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前編


「では、授業を――」


 そう言って、授業を始めようとしたハロルド先生は、手を挙げている少女がいることに気づく。


 「フェルミナさん、どうしましたか?」


 「先生にお願いがありますの。この授業の時間、譲っていただけませんこと?」


 「・・・何をする気ですか?」


 「この間から問題になっている件について、皆様にお話ししようかと思いますの。私、もう耐えられませんの。」


 (もう、めんどくさい!がまんならなーい!)


 フェルミナの笑顔の裏の声が、ハロルドにはなぜか聞こえた気がした。一授業ぐらいで、最近の問題が少しでも収まるのなら、クラスの為にも良いかも知れない。


 「いいでしょう。特別に許可しましょう。」


 そういって、窓際の椅子に座った。


 「ありがとうございますわ。」


 そう言って、彼女は教師が先ほどまで立っていた場所に立った。そして、教室を見回し告げた。


 「私への、陰で行われていることについて、皆様に言っておきたいことがございますの。特に、3名の方に現実を知ってもらいたいのです。」


 フェルミナのクラスには、第二王子がいる。それもすばらしくイケメンな。誰にでも笑顔で優しく、頭の出来もほどほどによく、それなりに運動も剣術もできる、優良物件が。問題は、公爵令嬢であるフェルミナの幼馴染であり、婚約者という事だろう。

 同じく公爵令嬢リリア、侯爵令嬢クランリーゼ、そして聖女メシュファが、王子に想いをよせており、何かとフェルミナに当たるのだ。それが面倒で邪魔なのである。

 適当にあしらってはいたのだが、二日前とうとう言う事を聞かないフェルミナに実力行使に出たのだ。

 本人は白を切って、知らないと言っているが、学園長も教師も知っているのである。

 ちなみに、第二王子の権力に惹かれたのか、容姿に惹かれたのかは知らないが、リリアを隠れ蓑に、何名かの女生徒もフェルミナに小さな嫌がらせをしていた。


 「(わたくし)は、何も知るようなことはございませんわ。授業の邪魔をしないで―――」

 

 「では、恋で何も見えなくなった無知で馬鹿な方の為に、説明致しますわね。」


 リリアの顔が真っ赤になった。

 フェルミナは気にせず続ける。


 「まず、リリア様も、他の皆様も、私に婚約を辞退しろと連日押しかけてきますが・・・」


 フェルミナが色っぽくため息を吐いた。


 「うちのお父様は5回!5回も王家からの婚約の打診を一人娘だからとお断りしておりますの。6回目で、王様の泣き落としと、王妃様の強引なお願いで、しぶしぶ、わかりますか? しぶしぶ、受けたんです。」


 クラスが静かになった。文句を言っていた、リリアでさえも。


 「なーのーで、リセリアーノ公爵であるお父様も私も、諦めてお受けしたのです。もうお断りできませんの!・・・お分かりになって!?」


 最後の台詞は、リリアに向けられたが、フェルミナの気迫が伝わったのか、コクリと頷くだけであった。


 「じゃ、今後はこの件で文句をいうのであれば、王様と王妃様にお願いします。よろしいですね!」


 確かに、もうリセリアーノ公爵家から断っても、無理だろうな。というなんとも言えない空気が流れた。


 「次に」


 また、フェルミナがため息をついた。一度目は、その色気ある仕草に、ほんのり頬を染めた男子達も、今度はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 「第二王子リトア殿下の身分に釣り合う令嬢は、私を除いて、この教室に3名おりますが、まずはリリア様。」


 リリアも男子達と同じく、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「私を排除する前に、父君をどうにかなさいませ。あの脳筋騎士団長が、リトア殿下をなんと言っているか知っておりますよね?も・や・し。もやしですわよ?可能性として、私が婚約者でなくなり、リトア殿下もリリア様に好意を寄せたとして、絶対に貴方の父君は許さないでしょう。そして、貴方の父君での問題がもう一つ。」


 まだあるのかと、誰もが思った。

 

