3.
異世界を出島だと勘違いをした岡田以蔵に、さらなる悲劇が襲う。
「おー、海じゃ」
彼が降り立った異世界のこの街……イトークは海街だったのだ。出島感がすごい。
海風の香りに誘われてやってきた以蔵は青い海と港を行き交う人々の量に目を見張る。
「ふーむ、出島っちゅうもんがあるとは聞いちょったが思ったよりデカい街ぜよ。むむ、大きい船もあるのう!」
勘違いは正されることのないまま、以蔵の頭には「出島はめちゃくちゃデカい」という間違った知識がインプットされた。
「あれが坂本さんが言うちょった黒船じゃろうか……こわっ」
停泊している船は、いわゆるガレオン船の類である。
坂本さん……彼の知人である坂本竜馬が江戸で目にした蒸気船とは技術レベルも大きさも異なる。しかし、以蔵の知る故郷土佐の漁船とは比べものにならぬ大きさであることは確かだった。坂本さんは話を盛るタイプのおじさんなので、以蔵は「黒船はとにかく大きい」という情報だけを覚えていた。
以蔵は手近な木箱に腰掛ける。
和装と髷は完全に悪目立ちをしているので、「木箱に座っちゃいけません」と注意してくる者もいなかっった。
ざざぁん……ざざぁん……、と波の音が心地いい。
以蔵はうとうとと瞼を下ろした。