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25.

 頭からツノを生やした魔族の女の謎は残るが。

 操られた魔猪ワイルドボアたちを正気に戻した以蔵たちは、帰還を目指す。


 ほどなくして、ガープの嗅覚をたよりに森を抜け、エカター村への道筋を見つけた。

 迷子解消である。

 なお、こうして狼系の獣人族の嗅覚に助けられた以蔵であるが、当の以蔵はまだガープのことを「わりと毛深い人」と認識している。


 岡田以蔵。

 思い込みの激しいタイプの侍である。


 故郷の土佐に住んでいるときには、そういった思い込みの激しさをそれとなく諌めてくれる破天荒な知り合いがいたものであるが――今や彼は、日ノ本中を駆け回っているようで以蔵は久しく会っていない。


 竹によく似た木の皮でこしらえた包みに入れてある、アルキ茸の一種【フンギリ茸】を振り回しながら以蔵が叫ぶ。


「はああぁあぁっ!? まっこと!? このキノコがぁっ!!?」

「うわめっちゃ声でかい」

「声ばぁ(くらい)ふとぉ(デカく)|なるぜよ!!! こ、こんキノコが……所帯が半年暮らせるばぁの金になるっちゅうがか……!?」

「マジっすよ」

「マジがか!!」

「最初に言ったじゃないっすか、高級食材だって!」

「……えらい雑に酒蒸しにしてしもうたがよ」

「えっ、そういうコンセプトじゃなかったんすか!? やっぱイゾーの旦那は豪気だなって思ってたんすよ!?」

「なんじゃい、その、こんせぷとぉ、っちゅうがは!!」


 むぐぐ、と以蔵は眉間に皺を寄せる。


「くそぅ。そがぁに高く売れるっちゅうなら、ぜーんぶ売っぱらっちゃれば良かったちや……」


 魔猪ワイルドボアを操っていた魔族の女の謎は残るが、ワイルドボアの群は沈静化した。

 これで数日様子を見て、ワイルドボアが村を襲わなければ以蔵の受けた依頼は達成……晴れて報酬のコメを手にすることができる。


 そのコメとフンギリ茸で炊き込みご飯をつくって、それをおかずに銀シャリをいただこうという以蔵の密かな野望は、フンギリ茸の値を耳にしたことで完全に潰えた。


 流石に食えない。

 金は大事だ。

 路銀がなければ、京に帰ることもできないし。


 以蔵がそんなことを考えながら、渋い顔で歩を進めていると。

 ぴたり、とガープが立ち止まる。


「この……匂いは……っ!」

「ん? どういた、がーぷ」

「ご、ご主人っ!!」

「はっ? ご主人ちうと、村焼かれて生き別れになったちゅう」

「間違いないっス!」


 言って、ガープは駆け出す。

 全力疾走。

 二足歩行でのダッシュは、すぐに四足歩行のそれに変わる。


「はっ!? うっわ、なんじゃ! おんしゃぁ、変わった走り方しよってからに!?」

「イゾーの旦那、乗ってくださいっ!」


 以蔵の足が、力強く地面を蹴り、鍛えられた身体がひらりと飛翔する。

 ガープの艶やかな毛並みに覆われた背中に飛びのった。


「うおおお、速いのう!」


 びゅんびゅんと後ろに流れていく街道の風景に、以蔵は声をあげる。


 見上げた身体能力だ。

 このガープをもって手も足も出なかった、ガープの住んでいた村を襲った下手人というのは一体どんな化け物なのだろうかと、以蔵は少しだけ肝を冷やした。


 風に総髪髷をなびかせる二本差しの男を背に乗せて。

 獣人は、(はし)る。

本日は19時過ぎにもう一度更新があります。

ついにあの人が、以蔵と合流!

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