表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/41

空飛ぶお化けスイカ割り

 ビリビリと肌の粟立つような剣気をあげる以蔵。

 観客たちは固唾を呑んでそれを見守っている。


 以蔵の極限まで研ぎ澄まされた五感が、お化けスイカの気配を感じ取る。

 ……そして。

 全然別のものも、感じ取ってしまった。


 以蔵は思う。


 ああ、坂本さん()の乙女さんにそっくりの、あの声が聞こえる――と。




***




――もしもし!? 聞こえますかーーー、お久しぶりの女神です!!


――聞こえているなら返事してくださいねー……って、返事できないのか。これ一方通行だったわ。


――岡田以蔵さん、異世界は楽しんでいますでしょうか! いまのところ、人は斬っていないようですね。感心感心っ。


――あ、今回の通信はですね、岡田さんにひとつ伝え忘れたことがあったので行いました。てへぺろっ☆


――岡田さんに差し上げた【天厨(てんちゅう)】は使いこなしていただいていますかね!? やっぱり必殺技を叫ぶ系のアレってかっこいいですよね。名前を呼ばないと抜けない仕様にしたのは大正解でしたっ。ちなみに、岡田さんの剣の腕が良すぎて目立ちませんが、基本的にオード照準システム的なものが搭載されているので、近くにある食材にはほぼ百発百中で命中するのでご活用くださいねっ☆


――あ、それから。岡田さんの愛刀、抜けなくしてあるんですけどね。一応、ひとつだけ抜刀できる条件があるのをお伝えし忘れてしまいました!! いやあ、女神うっかり☆


――その鞘が、(やいば)を解き放つのは……誰かのために、その刀を振るうときです。


――岡田さん。誰かを守るために、食材ではなくて何かを斬らなくてはいけないとき。


――そのために刀が必要なときは、その刀を…………




***




「なんじゃ、今のは」


 目隠しをしたまま、以蔵は呟いた。

 今のは、幻聴か。いや、そうではない。

 この世界にやってきたときに聞いた、あの坂本さん()の乙女さん(とてもこわい)が機嫌の良いときの雰囲気によく似ている。

 坂本さんは、やはりこの 世界に来たときにあの声を聞いたのだろうか。


「……む」


 と、ビリビリと感じるお化けスイカの気配に以蔵は唸る。


 先ほどの、女神を名乗る声に従うのであれば。


「いくぜよ」


 ぐ、っと以蔵は(へそ)の下、丹田(たんでん)に力を込める。



 そうして、一気に、その愛刀の鞘を払った。


(てん)(ちゅう)!!!」


 大まかな気配は察すれど、急所の狙いすましも、太刀筋もほとんど考えぬ一刀。

 その一閃は。



(っ、なんじゃ。太刀に、引っ張られゆう)



 以蔵の意志を超えて、軌道を修正しーーお化けスイカを鮮やかに両断した!



「な、なんだあの剣士!」

「あの素早く飛び回るお化けスイカを、一太刀で!?」

「あんなの見たことないぞっ」


 以蔵は、手のひらにビリビリと伝わるスイカを切った感触と、ザワザワとさざなみのように広がっていく見物人の声。以蔵はそっと目隠しを外した。


 地面に落ちている、ぱっくりと割れたスイカ。

 視線をあげれば、驚愕でヒクヒクと口の端を痙攣させているお化けスイカ割り屋の店主。

 周囲には、以蔵に対して尊敬とも好奇ともつかない、浮ついた視線を送っている見物人たち。


「ま、参ったな……こうアッサリと斬られちゃあ……」


 先ほどまで、あれほど芝居がかった口上を述べていた男が、 完全に素に戻ってぼやく。


(ふん。あっけないもんじゃったの)


 以蔵は、スイカの切り口を見聞して満足げに息をつく。

 うん、うまそうだ。


 それに、先ほどの不思議な感触。

 なるほど、【天厨(てんちゅう)】が自分の太刀を引っ張ってくれたような感触だった。


(目ぇ瞑っちょっても斬れるっちゅうのは、便利なもんじゃの)


 そんなことを思いながら、以蔵はもうひとつ、女神の言葉を思い出す。

 腰に刺さったままの、抜けない打刀をそっと撫でながら、


「……人様のために振るう剣、のう」


 と、呟く。

 そのときだった。以蔵に、声をかけるものがあった。


 少女の、声だ。


「イゾー様!」


「おん、その声は……」


「お、お久しぶりです。どうしてここに!?」


 イトーク港で出会った奴隷エルフ。

 坂本竜馬の旅の道連れだったという、ーー獣人ガープの尋人。


「おまん、おマリかえ!」


 以蔵はお化けスイカと報酬を受け取って、旅装束のマリアンヌに駆け寄る。

 マリアンヌは目を丸くして以蔵に駆け寄った。


「はい、マリアンヌです!」


「どういてここに」


「いえ、イゾー様こそっ」


「おまんのこと、探しちゅうやつがおるがよ。わしと一緒に、」



 待ち合わせ場所の王城っちゅうところの前に、と。

 言いかけたそのとき。


 ゾクリ、と。

 以蔵の背筋を悪寒が駆け上る。

 素早く周囲に視線を巡らせる。以蔵のスイカ割りが終わって、崩れつつある人だかり。みな、日常の顔をしている。


 今の気配は、なんだ。


「イゾー様?」


 はっ、と以蔵は息を呑む。

 人混みの中。

 異様な雰囲気を隠しきれぬ、人影がひとつ。

 以蔵を、じっと見つめている。


「あ、あの女!」


 魔猪の群れを操っていた、あの、乳の大きい(ふとい)、ーー魔族の女だった。

お読みいただき、ありがとうございます。10月中の完結(10万字前後を予定しています)を目指して更新していきます。格好いい以蔵さんをたくさん書きたいですね。


最新話最下部から、「感想」、「ブクマ」、「評価」をいただけると大喜びです。よろしくお願い申し上げます。


***


【新作】


突然「パパ」になった無自覚最強ドラゴンの子育て奮闘記 ~クソ親父に捨てられた娘を育てたら、いつの間にか世界最強になっていた~

https://ncode.syosetu.com/n5327ft/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