28.
今回、試験的に【全ての行について改行をする】という書式にしています。
「従来のままがいい」
か
「改行多い方がいい」
を、よかったら感想などで教えてくださると嬉しいです。
「なんじゃ、その食役人っちゅうがは」
以蔵が問えば、穀倉村のエカターの村人は信じられない、という表情になった。
「食役人は食役人ですよ。【審査】が始まったんだ。俺たちの村の出来高を値踏みしに来たんだっ! ……この審査で、俺たちの納める穀物の税率が決まるんです!」
「ほむ、年貢みたいなもんかの?」
と、竜馬がふむふむと頷く。
流石の理解の早さである。
「そうです。これから、食役人の審査が終わるまでの間……この村からは誰もでられなくなりました」
「お、おい! マジかよ⁉︎」
「おーの! さっきの流れは、マリアンヌを追いかけようち流れじゃったが。どういたもんかの、以蔵さん?」
「坂本さんにわからんことが、わしに分かるわけがないですろう」
む、と以蔵は唇を尖らせた。
土佐城下では、昼行灯だなんだと言われていた竜馬が、そのじつ、爪を隠した鷹であることを以蔵はよく知っていた。
なにせ、以蔵の敬愛する先生……武市半平太と親しく語り合う仲なのだから。親戚関係であるということは差し引いても、ふたりの親しげな様子に眩しさを感じていた以蔵である。
しかし以蔵は知らない。
その竜馬が以蔵のことを……その剣の腕はもとより、愚直さと野生的とも思える直感を、かなり高く評価していることを。
肩を落としているガープとあわあわと慌てている村人に挟まれて、以蔵は首をかしげる。
「ほいで、【審査】はわかったけんど。何をそがぁに慌てちょるんじゃ」
「そ、それが……」
村人は口ごもる。
「今回、食役人が審査すると言い出したのが……コメなんです」
「おお、コメか。作付けはしちょるち言うちょったのう。何ぞ、困ることでもあるんかえ?」
と、以蔵はそこまで言ってハッと気づく。
「ま、まさかっ!」
「おう、どういた以蔵さん。何ぞ気づいたことでも……」
「わしらの猪退治の報酬のコメが無くなるなんちうことはっ!!!! それだけは勘弁じゃぞっ!!!!!??」
高らかに、以蔵は叫んだ。
「「……」」
村人とガープは、以蔵の執念に言葉を失う。
しかし。
「うおおおおっ!!! 以蔵さん、コメもらう約束しちょったが!? さっすがじゃのう!!」
「さ、坂本さんに褒められると、ちっくとばぁ……こしょばいのう……」
超ハイテンションの竜馬と、ぽりぽりと頭をかく以蔵。
味気ないうえに加工の難しい穀物であるコメに、一体こだわるのは何故なのだろうかと。
ガープと村人は顔を見合わせた。
***
広場に向かえば、不安げな表情の村人でごったがえしていた。
「ほぉ、あれが食役人のう」
背伸びをした竜馬が、細い目をさらに細めて人混みの中心を睨む。
広場に設えられた妙に立派なテーブルセットにどっかりと座っている男を見つめる。
「えぇ。味にうるさいと有名な、ゴードン卿です……」
村人たちが慌てふためいている原因は、食役人が行う「審査」のためだった。
「ほぉ、あいたぁが味を見極めるがか」
「そ、そうなのです。ムギやトーキビなら、粉にしてパンにしたり麦酒にしたり、いくらでも美味しくする手段を知っているんですが……コメはどうやっても美味しくならないので、食役人にお出しするようなものは……」
「コメなんぞ何しよっても美味いと思うんじゃがの」
がっくりと肩を落としている村人に、以蔵は首をかしげる。
味がしない。
しきりに村人たちがそう言っていたのも気にかかる。
どうやら、このエカター村の民はコメの扱いを知らないのではなかろうか。
以蔵が考え込んでいると。
「……おん???」
「どうしました、イゾーの旦那?」
「いや、今何か……」
以蔵は自分の腰のものに視線を落とす。
海風にさらされて、なぜか抜刀できなくなってしまっ打刀。
そして、鞘にでかでかと【天厨】と書かれた巨大包丁に変貌してしまった脇差。それに、以蔵は違和感を持ったのだ。
「いま、刀が動いたような……?」
妖刀ではあるまいし、と以蔵は首をかしげる。
【天厨】と書かれた脇差が、カタカタと以蔵の腰で震えたような気がしたのだ。
まるで。
――まるで、抜いてほしいとでも訴えてくるような。
そっと、以蔵が【天厨】に手を伸ばした……そのとき。
「おぉうい、以蔵さーーんっ!!!」
「……は? さ、坂本さん!!?? そがぁなとこで何しちゅう、っちゅうかいつのまに!?」
すぐそばに立っていたはずの坂本竜馬が。
食役人のすぐそばに立って、こちらに向かって大きく手を振っていた。
めっちゃ笑顔で。
キラッキラした目で。
調子の良さ&口のうまさランキング(幕末)では上位に位置する土佐の志士が。
それはそれは、馬鹿でかい声で叫ぶ。
「その審査っちゅうの、わしらが料理してもえいって話つけたぜよーー!! あと、審査がうまいこといったら、マリアンヌが向かったっちゅう王都に向かう馬車にも乗せてもらえるぜーーーっ!!!」
「は……」
食役人による。
以降、この村の農作物にかかる税率を決める……いわば、村人の命運を握る審査を。
「はぁあぁぁあっ!!!???? わ、わしらが料理するじゃと!!??」
受けて立つことになった以蔵の腰で、カチリカチリと【天厨】の鯉口が鳴っていた。
次回!!!
以蔵、村の命運をかけてコメを炊く!!!




