ステップ10
てろりと張り付いた粘着質のごみを壁面からこそげ落とす。
氷結魔法を発動させ、表面を凍らせてから金属へらでゴリゴリこそぐ。
僕の魔法の才能は低いらしく、ごみひとつ凍らせきれない。本当なら両手を広げた範囲ぐらいが凍りつくらしいけれど、僕はそう、スマホくらいのサイズしか凍らせられない。しかもその氷の厚みは数ミリ程度。
少し削ればまた粘着質の部分が表面化する。
氷結魔法をかけて、削る。
繰り返し、繰り返し。きれいになるまで。
よろず屋はできないよりましと笑う。
よろず屋には魔法を使う才能がないらしい。
ただ、やたらそれ以外に特化してるので必要もないのだと思う。もちろん、できないことがあるっていうこと自体が不思議だったけど。
基本的には羨んでもしょうがないであろうレベルで羨ましい。
彼の数万分の一でも才能があればと思う。
才能。
すぐに人を羨んでしまうのも才能なんだろうか。
きっと諦めているくせに未練たらしいと思うと気分が沈む。
無心で作業に没頭することもできないのだ。
僕は食事が終われば掃除を開始した。流石にエラい生き物は邪魔はしないとばかりにどこかへと消えた。
他人を羨んで過すより有益だと思えたから。
なにも、なにもすることがない。なにもできない状況はとても不安なんだ。
ただそれでもできる限り無心で凍らせ削る。耳に響くがりがりという音。気を抜くと手を滑らせそうな手のマヒ感。冷えからくるそのマヒ感はゆっくり気分も侵食していく。
一人の時間に心安らぐ。
その事実に自分が不安だったことを知る。
世の中、苦労したり、努力したりした結果報われるなんて考えるのが甘いのは知っている。
居場所が欲しい。
そう思いつつ不安が逃せない。
僕はいつだって何もできない。
どこにいてもそれは変わらない。
本当に無心になることができない。
僕はココを本当に僕の居場所と思っていいんだろうか?




