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目が覚めてから一週間がたった。


私が目を覚ましたのはどうやら奇跡に近い事だったらしく、皆がもうダメだと諦めた時だったらしい。


誰もが私の無事を喜ぶ中、私は素直に喜ぶ事が出来なかった。


(私はアイーナじゃ無いわ・・・)


罪悪感で胸が痛む。もしも、アイーナが私の生まれ変わりで、一度死を経験した事で前世の記憶を思い出したのだとしても、今考えて行動しているのは私の意思であってアイーナでは無い。


それはアイーナの姿をした別人じゃないのだろうか。


でも私はその事を皆に伝える勇気が無かった。


アイーナの記憶を持っているからこそ皆がどれだけアイーナの事が好きだったのか分かる私は、本当の事を言った時に皆にどう思われるのかが怖い。


悪魔だと言われ殺されるかも知れない。

ただ殺すのは生ぬるいと死ぬよりももっと恐ろしい事をされるかも知れない。


最悪の可能性を思い浮かべ私は今日も口を閉じる。


だめだ。言えない、言えるわけない。

私は今度こそ幸せになりたい。まだ、死にたくない。

ごめん、ごめんね、アイーナ。どうか、貴女の変わりに生きる事を許して欲しい。


この一週間何度も考えた。一体、何が本当にあったことなのか。あのクリスマスの日、私が死んだのは本当で、目が覚めたら小さな女の子になっているこの状況もまた夢ではない。


私は悩んだ結果、何故こんな状況になっているのかは分からないがアイーナとして生きる事を決めた。

そして、私がアイーナの中に入っている事を黙っていようと言う事も。



今日も部屋の中でダラダラと過ごしていると、お父様が物凄い勢いで扉を開き満面の笑みで私に話しかけてきた。


「アイーナっ!今日は、アイーナが前に欲しがっていたミス・ミラージェのドレスを買ってきたんだ。どうだい?嬉しいかい?」


「お父様、ドレスを買ってきてくれるのは嬉しいけど、こんなに沢山はいらないわ」


一度アイーナが死にかけた事で、お父様の元々の溺愛ぶりに拍車がかかり、目が覚めてからこの一週間、毎日の様に私にプレゼントを買ってくる。


流石にそろそろ辞めて欲しい。

一体、そのドレスは一着いくらするんだ。

貴族だからと言ってお金が無限にある訳では無いのだから。


「アイーナ、もしかして他に欲しいものでもあるのか?世界一可愛い娘のためならお父様は何でも叶えてやるぞ!」


私は思わず呆れた目お父様を見た。


親の欲目と言うか何というか、真顔で世界一可愛いとか言わないで欲しい。


だって私はお世辞にも可愛いとは言えない容姿なのだから。


しかし、そんな事を思っているのは寧々の時の価値観をそのまま持っている私だけだ。

アイーナの記憶を見て分かったがこの世界で私は美人な部類に入るらしい。


私はお父様から貰ったドレスをメイドに着せてもらい鏡の前に立つ。


うん、やっぱり痛すぎる。

白豚がドピンクのフリフリのドレスを来ても可愛くない。この世界では見たことが無いが、どうせ着るなら着物の方が良い。


私が着替え終わったのを確認してお父様が入ってくる。


「アイーナっ!あぁ、私の天使!やっぱり、アイーナには可愛いピンクが一番似合う。こんなに可愛いんじゃデビュタントで皆の前に立たせるのが心配だよ。アイーナを巡って大変な事になるのは目に見えているからな。」


ちなみに、私の事をべた褒めしているお父様は普通顔だ。いや、わたし的には結構かっこいい部類に入る。


騎士団の団長をしているお父様は長身だし体は引き締まっていて無駄な肉は無く、短く切りそろえられた髪もお父様の優しく爽やかな印象によく似合っている。


私も痩せればもう少しましになるだろうか。


私はと言うと、日焼けする事を知らない真っ白な綺麗な肌にお母様譲りの綺麗な金髪、そしてお父様譲りの青い宝石の様な目・・・を台無しにする程、太っている。


私は確かまだ七歳にのはずだ。

なのに太った体と何故か私だけにあるそばかす、そしてこのお母様譲りの糸目のせいで全然可愛くない!


