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真っ暗な暗闇の中誰かの声が聞こえた。
『寧々、俺たち別れよう・・・』
そう言って、私の事を突き放したのは結婚の約束までした私の大好きな彼で。
『な、なんでっ!私が一番好きだって、愛してるって、結婚しようって、そう言ってくれたじゃんっ!あれはっ、あの言葉はっ、全部、嘘だったのっ!』
泣きながら何かを一生懸命訴えているのは私で。
『本当に済まない、俺はずっと自分の気持ちを誤解してたんだ。』
『ご、誤解?』
『あぁ、そうだ、俺が本当に好きなのはーーーーー』
いやっ、いやだ。それ以上は聞きたくない。
お願い、言わないでっ。どうか、嘘だと言って。
私の事を見てよ、ダメなところがあるなら直すから。
私はまだ貴方の事がーーーー
そう願った瞬間、私は何か大きなものに押しつぶされた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
余りにも受け入れ難い悪夢に思わず叫びながら起き上がる。息は乱れ、洋服は汗でべっとりと濡れている。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
スーハーと、乱れた呼吸を整えるためゆっくりと深呼吸をする。
よ、良かった、夢だった。
そう、ただの悪い夢。大丈夫、大丈夫だ。
彼が私を裏切るなんて事あるはず無い。
それに、私は生きてる。
もしあれが現実なら、私は今頃死んでる事になる。
流石に、婚約者が親友と浮気してて、その事にショックを受けて無我夢中で走ってたら車に引かれて死ぬなんてそんな事あるはずない。
「はぁ、早く仕事行かなきゃ、えと、私のスマホは・・・って、え?」
夢オチであった事に安心した私はそう言いながら周りを見渡す。
「ここ、どこ?」
私の目に映ったのは何処かの外国の金持ちが持ってそうな部屋で、決して私の部屋では無かった。
あー、そう言えば何か幼女になる夢も見た気がする。
なに?あの夢まだ続いてたの?
「夢ならもう少しダラダラしてても良いよね、って、痛っ!」
急にズキズキと頭が痛み視界がぼやける。
あぁ、だめだ。記憶が曖昧で、何処から何処までが夢なのか分かんない。
私はもう一度ベットに横になった。
コンコン
部屋のドアをノックする音が聞こえた後、誰かが部屋に入って来たので私は首だけ動かしてドアの方を見た。
「アイーナっ!あぁ、良かった、目を覚ましたのねっ!」
部屋に入って来たのは見知らぬ女性で、寝ている私に覆い被さる様に抱きついてきた。
「えぇっ!あっ、お、お母様・・・?」
突然の事にビックリした私は最初は驚いたものの、直ぐにその女性が自分の母親である事思い出した。
と、それがきっかけになり次から次へと私はこの体の持ち主の記憶を見た。
お父様やお母様、それに屋敷の使用人まで皆に愛され幸せな人生を送ってきたアイーナ。
何でも完璧にこなす事が出来る自分に絶対的な自信を持っていて、負けず嫌い、あの日もアイーナが魔力暴走を起こすなんて誰も予想しなかった。
あぁ、そうだ。アイーナはあの時・・・
お母様は固まって動かなくなった私の事を心配そうに見つめ、おでこに手を当てて熱を測ったりしてる。
「アイーナ、今、お父様を連れて来ますからね。あぁ、それと、医者も呼んで来るから、今は大人しくしてなさい。」
私はこくりと頷きお母様が急ぎ足で部屋を出くのを見送ると一度目を閉じた。
ぎゅっと固く目を閉じれば視界は真っ暗になり何も見えなくなる。それから、ゆっくりと目を開ける。
目を閉じる前と何も変わらない光景。
頬を思いっきりつねってみる。
「痛い・・・」
小さな体に子供らしい少し高めの声。
「あぁ、これってもしかして夢じゃないの?」
ようやく導き出した答えは私が望まないものだった。