ステップ11
雨季における生ゴミは水路に投棄がタフト式。
「雨季じゃなくてもな」とよろず屋は笑う。ゴミは全部、窓の外。雨季でもそうでない時でも半時間も置かずに捨てた痕跡はなくなる。雨季には水生生物が食べ、それ以外の時期は拾い集めて生活してる生き物や人がいるのだとか。
ベニヤもどきを下におろして、鉢植えを横に寄せて木の板を横に滑り込ませて一番外側の板を壁から落ちないように鎖で繋いでから押し開ける。これが意外と重い。窓ひとつ開けるのも一苦労。
外はしとしとと雨模様。目の前すぐは隣の建物の壁。細い隙間を見下ろせば小さな水の冠ができてはすぐ潰れてく。
「あら。おはよう、ユーキ」
あ。
「おはよう、ティタ」
ティタは隣の建物に住んでいるしっかり者の女の子。よろず屋の窓の斜め前で開いている窓に腰掛けて、足をぶらつかせながら部屋から何かをたぐり寄せている。
窓のスペースは分厚い壁の分幅が広くて非常時の隠れ場所に使えるくらい。だから普通に座れるし作業もできる。窓、重いけど。
隣の建物にはティタたち身寄りのない子供を集めて面倒をみているおばさんがその子供たちと住んでいる。
前におばさんが体調を崩してバタついているときに小さな子たちと遊ばせてもらってた。ティタはその中でも年長者で小さな子たちの面倒をみたり内職したりしている子。
「いるんなら、また子守にきてね」
笑顔のティタの言葉によろず屋しだいといつもの答えを返す。
「チビたち喜ぶもの」
準備万端とばかりに窓の壁にもたれたティタの手には釣り竿。横には網。
水路を泳ぐ魚影を追っているようだ。
「あ、ユーキ。ソレ撒くなら今、撒いちゃって」
釣りの準備を終えたティタがいい笑顔。
「たくさん釣れたらおすそ分けするね」
エサ撒き、じゃなくてゴミ捨てを終えた僕はフラフラと厨房へと足を動かす。
厨房で甘粉を作ったり、いつきちゃんと円君にお茶を入れたりお互いの情報を交換したりして過ごす。
基本はいつきちゃんと円君の会話を聞いてすごいなぁと感心している。
るぅるぅは時々この世界の情報解説をしてくれているんだけど、なかなか難しい。
いつきちゃんと円君が納得顔して聞いてるから普通にはわかりにくい説明ではなさそうなんだけどね。
ザラザラと魔力をこめた導石を混ぜるように地図の上でひろげてる。
確か、地図と魔力の繋がりの安定化をどうとかって言ってた気がする。
眼差しは真剣で、作業に集中しているのがわかる。
円君かっこいい。
あんな風になにかひとつ集中できて、その上でものになる才能が僕にもあればいいのに。
なにも出来なくてもいいって言葉が優しさだとしても、それは僕には期待をかける余地がないってことなんだろうなって思うんだ。
よろず屋は「タダ飯食いはいらない」って言う。
僕にはなにもできない。そんな僕にも「使い道のないものはない」と言い放つよろず屋はホッと安堵を引き起こす。
「使い道の見つけられねえ俺が悪いんだとしても、ゆきちゃんもゆきちゃんでできるだけの努力はするよーに!」
その言葉はたぶん救いだった。
だから、「もとの世界に帰れるぞ」と言われた時、帰らなきゃいけないと思ったんだ。よろず屋がそれを望むなら。
帰ったとしてもやっていけると、きっと何とかなると錯覚していた。
覚えられないコトも、できないコトもあたりまえに認めた上でそれさえも利用してくれるよろず屋がいたからやっていけてただけなのに。
どうして、誰かが普通に、あたりまえに、こなせることが僕にはこんなに困難なんだろう。
「ゆーき、またきーてないのだー」
たしたしと額が叩かれる。
「るぅるぅ、痛いよ?」
「ゆーきはもう少し周りの話を聞こうとするべきなのだぁ」
え。
たぶん、それは。
「無理」




