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17.

コメを求めてやってきた穀倉村。

以蔵に、あらたな冒険の予感?

「なっ、なんじゃ……っ!?」


 見上げる光景に、岡田以蔵は驚愕した。

 穀倉村エカター。

 それが、目的地として告げられていた地名である。


 街道の遠くにそれが見えてきたとき、以蔵は目を疑った。

 穀倉村、などという長閑な名に反して、その村は……高い高い壁に囲われていたのである。


「穀倉村エカター。この地域に三つある、農耕を許された村のひとつっすよ!」

「許された……?」


 以蔵が首をかしげる。

 農耕……つまりは畑仕事というのは、以蔵にとっては百姓の義務であった。年貢を納める必要もある。以蔵は土佐藩特有の下士という下級武士の身分であるが親は小さな畑を持っていたし、剣術道場の帰り道に難儀している近隣の年寄りの手伝いをしてやったこともある。


 暮らすことと、耕すこと。

 それは切っても切り離せないもののはずだ。


「農耕は、すべて王国が取り仕切っているんすよ。事情に疎いっすけど、イゾーの旦那は外から来たんすか?」

「おーこく……」


 むむう、と以蔵は唸る。

 それは、藩主や奉行のようなものだろうか。

 出島……の外にはもう出たはずなのに、どうにも様子がおかしいように思う。本当にここは、以蔵の知る日ノ本の國なのだろうか。一抹の不安が(ものすごく今更)以蔵の脳裏によぎる。


 ガープの案内のままに、巨大な壁をぐるりと迂回すると巨大な門が現れた。

 数人の武装した男がいるのが見える。門番である。


「た、たのもーーーー!!!」


 以蔵は反射的に大声をあげる。

 師匠である武市半平太のおつかいで長州藩邸やらなにやらに掛けていった日々を思い出す。「お頼み申す、お頼み申す」と各所の門を叩いていた日々は、平和なものだった。


 以蔵は足が早かったので、手紙の配達に重宝されていた。

 素直な男なのでまさか手紙を盗み見ることもなかろうという心安さや、よしんば手紙を読んだとしても真意を汲むこともないだろう、というような侮りもあったかもしれない。


 ちなみに以蔵は事実素直なので、手紙を盗み見ることもしなかったし、道草も食うことも少なかった。稀代の人斬りとして後世に名前を残すことになるけれど、その素直な心根で手紙を持って京の街を走り回っていた延長線上に、彼が師匠の望むままに天誅(てんちゅう)と称して行った人斬りの所業もあったのだが……、それはまた別のお話。


「ん、なんだ? 獣人と、人間か。妙な格好の男だなぁ……っ、まさか!!」


 門番が以蔵とガープの姿を見て、ぎょっとする。

 たしかにガープは大柄な獣人で、この地方には珍しかったし、以蔵のサムライファッションは完全に浮いていた。

 しかし。

 門番は以蔵たちに駆け寄ってきて言った。


「ようこそ!! もしかして、冒険者の方ですかっ!?」

「えっと、冒険者ではないっす。俺は人探しの旅の途中で、こっちの旦那は用心棒っす。短期滞在をしたいんすけど」

「短期滞在?」

「うっす。穀倉村見学での滞在、受け付けてますよね!」


 ガープの言葉に、門番たちは露骨にがっかりとした顔をする。


「なんだ……、討伐依頼のクエストの冒険者じゃないのか」

「え? 討伐依頼、っすか?」


 ガープが聞き返す。

 門番たちは顔を見合わせて、事情を話しだした。


 以蔵はといえば、


(「くぇすと」ちゅうんはなんじゃろうか。九州の武者修行で見た示現流の掛け声にちっくと似ちょるな……剣術か?)


 などと思いつつ黙ってそれを聞いていた。

 岡田以蔵、剣術に対してはどこまでも真摯な男である。

以蔵さんが九州で目にした示現流「ちぇすとーーーー!!!!」

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