18.
門番たちの言うことには、この穀倉村エカターには最近ある問題が発生しているのだという。
「……モンスターの襲撃、っすか!?」
「ああ。近頃どうにも、魔猪の一種、ワイルドボアが大挙して押し寄せてくるようになっちまったんだよ」
「この壁が破られることはないはずだが、門の部分はどうしたって脆弱でな。こうして見張りを増やしているんだ」
ひぇえ、とガープが声を上げる。
魔猪ワイルドボアといえば、その大群が走り去ったあとでは人間の村は影も形も残らないと言われている大型のモンスターである。
たしかに、穀倉村という食糧生産の拠点とはいえ門ひとつには多すぎるくらいの門番が配置されていた。
ワイルドボアは超大型モンスターではないけれど、力は強く群れは強大だ。その襲撃を日々撃退している、というのは、さぞ村人たちの心労になっているだろう。
「つまり、その魔猪の討伐をクエストとして冒険者ギルドに依頼したってことっすよね」
「あぁ。だが、魔猪ワイルドボアの討伐なんて、数や強さのわりには名声も上がらない地味な仕事だろう? こちらの提示した条件じゃあ、なかなか応募がなくてな」
「……ふむ」
「久々の来客だったし、あんたらのその格好だろ。てっきり依頼に応えてくれた冒険者かと思ったんだが……」
かくん、と肩を落とす門番。
じいっと以蔵を見つめるガープ。
「ん?」と頭上にハテナを浮かべる以蔵。
「あの、そのクエスト受けますよ。俺たち!」
「は?」
突然のガープの言葉に、門番たちが目をむく。
どちらかといえば、期待していたのは狼の獣人族であろうガープの方だ。大型の魔猪に対して、以蔵のような人間がひとりでできることなど少ない。
「ここに居るイゾーの旦那はっすね、怪鳥ウバメドゥリを一刀両断し、剣士の多くが手こずるスライムだってスパスパ斬り伏せ、さらには野生のファングドッグをなんとパンチ一発で沈める実力者ですぜ!!」
「な、なに!?」
この、取り立てて強そうには見えない男が?
門番たちは以蔵に一斉に注目する。
「そのかわり、報酬についてはコッチに交渉させてくれねぇかな!」
「交渉? そんなに高額な報酬は無理だぞ!?」
「いやいや、そんなに高額ってことはねぇんですって! まずはさ、村のお偉いさんと話させてほしいんすよ!」
「し、しかし……そっちの人が、依頼を受けてくれるとも限らないし」
門番の言葉に、じっと目を閉じて話を聞いていた以蔵は、瞼をあげる。
その鋭い眼光に、門番たちのなかでも武芸に覚えのある者は、その迫力にビクリと身体を硬直させる。
この男、ただものでは、ない。
張り詰めた空気の中、以蔵は低く唸るように言った。
「猪……、っちゅうことは」
にやり、と口の端を持ち上げて、叫ぶ。
魔猪・ワイルドボア狩。すなわち、それは。
「ボタン鍋が食えるちうことじゃなっ!!!!」
ボタン鍋。
イノシシ肉を使った鍋は以蔵の好物であった。山で猪が取れたときなどには、下士の男衆で集まり、ネギの合間に隠れた肉片を奪い合ったものである。
土佐は海の幸も旨いが、山の幸も悪くない。
「しかも、ここにはコメもあるんじゃろ。完璧じゃ……っ!」
以蔵はメラメラと闘志を燃やす。
基本的には質素な食生活を送ってきた以蔵であるが、やっぱり肉は美味しいしコメはたくさん食べたい。
ボタン鍋。
おなかいっぱいのおコメ。
広がる夢。
「わしに任しちょけやっっ!!」
以蔵のテンションにけげんな顔をしている門番たちに、以蔵はニカッと笑って見せた。
「す、すごい自信だな……まあ、そこまで言うなら」
――かくして、以蔵とガープは穀倉村エカーテの門をくぐることとなった。
この魔猪ワイルドボア狩りが、のちに彼らを不思議な縁にいざなうことになるのだが、ボタン鍋に完全にテンションが上がりきっている以蔵にはまだ知る由もないことである。
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