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15.

謎の男ウメの正体、(秒で)判明!!!

 さて、坂本龍馬である。


 ウメ、と名乗ったこの男。

 着物には組合い角に桔梗紋。

 腰には名刀・陸奥守吉行(むつのかみよしゆき)


 当然のことながら、坂本竜馬である。


「――はああ、なるほど。ここは出島じゃあなかったがか!」


 そういうわけで、ちょっとない行動力と情報収集能力。そして相手の懐に飛び込む渡世術にかけては右に出るものはいなかった。幕末のチャンピョンである。つまりは、元奴隷のエルフの少女マリアンヌ(399歳)からこの世界の情報を聞き出したり実際の年齢を教えてもらったり、ということなどわけもないことなのである。


「異世界のう、異国みたいなもんじゃろか……それに、その、なんじゃ。エルフ?」

「はい。まさか、ウメさんが異世界からいらしたかたとは……そういった言い伝えは聞いたことがございましたが、まさか本当に」

「まさか、まさかち言いよるがのう、俺のほうこそまさかぜ。……399歳?」


 そして、この坂本龍馬。

 彼の特筆するべき点のひとつはその思考の柔軟性である。


 江戸遊学中にまさかの黒船来航。土佐藩の下級武士として品川あたりの沿岸警護に駆り出された若かりし竜馬は思ったのだ。


でっっかい(ふっっとい)船、こじゃんとカッコえい!!!!!!』


 と。

 物事をポジティブに、そして柔軟にとらえるその思考は得難いものである。

 ――本当である。


 そういうわけで、竜馬はマリアンヌの年齢を聞いても『仙女ちゅうんは本当に居たんじゃのう。すごいのう。今度、乙女姉さんに手紙書いちゃろ』といった感想を抱くに留まったのである。


 マリアンヌとふたり並んで街道をぽてぽて歩く。


「しかし、いいのでしょうか。私の旅にはあてもないのに、ウメさんにお付き合いいただいて」

「えいよえいよ。俺のほうも異世界なんちゅうところに放り込まれゆうきに、逆に助かるぜよ。それに……」

「イゾ―さまのことですか?」


 竜馬は頷く。

 ――岡田以蔵。

 同郷の志士である。素直で一本気で、義侠心のある男だ。

 並外れた剣の腕をもっている彼を、竜馬はどことなく気に入っていた。政治の話で煮詰まることもあるときに、京や江戸で会うたびに無邪気に『坂本さん、坂本さん!』と昔と変わらず声をかけてくる以蔵は竜馬にとってはある種の救いだった。なのに、それなのに。


「以蔵は……以蔵さんはな」


 その声はマリアンヌに向けて、ではなく。

 自分自身に言い聞かせるような声色だった。


 そう。

 岡田以蔵は、あの無邪気な男は。


「――以蔵さんは、えいやつじゃ」


 竜馬は呟く。


「本当に、最近以蔵さんにあったんじゃろ?」

「ええ。数日前にイゾ―さまに会いましたよ」


 マリアンヌの言葉に竜馬は「ぐう」と唸る。

 現世(うつしよ)とは異なる世界に飛ばされたのだ。そういった不思議もあろうが。


「いずれにせよ、俺は以蔵さんに会う! まりあんぬさん、どうぞこの世界を案内しとうせ!」


 竜馬はその恵まれた体躯を折り曲げて、小さなマリアンヌに頭を下げる。

 マリアンヌもそれにつられてペコリと頭を下げた。黒髪が揺れる。


「あの、ウメさん」

「なんじゃ?」

「私の名前……マリアンヌ、というのはウメさんには言いにくいんじゃないですか?」


 にこ、とほほ笑むマリアンヌに竜馬はぽりぽりと頭を掻く。

 やはりうまく発音できていなかったか。


「あの、イゾ―さまがそう言ってたんですが。よかったら、おマリと呼んでください」

「っ! ほおお、おマリか」


 おマリ、おマリ。竜馬は嬉し気になんどか発音した。なるほどこれは口に馴染む。


「うん、改めてよろしく頼んます。おマリさん!」


 にい、と竜馬は人好きのする笑みを浮かべて、


「ところで、おマリさん。腹が減ったき、そのう……コメはないんかの?」


 マリアンヌは首を傾げる。


 ……コメ?

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