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31.

 急に倒れこんで呻く竜馬に、食役人が顔を青くする。


「お、お前どうしたんだ!?」


「ぐ、う、うううぅ……」


 なおも苦しんだ様子を見せる竜馬。


 それを意に介したふうもなく、以蔵は低く、唸るように呟く。


「おぉの。どういたがか、坂本さん……そういえば、ガープ。このえい匂いのしゆう茸……たしか、アルキ茸の一種ち言うちょったの?」


「は、はい」


「あー、なんじゃったかの。ほれ、ようく似た、毒キノコがありゆうにゃあ?」


「……メデス茸」


「なっ!!!??」


 食役人が真っ青になって椀をとり落す。


「メデス茸といえば、も、ももも、猛毒の!! 解毒剤はないのか!!!?」

「う、ううう……」


 食役人の言葉に、おずおずと村人が手をあげる。


「村の倉庫に、1本だけなら……」


「すぐによこせ!! わしが飲む!!」


「で、でもそっちの旅人さんが……」


「わしは食役人だぞ!! わしが食あたりにあったなどということがわかったら、この村がどうなるかわかっているか!?」


「そ、それは」


「うう〜、ううう〜」


 苦しむ竜馬。

 無表情で佇む以蔵。


 がなりたてる食役人に、以蔵はゆっくりと問いかける。


「おおの、坂本さんのことは見殺しかえ?」


「当たり前だ! そんな小汚い旅人、どこでのたれ死んでもおなじだろう。お前も、毒キノコを俺に供するなど……くそ、くそ、具合が悪くなってきた気がするぞ!」


「こ、こちら解毒剤で……」


「おっと、こっちに渡しちゃあくれんかの」


「バカな、とっととよこせ!」


 ほどなくして運ばれてきた解毒剤をひょいっと取り上げる以蔵。

 その様子に食役人が吠える。


「坂本さんは旧知ですきに。ただでこん薬を渡すわけにゃあいかんぜ」


 じろり、と睨みつける以蔵の眼光。


「う、うるさい! とっとと寄越せ!」


「ほいたら、さっきの言葉に二言はないことを約束してつかぁさい。ワシらを馬車にのせるち約束じゃあ」


「そんなことはどうでもいい! い、いいからっ、早く薬を……くそ、息が苦しくなってきた気がする!」


「もうひとつ。こん村の人たちにゃあ、一宿一飯の恩義がありますき。税率ちゅうがはいっとう低くしてつかぁさい!」


「ぐ……わ、わかった! いいから早くその薬を……寄越せ!」


 以蔵の手から解毒剤をひったくった食役人は、いまだ呻いて苦しんでいる竜馬に一瞥もくれることなく、瓶の中の水薬を一気に飲み干してしまう。



「ひでぇ、見殺しだぞ……」

「腐っても役人じゃないのか!?」

「旅人さん、あんなに苦しんで……」



 そんな声が、どこからともなく聞こえてくる。



「ふう……くそ、こんなものをこのわしに提供しおって……王都に運んだら覚えて……」


 食役人が舌打ちをした、そのときであった。

 地面にうずくまっていた竜馬が、ひときわ大きく呻き声をあげる。


「う、う、う〜っ…………うんっっまーーーーい、ぜよ!!!!!!」


「……は?」


「いやあ、やはりお焦げちゅうがは、まっこと日ノ本の心じゃのう! 感じ入ってしもうたがよ!」


「お、おこげ!?」


「ほれ、食役人さん、そこのすこしだけ(ちっくとばぁ)黒うなっちょるところ……うんまいぜよ〜」


「な、な、メデス茸の毒では……なかったのか……!?」


「毒ぅ? 冗談いうたらいかんがよ。こいたぁ、げにまっこと旨い炊き込みご飯じゃ!」


 以蔵の言葉に。


 ぽかん、としていた食役人の顔が、真っ赤になり、かと思えば真っ青になる。


 村人たちの前でひどい醜態を晒した挙句に、旅人を見殺しにして自分だけが助かるように立ち回っている様子を見られてしまったわけである。


 あげく、以蔵たちを馬車に乗せて王都に連れて行く約束をし、このエカター村の税率は最低値にすると宣言までしてしまったのだ。


「き、貴様っ!!!」


「……ぶ、くく」


「うははははっ!」


「ひぃー、さっすが坂本さんじゃ!」


「迫真の演技じゃったろう、わしゃあ役者にもなれるがよ」


「そん糸目じゃあいかんがよ!」


「き、貴様ら! わ、わ、わしを笑い者に……っ!」


 肩を震わせる食役人だが、毒がないとわかって炊き込みご飯を再び口に運び始める。

 よっぽど気に入ったのだろう。


「まあまあ、食役人さん! もうこうなったら飲むしかないぜよ!! ほれ、もう一献!!」


「ぐぅ。わしの査定が……」


 ゲラゲラ笑っている竜馬に勧められて、食役人は肩を震わせながらも酌をうける。


 異世界であろうが幕末であろうが。

 もうこうなったら飲むしかない、という気持ちは変わらない。




「はっはははー、愉快になってきたぞ! おい、イゾーとやら。やはりお前、王都でその腕ふるってみろ!!」



 やがて雰囲気に飲まれて愉快そうに笑う食役人。


 あれよあれよという間に、全てを丸く収めてしまった以蔵の料理の腕に。

 そして、竜馬の口車に。




「あの人たち……もしかして、すげえ人たちなのでは?」




 マリアンヌを追って王都に行く目処がばっちり立ったガープは、小さくがるると唸っていた。

このあと村人たちと炊き込みご飯をお腹いっぱい食べた以蔵さんでした。

次回、以蔵さんと竜馬さんは王都へ向かうのですが……ついに、以蔵さんがここが「出島ではない」と気づきます。


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