが出来上がっていた。
私は、ハンカチを水に濡らして優しく叩いてみる。
想像してたけど、全然落ちない。
はぁ、と思わずため息が盛れた。
(お父様やお母様になんて言おう・・・)
見た目は幼女だが、中身は立派な大人だ。これが普通の女の子ならお父様やお母様に素直に泣きつくことが出来ただろうけど、私は精神的には大人だ。
親に、知らないお姉ちゃん達に虐められました、なんて言うには勇気がいる。
それに、別に嫌味を言われたことはあまり気にしてない。ただ、せっかくのドレスを汚してしまったことが、折角の皆の思いが籠ったものを、ダメにしてしまったことが悲しいだけだ。
これは、自分でやったと誤魔化してもいいだろうか。でも、もし他の人から本当の事を聞いたら、きっと嘘をついたことを悲しむんじゃないんだろうか・・・。
私は悩んだ。そして、悩んだ結果、誤魔化すことにした。
そして、今度は少し紅茶の移ったハンカチを洗うように噴水の水の中に入れた。
「気持ちいい・・・」
手が冷たい水に包まれ、呟いた。
そして、思わずドレスが濡れないギリギリまで、両腕を突っ込んだ。
あぁ、久しぶりにプール行きたい!海で泳いだりとかしたいなぁ~。
なんてことを呑気に考えていると、サクサクと誰かの足音が聞こえた。
ん?誰だろう・・・。なんか急いでる?
「何をしているんですか?」
「えっ?」
まさか私に話しかけてくるとは思わなかったので少しビックリしたが、その声に私は振り向いた。
そこに居たのは黒髪金目の凄く美形な騎士様だった。
(うわぁ、綺麗・・・)
二重でパッチリとした目。影が出来るほど長い睫毛。薄い唇。そして何より、スラリと伸びる手足に引き締まったその体。
私は吸い込まれそうなその金の瞳から目が離せなくなった。一気に頬が熱を持ち、鼓動が早くなるのが自分でも分かる。
私は今、両腕を噴水の水に突っ込んだ状態で振り向き、固まっているという凄く間抜けな格好をしている自覚はあったが、雷に打たれたかのような衝撃を前に動く事が出来ずにいた。
すると、そんな私の腰に手を添え、その騎士様は私の事を持ち上げた。
「落ちたら危ないので」
騎士様はそう言って、ハンカチを私に差し出した。
「えと、あのっ!」
「突然持ち上げてしまいすみません。それでも、良ければ使って下さい」
騎士様は感情のない瞳で、無感情にそう言うと、くるりと背を向けた。
その事に何故か酷く焦った私は思わず、「待って!」と言いそうになったが、どうやら会場まで送ってくれるのか、背を向けたまま待ってくれていた。
私がその背にむかって、ありがとうございます、と感謝を口にすれば、短く「いえ。」と帰ってきた。
私はドキドキと鳴り止まない心臓を深呼吸をすることで何とか抑えると、ハンカチで濡れている部分を拭いた。
「あの、これ、洗って返しますね。」
「いえ、結構です。」
「えっ、でも・・・」
「同じものをいくつかまだ持っているので。」
私のまた会いたいという下心を感じ取ってしまったのか、覗き込んだ騎士様の表情は固く、口調はどこか冷たかった。
それでも、何か接点を持ちたかった私は、じゃあ別の物を・・・、と言ったが断られた。
だから、せめて名前を教えて欲しいと言った。
騎士様は一瞬嫌そうな顔をしたが、私の方を振り向き教えてくれた。
「ジル・・・。ただのジルです。」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
長らく投稿が空いてしまったこと本当にすみませんでした。m(*_ _)m
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これからは毎週土曜日の21時に投稿しようと思っています。暇な時にでも読んで頂ければ嬉しいです。