アルキ茸の酒蒸し&茸のヒレ酒風
鉄鍋の蓋を取る。
濃ゆい芳香とともにほわり、と立った湯気にガープは歓声をあげた。
「すげぇ、いい匂いっすね!」
「ほうじゃろ、ほうじゃろ! キノコ食うにゃあ酒蒸しがいっとうえいぜよ」
ふふん、と胸を張る以蔵。
「いやぁ〜、やっぱイゾーの旦那はすげぇや。俺たちの見たことないような料理を、こんなに簡単につくっちまうんすから! しかも、強い!」
誉め殺し、である。
以蔵は耳を真っ赤にしながら、むふむふと胸を張った。
火から下ろした鉄鍋のなかでは、フンギリ茸の酒蒸しがいまだにグツグツと音を立てている。ガープの持ち歩いていたフォークでもって、「あち、あち、」と言いながらそれをつまんだ。
うまい。
鼻に抜ける、キノコの濃厚な出汁と酒の香り。軸の部分はサクサク、かさの部分はもちもちとした食感だ。
軽く遭難しかけていることなど忘れる旨さである。
「ひひっ、ほいでのう。仕上げはこうじゃ!」
すっかり酒蒸しを平らげたのち、以蔵は残った汁にフンギリ茸の切れ端を放り込んで熱する。そして、そこに酒を継ぎ足してから数秒。
そして今一度火から外すと……焚火から火種を取り出し、酒に近づけた。
「ほっ!」
「うおぉ、青白い炎がっ!? イゾーの旦那、まさか魔術までっっ!?」
「まじゅちゅ?」
炎が出ているままに、かこんっと軽快な音を立てて再び鉄鍋に蓋をする。
数秒後、蓋を開けると。
「ほれ、飲んでみいや」
「え、じゃあちょっと……」
ガープのマグに少量の液体を注ぐ。
酒蒸しとはちがった濃い芳香が
「これっぱぁでは酔っぱらいやせんし、寝酒もどきじゃ」
「うっわぁ、これは旨いっすよー!」
ヒレ酒風の熱燗をふぅふぅと冷ましながら呑む。
ほどなく、ガープがあくびを始める。
「ふぁ……」
「おーの、でっかい口しよってからに」
「す、すみませんっす。野営ならオレが見張りしないといけないのに」
「えいえい。わしが見ちゃるきに、寝ちょれ」
「い、いやぁでも!」
「いつもおまんが夜警しゆうきに。わしは、おまんの用心棒なんじゃろ。褒美に上乗せしてくれたらえいよ」
「イゾーの旦那……」
以蔵の不器用な優しさ、だった。
キノコのだしの効いた熱燗は、以蔵の父、義平が寝酒に好んでいたものだった。郷里で父に会ったのは遠い昔のことだけれど、以蔵には昨日のことのように思われた。
ガープの寝息。
木の葉の擦れる音。
焚火を切らさないように気を付けながら、以蔵はじっと耳をすませていた。
物音一つ、聴き漏らさぬように。
***
【フンギリ茸の酒蒸し】
フンギリ茸 16分の1(アルキ茸種以外を使う場合は、一口大にしたあとに両手のひら一杯を目安とする)
酒 半カップ
鍋に酒と食べやすく割いたフンギリ茸を入れ、ひと煮立ちしたら蓋をする。
火から下ろして蒸らしたら完成。十分にアルコールを飛ばすと、旨味が溢れ出す。
【フンギリ茸のヒレ酒風】
酒蒸しの残り汁
フンギリ茸 ひときれ
酒
酒蒸しに茸の切れ端を投入し、よく加熱する。




