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再会前の日常




「ダメ…ツラい…ツラすぎるわ…」


現世に生まれ変わって早1ヶ月。『堀内 鈴』は自室のベッドに腰掛け、何かに耐えるように枕を抱きしめながら呟いた。


「隆さんに会いたい…触れたい…触れてほしい…臭いを…嗅ぎたい…」


ボソリと呟くと、背中からゆっくりとベッドに倒れ込んだ。部屋の天井を見上げながら愛する夫のことを考える。


(隆さんがこちらに転校してくる前に住んでいた家の場所は分かってるのよね…)


前世において鈴は隆から(転校する前に住んでいた街が観光地のすぐ側であったため)旅行がてら案内されたことがあった。その時に、当時住んでいた家も教えてもらっていた。


(他府県だけど会いに行こうと思えばきっと会いに行けるわ…でも、隆さんにも前世の記憶があるかどうか分からない。いきなり知らない女から「私はあなたの妻になる女なの!」なんて言われたら…きっとびっくりしちゃうわね。もし万が一、それが原因で変な女だと思われて…嫌われて…その後の未来が変わって隆さんの妻になることができなくなってしまったら…私、きっとまた自殺するわ…)


暗い未来が頭をよぎり、思わず涙ぐんでしまう。すぐにかぶりを振り暗い考えを振り払う。


(ダメね…弱気になっちゃ。来年には確実に会えるのだから、それまでにもっと自分に磨きをかけて前世よりもいい女にならないと…だから、今は我慢!)


「もっと魅力的になってみせますから…だから、また愛してくださいね…隆さん」


抱きしめていた枕を隆に見立ててキスをした。隆に愛されることを考えていたせいか、妙に下腹部が疼くように思えた。疼く下腹部にそっと右手を添わせると、下腹部から全身にじんわりと快楽が広がった。


「んっ…この年齢でもう欲求不満なのかしら?…早く…早く隆さんに触れてほしい…んんっ…」


前世において、隆に抱かれ幸せだった時のことを思い浮かべながら…今日もまた、自身を慰めるのだった。






「会いたいな…元気にしてるかな…ハァ…」


空を見上げたまま少年は深いため息をついた。少年こと『蔵守 隆』は、鈴の住む家から数百キロ離れた場所にある公園のベンチで、足を投げ出すようにして座りこみ、どこかボーッとした表情で空を見上げていた。


(会いに行こうと思えば行けるんだろうけど…今の鈴は俺のこと知らないもんなー。いきなり初対面の男に声をかけられるだけでも警戒するだろうに…「俺は君の夫になる男なんだ!」なんて言ったら引かれるどころか通報されるよな…鈴に嫌われるだけじゃなく、未来が変わって結婚できなくなるなんてなったら…)


「悲惨だ、想像したくもない…」


鈴に嫌われる未来が頭をよぎり、思わず頭を抱える。暗い未来を振り払うかのようにかぶりを振った。


(今は余計なことをせず、鈴と出会うまで大人しく我慢するのが確実なのかな…鈴の親父さんの借金対策はアテはあるけど今すぐできる事じゃないし…今できることと言ったら…)


「自分を磨くことぐらいか…今世も前世のように、鈴が惚れてくれるかどうかなんて分からないし…遊んでる場合じゃないか…」


公園の出入口に視線を向けると、サッカーボールを小脇に抱えた少年を先頭に、複数の少年達ががこちらに駆けて来るのが目に入った。


「おーい!蔵守じゃねぇか!ちょうどいいや、一緒にサッカーしようぜ!」


「あー…スマン。俺、今から用事あるんだわ。また今度な」


「なんだよ、またかよ!最近付き合い悪いんじゃねぇか?」


「そんなことはないさ、じゃあな」


隆はやや強引に話を打ち切ると、声をかけてきた同級生たちに軽く右手を上げ別れを告げた。静かに立ち上がると、公園の出入口に向かって歩き出した。


(こちとら見た目は子供でも中身は40越えのおっさんだからな…付き合うのは勘弁してくれ)


内心でボヤキながら、どうすれば自分が鈴にとってより魅力的になるかを考える。


(鈴の好みは…どんな人が好みって言ってたっけ…えーっと…?)


前世の記憶を呼び起こし、鈴とのやり取りを思い出す。思い出したのは高校3年生の頃、初めて鈴に告白した直後のことだった。






「あっ…あの、堀内さん!」


「どうしたの? 蔵守くん」


「告白しといて何だけど…どうして俺なんかの告白をOKしてくれたの?」


「えっとね、その…妙に落ち着いてるとことか…一緒にいて安心できるとか色々あるんだけど…」


「だけど…?」


鈴の顔が紅潮し、両手の指をモジモジし始めた。鈴は正直なところ、あまりの恥ずかしさにその場でしゃがみ込みたくなったが、愛する彼の質問だったのでちゃんと答えようと必死だった。


「一番はあなたが…すっ、好き…ということかな?…詳しい理由は私自身もよく分からなくて…でも…きっと…一目惚れ…なんだと思う…」


鈴は恥ずかしさが限界を超えて俯いてしまった。隆は、自分の質問に真っ赤になりながらもちゃんと答えようとするいじらしい鈴の姿を見て、隆の中の鈴に対する好感度はこの時、限界突破をしていた。…なお余談ではあるが、隆はこの時のやり取りが原因で鈴以外の女性になかなか愛情が抱くことが出来ず、長きに渡り独身を拗らせることになった。






前世のやり取りを思い返した隆は、恥ずかしさに顔が真っ赤になった。無意識に自分の頭をガシガシと掻いて気を紛らわせる。


(鈴のやつ可愛すぎだろ……しかし、これといって好みらしいものを聞いたことなかったな…強いて言うなら俺自身が好みって感じだったからなぁ…)


独身男性が聞けば不興を買いかねない台詞であるが、事実であった。鈴は『蔵守 隆』そのものが好みであると言っていたこともあり、どうやれば魅力的になるかではなく、他に何ができるかを考えることにした。


(でも、鈴の気持ちにあぐらをかいて何もしないのはカッコ悪いよな…せっかく前世の記憶があるのだから、有効活用して自力でお金を稼ぐ方法を考えてみようか?お金があった方が色々と助かるだろうし…たしか、これからITの時代が来るはずだから…今からIT関連の勉強をしていけば、きっと将来役に立つはずだよな…)


「よしっ!やるか!」


こうして目標を定めた隆は一気に動き始めた。…後に隆はこの時から始めた勉強により、大きな財産を築くことになった。隆自身は意図していなかったが、妻である鈴の『子沢山計画』おいて経済面の問題解決に大きく貢献し、鈴を大いに喜ばせた。




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