 「もう、ぶっちゃけると、王様と脳筋騎士団長は王妃様を取り合った仲です。あの二人はライバルというよりも、犬猿の仲です。どちらかが死ぬか、隠居するまで、絶対にリリア様がリトア殿下の婚約者になることはありえません。」


 ぶっちゃけないで欲しかったと、関係のないクラスメイトは思った。リリアはまだ固まったまま、動いていなかった。その徐々に赤くなる顔からみて、憤怒の表情で動き出すだろうと思われる。


 「ちなみに、ここにいる者達は卒業したらそれぞれ高い役職につくのですから、これぐらいの情報は裏で知っておくべきですわ。自分には関係ないみたいな顔していると、後で困りますわよ。」


 皆の顔が固まったが、ハロルド先生はしんみり窓の外を眺めていた。俺は何も聞いてないとばかりに。


 そして、リリアは父親が障害で第二王子の婚約者になれなかったと知って、呆然としていた。フェルミナが権力を使って、婚約者の座に収まったのだと思っていたのだ。彼女を排除して、王子に気にいられればと、それだけしか考えていなかった。


 「他の人達も言い分は似たり寄ったり。皆様、私が権力を使ってリトア殿下の婚約者の座を奪ったようにおっしゃいますが、私は残りものなんです。わかりますか、の・こ・り・も・の!」


 またしても、静寂が辺りを包む。


 「さきほども申し上げましたけど、王家から6回打診が来ておりましたが!私に執着していたわけではなく、私を逃がしたら、第二王子の婚約者は隣国の現在3歳のリディア王女か、ヴァルファード侯爵家のマリーロゼ嬢、御年4歳が候補に挙がっておりました。」


 皆がなんとも言えない顔で、フェルミナの演説を聞いている中、当の第二王子だけが、大好きな植物の本を開いて、読書にいそしんでいた。


 「あぁ、あとの二人ですわね。クランリーゼ様から。」


 「はひぃ!」


 急に名を呼ばれ、マルスト侯爵家のクランリーゼは(おのの)いた。


 「貴女の問題は、母君です。こちらは、王妃様と王様を取り合った仲だそうです。そして、いまだにほのかにお好きでいらっしゃるという噂がございまして、マルスト侯爵は王をライバル視しております。」

 

 クランリーゼは目を開いて固まった。両親のそんな話は知らなかった。


 「その噂が真実なのか、虚偽なのかわかりませんが、マルスト侯爵は笑顔の裏で何を考えているかわかりません。クランリーゼ様がリトア殿下に近づいているのを知っているのに、止めないのは絶対に裏があると思いますの。まぁ、たぶん、王様へのいやがらせでしょうけど。ちなみに、母君はストーカーだったそうなので、王様は息子に同じ苦労をかけたくないと、お考えのようです。っていう建前で、マルスト夫人と近しい親戚になりたくないんでしょうけど。」


 クランリーゼは机に伏してしまった。何かブツブツ言っている。

隣の席の男子が、憐れむように見ている。同情するなら、そっとしておいてやれ。


 「ご理解いただけたようで。では、次に何かとリトア殿下に寄ってくる聖女メシュファ様。」


 「承りましょう。」


 聖女に似合わないぐらい、険悪な目つきで睨んでくる。


 「王妃様が、貴女の男だけに媚を売る様が嫌いだそうで、貴女はない(・・)とおっしゃられました。」


 「え?」


 「リトア殿下も、貴女が怖くて苦手だそうで。夫婦など絶対に無理だそうです。」


 「えぇ?」


 第二王子の方を見るが、彼は本に夢中だ。


 「王様が貴女を・・・。」


 フェルミナが口ごもった。 


 「どうぞ、はっきりおっしゃってください!」


 メシュファは、ちょっぴり涙目で叫んだ。


 「王様は、貴女が学園を卒業したら隣国に送る予定にしてます。大臣達に打診してました。」


 まさかの排除!


