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リテイク!  作者: とにあ
14/19

ステップ14

 刑場を埋めるオレンジ色。

 僕とノイさんはそこ目掛けて落ちていく。

「ノイさんをたすけて」

 オレンジ色の存在。彼ならばそれが可能なはずの相手だ。

「たすけて、助けてくれたんだ。優しいヒトなんだよ。お願いだから」

 違うなんて思いつかなかった僕は思いつく限りの言葉を綴ってノイさんを、ノイを助けてと望む。


『デモ、そのオンナ、ゆーきを短剣で突き落とそうとしていたぞ。殺気がコモッテイタノハ間違いないぞ』


 そんなことどうでもいい。

「サカナなら助けられるよね?!」

 ノイを助けて。


『……ゆーきが望むなら叶えてあげる……』


 どうしてか、少し不満の色の覗く声。

 そんなことよりもああ、サカナ。やっぱり君だった。

 再会が嬉しくて、要望を受け入れてくれたことが嬉しくて。

「ありがとう」

 声を掛ける。

 水の内側でひらりとオレンジ色の薄いヒレが視界を踊る。

 視界は全てオレンジ色のサカナのヒレ。その中には水がこない。

「ノイ。助かるよ」

 血の気のないノイを見下ろす。

 血に汚れた顔。水を含んで滲み広がった血の模様は広がって、今にも終わってしまいそうで不安だ。

 たくさん助けてくれて、たくさん親切にしてくれた。それなのに少しも返せないのはつらい。

 僕は何もできないから、何もできなかったと自嘲するノイがノイの姿が辛くてそのまま消えて欲しくなかった。

 しゅるりと器用に動くさかなのヒレがノイの体を絡め取り、彩る姿はどこか華やかで見惚れる。

 サカナがなんとかしてくれるというのならノイはきっと大丈夫。

「もう、大丈夫だから」

 僕はノイの顔についた血を拭おうとその血痕に触れた。

 僕はノイに濃く汚れひろがる血化粧を見、疑問と共に自分の手を見下ろす。

 爪の隙間まで赤黒い血肉の汚れがこびりつき、水に濡れたせいで血がぬめりを取り戻していた。

「ごめん」

 ああ。

 本当に僕は余計なことしかできない。

「ノイ」

 呼びかけると驚いた眼差しで僕を見るノイ。

 意識ははっきりしているようだ。

 良かった。

「どうして?」

 僕はノイが批判的な眼差しと声をむけてくる理由がわからなくて言葉が出ない。

 少し、考える。

「サカナが助けてくれたんだ!」

 思い当たって答える。

 本当にサカナはすごい。

 今だって、サカナの背に乗っている状況だし。

 ひらひら赤みを帯びたオレンジ色のヒレが視界を掠める。

 とても華やかで幻想的な光景だ。

「さかな?」

 ノイが目をしばたかせる。

 僕は頷く。

 そう、サカナがすごいんだ。

「本当にありがとう。サカナ」

 ひらめくそのヒレを撫でる。

 嬉しげに揺れるヒレ。これだけでサカナは喜んでくれる。


『ゆーき。痛いトコないな』


 篭った不思議な声は舌足らずな子供を思わせる。

「大丈夫だよ。サカナが受け止めてくれたから」

 撫でる。ふわりと柔らかな感触のヒレ。サカナは撫でられたり触れられるのを好む。どこか甘えたな小さな子供のように。

 サカナは名前の通りの魚だ。

 魚のサカナ。

 刑場の中を満たす水を己のヒレで埋め尽くしてキラキラさせている。

 ヒレが水に揺らめけば水が輝いているようで綺麗だと思う。

「狭くないの?」

 サカナはとても大きな魚だ。

 刑場では狭いのではないかと思う。

『問題ナイナー』

 ひらりひらりヒレが踊る。

『なぁーんの問題もナイナー。ゆーきに会えて嬉しいナー』

『ゆーき。水をきらきら凍らせて』

 さかながねだる。

 首を傾げる。

 水は周囲に見当たらない。

「サカナ?」

 どうすればいいのか思いつかなくて呼びかければ、サカナが気がついてくれたようだった。


『上に、きらきらさせて』


 上を見上げる。

 ゆらゆらと淡いオレンジの光が周囲を満たしていて柔らかな場所。

 氷結魔法を接触以外ではなったことがないから不安だ。

「はぁ」

 息を吐いて上を見上げる。

 サカナのお願いをどこまで叶えてあげられるかなんてわからない。

 でも、懐いてくれるサカナのためにできることがあるのなら。

 きらきらさせることぐらいならできるかもしれない。

 きらきら?