しかし、慣れとは恐ろしい物で皆に可愛いと褒め称えられ続けていれば少しずつそうなのではないかと思えてくる。まぁ、それも鏡の前に立てば正気に戻って可愛くない自分の容姿に泣きたくなるんだけどね。


アイーナは何を着ても似合う自分の事を着飾るのが大好きで、良くお父様に物をねだる少女だった。

いや、私は違うよ?だって私からしたら何を着ても似合ってる気がしない。逆に現実が突き刺さりすぎて心が痛い。


私がそんな事を考えていることを知らないお父様は、隣でずっと私の事を褒めながら今度、絵師を呼んで私の天使を永久に残さなければとか、デビュタントは私がエスコートしようと執事と仕事の調整とかを相談している。


「ねぇ、お父様、デビュタントっていつなの?」


アイーナの記憶を見てデビュタントを七歳から十歳の間にしないといけないことは分かっているが私はいつデビュタントをするのか教えられていない。


だからまだまだ先だと思っていたが、お父様は今確かに執事にデビュタントは自分も行くと話していた。


「私とした事がアイーナには話していなかったな、本当はぎりぎりまでやらないつもりだったんだが、急きょ一ヶ月後の夜会でやる事になったんだ。」


「いっ、一ヶ月後っ!」


なんて事だ、いくらなんでも一ヶ月後なんて急すぎるんじゃ無いだろうか。


いくら記憶があるとはいえ、まだアイーナになって一週間しか立っていない私にとっては一ヶ月後にいきなりデビュタントだなんて到底無理だ。


「お、お父様っ!一ヶ月後って早すぎると思うの、私は先日、マナーを習い始めたばかりなの!いきなり実践はっ・・・」


「アイーナ、私はお前が死ぬかも知れないとなった時、デビュタントをしていないお前の葬儀をひっそりとやらねばならないという事がとても嫌だったんだ。」


私はお父様に何とか考え直して貰おうと思い口を開くがデビュタントを早くやる理由を聞かされ私は黙るしかなかった。


私たち貴族は、デビュタントを終えて初めて貴族の仲間入りをする。だから、デビュタントをする前に死んでしまった子供は元からいなかった子として扱われ、教会の貴族名簿に名を残す事すら許されない。


勿論お父様もいくら娘が死んだからとはいえ、デビュタントをしていない私の葬儀を公に行うことは出来ない。


お父様は私が死ぬかもしれないってなった時、私が元からいなかったかのようになるのが嫌だったのだろう。せめて、大勢の人で見送ってやりたい。私が生きていたということを他の人にも知っていて欲しい。


私はそんなお父様の心情を察し顔を俯かせた。


「アイーナ、いきなりで不安だろうが当日はお父様がずっと傍にいる。だから大丈夫だ。それに、国王陛下への挨拶が終わればいつでも帰ってもいい事になっている。アイーナが嫌なら直ぐに屋敷へ帰ろう。」


「お父様・・・。うん、分かった。私、一ヶ月後夜会へ行く。そして、そこでデビュタントするわ。」


「病み上がりなのにすまないな・・・。医者はもう大丈夫だとは言っていたがもし何処か体調が悪かったりしたら直ぐに言うんだぞ。」


お父様はそう言って私の頭を撫でてから私の存在を確かめるように抱きしめた。


「本当に、生きててくれて良かった。」


この一週間毎日、誰よりも明るく話しかけてくれて、私の事を喜ばせようとプレゼントを買ってきてくれたお父様が初めて泣きそうな声で呟いたその言葉に私は何も返すことが出来なかった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

あらすじにも書かせて頂きましたが、この小説は不定期連載です。

夏休みに入ったら暇な時間が増えると思うので、投稿ペースも上げれるかな?と思います。

暇な時にでも読んで頂ければ嬉しいです。

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