7.
――岡田以蔵さん、こちら岡田以蔵さんですね!! 女神でーす☆
――えっとですね、そのとっても強い食材ならなんでも斬れる素敵な包丁ですが、抜くときにアレ言ってくれないと機能しません!! アレです、その包丁の名前!!!
――テンチュー☆ってやつ!! 岡田さんの半生をチェックするために見ましたけど、あれカッコいいですねー!!
――それでは、ステキな転生ライフをっ!!!
***
「嘘じゃろ!!!!???」
「ひゃあ、大きい声っ!!」
「あ、おう。すまんの」
以蔵は動揺した。
幻聴が聞こえた。いやにはっきりと。
しかし、ここまではっきりした幻聴ということはあれはやはり、なにかしらのお告げに違いない。そしてやっぱり坂本さん家の乙女さんにノリが似ていた。
しかし、しかしだ。
なんと、この刀を抜く際に「天厨!!」と叫ばなくてはいけないと。女神を名乗る声はそう言っていた。
恥ずかしい。
あまりに恥ずかしい。
あまり優秀ではなかったかもしれないが、天下のもとに志士として活動してきた以蔵にとってはとても恥ずかしいことだった。
しかし。
目の前の少女の期待が混じった眼差しを受けると、いまさら「できません」とは言えない以蔵であった。元来、頼まれると嫌とは言えない性格である。
「う……ぐ、いくぜよっ!!」
以蔵は意を決した。
旅の恥はかき捨てだ。
しかもここ、出島だし。
腰を落とし、一気に抜刀する。
居合の技である。
「天ッッッ厨ーーッ!!!!!」
土佐勤王党岡田以蔵、やけくそのクソデカボイスであった。
「あっ!」
ぱちん、と以蔵が納刀する音が響く。
それと同時に、石海亀の甲羅が割れる。
「す、すごい!! 聖剣の一撃も防ぐと言われている、老体の石海亀の甲羅を一撃でっ!」
石海亀の甲羅は、見事に捌かれていた。
「し、しかも身は無傷っ!?」
マリアンヌは目を見張る。
石海亀の解体は、熟練の技があったとしても難しいと言われているのだ。
しかもこれは、硬い甲羅をもった年老いた石海亀である。
マリアンヌは以蔵にキラキラとして憧れの眼差しを送る。
「す、すごいですイゾー様っ♡」
「お? おん、そうかの? それほどでもないと思うがっ!?」
「いいえっ、素晴らしいです!! 捌くのが難しい石海亀をこんなっ!! きっと高名な料理人様なのですよねっ。私は外の世界のことをあまり知らないのでご無礼を!!」
「高名!? わしがか!?」
以蔵は顔を赤くして、むっふっふと笑う。
生来、おだてには弱いほうだった。
「あのう、イゾーさま。外で倒れているご主人様が起きる前に……よかったら、石海亀のスープ……一緒に作って頂けませんか?」
「むっふっふ……、ん、あぁ? すぅぷ?」
なんじゃそれは、と以蔵は首をかしげる。
というか、さっきこの娘はなんと言った?
…………料理人?
てんちゅう
【天誅】
天に代わって罰を加えること。
日本のの幕末期において尊王派による要人暗殺の際に叫ばれていたスローガン的な掛け声。