 ぁ。

 きらきら魔法。



流星明滅メテオライト



 本当は攻撃魔法らしいけれど、僕が使うときらきらぱちぱちはじけるだけなんだよね。

 氷のキラキラじゃないけどきっとキラキラ綺麗だよね。

 あ!?

 ちょっと思いついたんだけど、それともきらきらって鏡みたいな効果を期待して?

 サカナのひれは綺麗だから透き通るきらきらって綺麗かも?



鏡明反射ネバミース



『……ゆーき。怒ってたんだね』

 サカナの呟きが聞こえる。

 ぇ?

 怒るってなにを?

 怒ってないよとヒレを撫でるとサカナがすべての視界を塞いでいたオレンジのヒレをふんわりとほどく。

 ひらかれた視界に広がる光景は星明りがキラキラと夜空を彩っていて美しい。

 外はこんなにも煌めいていたのかと思う。

 元の世界で空を見上げても見える星は僅かで。水没都市タフトも雨が多く、夜空を眺めるには向かない。その発想もなかった。

「サカナぁ。キレイなお星様だねー」

『そぉだなー。キレイだなー』

 ああ。キレイだね。ほのぼのするね。

「て、天井が、……ない」

 ノイが呆然と空を見上げて呟いた。

 ああ。うん。天井なく空がひろがってるね。

 いつの間にか移動したのかな?

 サカナはすごいもんなー。


 あ。


 それとも実は開閉式?


「開閉式?」



「そんな技術があるわけないじゃない!!」

 ノイが声を荒げる。

 違うんだ。技術はありそうなのに。落とし戸とかすごくないの?

 じゃあ、いったい何が起こっているんだろう?

「えっと、サカナ?」

『なぁんだぁー?』

 呼びかければ可愛らしく間延びした声が返る。

 ナデナデとその華やかなウロコとヒレを撫でる。

 嬉しげに揺れるヒレ。

「なんで、天井がないの?」

流星明滅(めておらいと)が天井に激突・破砕、その穴付近に鏡明反射(ねばみーす)による反射作用が働いて破砕片が天井全体を巻き込みつつ、飛び散ったんのー。落ちてこなくてなりよリダなー』

 サカナが解説を入れてくれる。

 僕は首を傾げる。

 そんな威力があるはずのない魔法だった。

「僕の魔法で天井に穴とか無理じゃないかなぁ?」

 オレンジの鱗を撫でながら呟く。

 ひらりひらりとヒレが揺れ動く。うん、くすぐったい。

『ユーキはすごいぞー。自信もてー』

 サカナは意味なく僕を持ち上げようとする。

『ぅうんと。ユーキの役割はスイッチだなー』

「すいっち?」

『さかなが流し込んだ魔力を魔法技術で変換して、出力する。だーから、変換発動スイッチだな』

 一生懸命説明しようとしてくれてるのはわかるんだけど、えっと、なにそれ?

『だーから、さかなとユーキがすごいのー』

 んー、サカナはとりあえず一緒にすごいのではしゃぎたい?

 かわいいなぁ。

「ふざけないで!!」

 ノイが声を荒げる。

『ふざけてないナー』

 サカナが返す。ノイに対するサカナの対応は少し棘があるようにも感じられれる。人見知り?

『ユーキとさかなはすごいんだぞぉー』

 ヒレが大きく揺れてうごめく重い音が耳につく。




 ひらりひらり


 青の中、オレンジが舞う。


 きれいだと思う。


「サカナ」


『ん~?』



「あんまり壊しちゃダメなんだよ?」





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