 「なぜ!?なぜですの!?わたくしが何をしたというの!?」


 「えっとですね。」


 少し、フェルミナは窓の外を見た。ハロルドも事情を知っているのか、相変わらず窓の外を眺めている。


 フェルミナがため息のような深呼吸をした。気合を入れたようだ。

 

 「まず、リトア殿下の5歳の誕生日。メシュファ様は4歳ですわね。」


 そこまで(さかのぼ)るのかと、皆が驚いた。

 メシュファも驚いた。


 同じクラスなのに歳が違うのは、学園に入る時期は各家が自由に決められるからだ。今回は第二王子が入学する年に、縁を繋ぎたい貴族がこぞって子供を入学させていた。


 「婚約者候補に()がっていた貴女を、リトア殿下と逢わせる為に呼ばれたようですが、貴女は終始、第一王子のカイル殿下にくっついて(こび)を売り、見目が麗しい騎士に(こび)を売り、我がまま放題だったそうです。そこで、王妃様にこの子、ないわー。って思われたようです。」


 教室に静寂が戻った。

 メシュファの息が止まった。


 「リトア殿下の7歳の誕生日。」


 皆がゴクリと唾を飲み込んだ。喉がカラカラだった。


 ふと、フェルミナが教室を見渡し、手を振った。すると、教室の扉が空き、執事と侍女が入ってきて、皆に飲み物が振る舞われた。

 どうぞと、笑顔でフェルミナが勧めるので、クラスメイトは喉を(うるお)し、ホッと一息ついた。執事と侍女は、教室の後ろで待機している。飲み物のおかわりは自由だそうだ。数名、おかわりをしていた。

 

 ちなみに、ハロルド先生には、そっとお酒入りの飲み物が支給された。リセリアーノ公爵家の執事の心使いである。ハロルドは感謝して受け取った。


 「7歳の誕生日からですわね。」


 メシュファは嫌な予感がするので、やめてほしかった。


 「メシュファ様は、マナーをそっと教えた王妃様を、・・・おばさん呼ばわり、そして、(あざけ)るような顔で(うるさ)いとおっしゃったそうです。ここで、王妃様がぶちぎれ。」


 誰もが、それは終わったと思った。


 年齢的に六歳から見たら、おばさんだろうとも、それはどの年齢の女性にも言ってはいけない一言だった。ましてや、王妃はその時、二十代前半。王様が他と競ってでも手に入れたほどの、王家の白薔薇と呼ばれていたのだ。

 

 「その後、場を和まそうと、王様が王妃様を(なだ)めようと近づいたところ。メシュファ様は王様に向かって、おじさん臭い。寄らないで。とおっしゃったようです。」


 教室が氷ついた。


 「神殿で甘やかされて、育ったようで。慌てた神官長様に連れられて退場いたしましたが、その後、王家からの招待は一切なかったようです。最近やっと、神官長が涙ながらに懇願(こんがん)して王に許しをもらったようで、こうして学園に入学されております。」


 メシュファは顔を紅くして項垂(うなだ)れた。

 そして、神官長が神殿から出してくれなくなった事実を知った。

 それまでは、何でも言う事を聞いてくれたのに、マナーがマナーがと勉強ばかりさせられたのは、こういう理由だったのかと。


 「王様も王妃様も6歳の小さい子に、大人げないとは思いますが、貴族の令嬢の皆様ならわかりますよね。これがどれほど、大変なことかと。」


 真っ赤になって怒っていたリリアも、机にしがみ付いていたクランリーゼも、フェルミナの視線に頷いた。他の令嬢もないわー。と王妃様と同じように思った。

 メシュファの話が衝撃すぎて冷静になり、ちょっぴり二人とも立ち直ったのだ。

 

 「確かに今は淑女として、見た目は素敵になられましたが、6歳の時点でリトア殿下の婚約者候補から除外されております。二度、落とした信頼は、メシュファ様の結婚適齢期中には戻らないでしょうね。」


 あぁ、そうだよなぁと、皆が納得した。



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