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出逢い  作者: ひろ
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出逢いの場へ

                      

 どこからともなく流れてきたオルゴールの音色はいつものように、講義の終わりと昼休みの始まりを告げた。すると、教師は、何か物足りないような顔をしながらも「今日はこれまで」と、いつものように講義の終了を告げる。  

 死んだ魚のような眼をしていた学生たちもその言葉を聞くだけで、その目に生気が宿るのだから不思議なものだ。大急ぎで教室を出ていく者もいれば、近くにいた友人とおしゃべりをし始める者もいる。スマホをいじったり、少数だが、本日の課題について訊きに行く者もいる。それらの様子はまさに『十人十色』と呼ぶにふさわしい。

 中村昴は、その中で言うといつもは大急ぎで教室を出ていく側の人間だった。が、今日に限ってはなぜか、机に腰を掛けてスマホをいじっている。一向に教室を出ていこうする気配がない。

不思議に思った昴の友人である横田剛が彼に近づき、「購買に行こうぜ」と声をかけた。購買とは、校内に併設されている朝八時から夕方の六時まで営業している、いわばコンビニみたいなものである。弁当から文房具といった大抵のものはそろっており、多くの人が利用している。(噂によれば、数ある商品の中で一番の売れ筋はまさかの『おにぎり』らしい。1個40円と破格の値段設定にしているのがその理由である)

 すると昴は、「わりぃ。今日は弁当持ち。次の講義の課題も終わってないから、たぶんラウンジにも行けないわ」と返事を返した。ラウンジとは校内にある飲食が可能な自由スペースのことである。図書館とは違い、飲食が自由なので昼時や放課後には多くの学生で溢れかえる。

 その言葉に納得したのか、剛は片手をあげ、「OK、でも一応、席は取っておくわ」と言って教室を後にした。昴はそれを半ば名残惜しそうに、半ば申し訳なさそうに見つめていた。

 相変わらず、感情が表に出やすい。あと、詰めが甘いとも言わざるを得ない。先ほどからずっと、昴を見ていた本郷玲奈はそう感じた。なにせ、開いた昴のバックから今朝購買で買ったであろうおにぎりが6つほど覗いているのに昴自身も気づいていないのだから。これでは『自分は嘘をついてます』と言っているようなものではないか……

 しかし、幸か不幸か、剛を含めた周りの人間も昴と同様、バックから飛び出したおにぎりの存在に気づく者はおらず、よって昴のささやかな嘘を見破れる者も彼女を除いて誰も現れなかった。


                     

 四限の講義が終了して16分ほど過ぎたころ、教室に誰もいなくなったのを見計らって昴も教室を後にした。となりの教室で身を潜めていた私、本郷玲奈もこっそりとそれに続く。

 彼が親友に嘘をついてまで、したいこととは何なのか。

 三号館2階の教室を出たのち、階段を下りた昴は通路を渡り、一号館の正面玄関前に出た。かと思うと、すぐ横にある階段を下りてそのまま二号館、中庭へと向かう通路をまっすぐ進んでいった。お目当ての場所は中庭、それとも二号館だろうか? いや、違う。通路を出た彼は、しばらくまっすぐ左に曲がって次に、目の前にある階段を上り始めた。中庭に向かうのなら、左ではなく、右に曲がらなければいけない。ましてや二号館にいくなら、階段を下りたらすぐに左に曲がらなければいけないはずだ。

 ちなみに今までの話からも分かるようにこの学校の校舎は、少し変わった構造になっている。三号館と四号館が右左に配置されており、その二つを繋ぐように一号館が建っている。一号館のすぐ横に二号館、中庭が配置されている。まるで一号館と三号館、四号館に囲まれるようである。しかも、二号館と中庭だけ他の建物に比べて、かなり下の場所にある。そのせいで二号館に行って帰ってくるのにはその都度、上り下りしなければならない。

 上り始めた階段には昨日降った雨が乾かず残っており、上り下りする人の足場をひどく悪くしていた。そのせいか、この階段を利用する人は極端に少ない。日当たりの悪い、階段の登り始めにかけては特にひどい。有名な話だそれにしても、このまま階段を上ったところでその先にあるのは、二号館、四号館ぐらいのはずだけど…… その中のどれかが目的の場所なら、わざわざこんな足場の悪い階段を使う必要はないんじゃないかな? ねえ、昴、あなたはどこに向かっているの? 

 ところが、私の心の中で渦巻く疑問の嵐が治まるのにそう時間はかからなかった。突如目の前に現れた満開の桜! 風に舞い踊る花びらは人々の気を引き、その視線を一身に集めていた。まぁ、昨日降った雨のせいで、見ている人は皆無だったけど…… 眩しさに目を細めながら咲き乱れる桜を眺める昴の姿が彼の今までの謎めいた言動の目的がそれであることを雄に物語っていた。そういえば、保育園の頃からだっけ? この時期になるといつも一緒にお花見をしてたよね。最近は、お互い忙しいのを言い訳にしてやれてないけど、またいつか一緒にやれたらいいなぁ…… 花と言えば、小学1年の時、誕生日に道端で摘んだ花を私にプレゼントしてくれたこと、まだ覚えてる? 私はちゃんと覚えてるよ。だってあの時からだもん。あなたのことを好きになったのは…… それにしても本当にきれい…… むっ、桜がきれいなぐらいでそんな顔をしちゃってさ…… 男の子のくせにホント……かわいいんだから…… あっ、昼休みの時間、もう終わっちゃう…… せっかくだから、久しぶりに一緒にご飯食べたいな…… お~い昴! 一緒にご飯、食べよ…… えっ……⁉


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