vs神狩り(雑魚)
ちょっと変更。
赤髪の少年→赤髪の『青年』
恐らく漏らしなく変えられてると思います。
(4月26日)
祝詞に舞、長い時間をかけて作り上げられた神聖で平和な尊い空気は上方から発せられた爆発音により、一瞬で壊された。
いま、この場は犯人である神狩りの精神を逆撫でするような笑い声と悲鳴で満たされている。
○○○
『神狩り』
彼らこそが中跳が警戒していた相手である。
腕のたつ盗賊等が最終的に行き着く職業だが、稀に神に恨みを持つものや神の関係者に私怨のあるものもいる。更なる例外もいるのだが、それはまたいずれ。
神狩りの狙いはその名にある様に『神』、正確に言えば神の権能の象徴と言える『神器』だ。
ただ、現役の神に手を出しても返り討ちにされる事が殆どであるので狙われるのは、引退して力が弱まりつつある神ーーつまりサナトスや折道の様な神である。
○○○
折道の結界により、エルフと犯人は隔てられている。
しかし、多少逃げ遅れた子供達の結界が犯人達のいる結界の中にいる。
今、犯人達は内部の結界を襲い続け、内部の恐怖に震える子供達の反応に口を三日月状に歪めている。
その光景を見て怒りをこらえ、絞り出すような声で折道へ問いかける。
「あの結界で攻撃、もしくは移動できないんですか?」
「それができるのなら、とっくの昔にそうしとる!もともと寿命が近いんじゃから、力は多少なりとも削がれとるんじゃ!。中坊も分かっておるじゃろ」
(折道の力が落ちていることは分かっていました。
動けるのは自分だけだという事も分かっています...)
そこまで考えて中跳が隣を見ると、中跳を真っ直ぐ見つめていたサナトスと目があう。
それだけで次に言われる言葉は分かった。
(力が落ちているとはいえ、折道の結界があの程度の神狩りに破られる訳がありません。ということは手引きをした手練れがいるということ。
最悪の予想が当たらなければ良いのですが。
そいつの標的は恐らく...)
「中跳?行ってきてください」
予想通りの言葉を投げ掛けたサナトスの目から目を逸らさず、しかし即答することもできず逡巡する。
「中跳、行ってきなさい」
黒幕の思惑通り動かされている。そう理解しつつも動くしか無い現実に中跳は言いようもない無力感を覚える。
奥歯を噛み砕こうかという勢いで歯を食いしばりながら折道に頭をさげ、小声で話し掛ける。
「折道様、私が神狩り達を処理してきます。一つだけ、お願いが...」
「あぁ、サナトスはわしに任せとけ。強度は?」
「・・昔の私の一撃を数秒...一秒でもいいので止められる位の強度でお願いします」
「なんじゃと?」
「では」
早々に話を切り上げ、内部で神狩りの暴れている結界へと向き直る。
「中坊が入る一瞬の間に、一部だけ開くからの!さくっと入らんと体が真っ二つになるぞ」
「分かりました」
中跳は結界に向かって走り出す。
そのまま結界にぶつかりそうになった時、一瞬だけ結界が口を開けて中跳を招き入れた。
「さて、なるべく手短に終わらせましょう。ですが、このままだと周囲の人達の目の毒になりますね」
そう呟き、詠唱を始めた中跳に気付いたフードの神狩りが神経を逆撫でする様な、気色の悪い声で話し掛ける。
が、中跳はそれを無視して詠唱を続ける。
「あっれぇ?おじいちゃん、此処で何してるのかなぁ!ちょっと今忙しいんだけどぉ。て言うかどうやって入ったぁ?」
「光よ・光の進行を歪め、内景を遮断せよ・【外反内視】」
中跳達を閉じ込めていた結界の内部が薄い膜で覆われていく。
すると、外部の様子がおかしい、どうやら外部から内部を見ることができなくなったようだ。
「何したのぉ?おじいちゃん。まぁいいや、面倒だから死んでねぇ!」
フードの男が中跳に襲いかかってくる。
狙いは首。
(いやいや、いきなり首は愚手でしょう)
そのまま、後ろに下がり避けようとするとうなじに冷たい物が触れた。
慌てて頭をさげる。
「えー!なんで避けれるのかなぁ。もしかしておじいちゃんってなかなか強い?」
そう喚いているフードの手元にある剣は数字の7のような形をした奇形の剣だった。
(少しでも反応が遅れたら首が飛んでいました。私は焦っていましたか)
中跳は背筋に冷たいものを感じ、焦り気味だった自分に喝をいれる。
「さっきまではただの直剣に見えていたんですがね」
「それがこれのいい所なんだよぉ。殆どの人にはまだそう見えてるはずぅ。だって、そういう魔法がかかってるからぁ。看破の条件はぁ、初撃を躱すことだよぉ」
「だから初めから首ですか」
「そゆことぅ、まあ分かってからもぉ避けにくい事に変わりはないからぁ。頑張ってねぇ!」
そう言い、辛うじて見える口元を狂喜の表情に変えたフードが襲いかかってくる。
一方、中跳はその男を無視し、子供達がいる小さな結界へと走る。
中跳の向かってくる様に見せかけたフェイントにフードは一瞬引っかかりかけたが、すぐに反応仕直し剣を振り下ろす。
「させるわけないよねぇ!」
振り下ろされ、迫ってくる刃を中跳が手刀で弾く。
迫り来る他の神狩り達をかい潜り、結界に触れる。
「光よ・光の進行を歪め、外景を遮断せよ・【外視内反】」
中跳が詠唱を唱えると最初と同様に結界の周りに膜が貼られる。
中跳が結界内に入ってから唱えた二つの魔術【外反内視】、【外視内反】は魔法としては同じものである。
ガラスの様な透明な壁にマジックミラーの様な膜を張るのだ。違いはその反射する面が外側か、内側かの違いだけである。
中跳がこの魔術を使った理由は二つ。
一つ、外にいるであろうサナトスを狙う神狩りの処理や動きを見られることを避けるため。
二つ、外のエルフや子供達に人が殺される瞬間を見せないため
(死体を見るより気分の悪いものですし、特に子供達には見てもらいたくないですし)
そうして、処理の準備を終わらせた中跳は周りに立っている数人の神狩りを見回す。
それを見た神狩り達は各自の武器を構え直すが、一人、また一人とその場に崩れ落ちていく。
最後に残ったのはフードの男。
先程までの狂喜に満ちた表情は消え去り、怒りに燃える目付きで中跳を真っ直ぐに睨み付けている。
その奥に幽かに見えるのは恐怖であろうか?
「おや、貴方は最後まで立っていますか」
「な、なにをぉ...」
「いえいえ、此方にも急がなければならない理由がありましてね?先程、少しだけ小細工を」
「なにも使ってなかったよぉ?詠唱もしてなかったよねぇ」
「言った通り急いでいますので、使った物だけお教えしましょうか。コレですよ」
そう言って中跳が見せたものは髪の毛程の細さの針だ。
「そんなものでぇ?」
「まあ、仕掛けは種々ですよ」
そんな会話をしている内に限界がきたのか、フード男も膝を着き、崩れ落ちる。
「さて、あとは殺すだけなんですが...流石に首を落とすのはダメですよね...」
首を落とされた死体なんて見たいものではない。
そんな殺し方をしてしまっては折角魔術を使った甲斐も無いというものだ。
「そうだ、こうしましょう」
そういう中跳の言葉を聞いたのを最後にフードの意識は深淵へと沈み、二度と浮かび上がることはなかった。
「あとは外に出て折道に教えればいいですかね」
神狩りの処理が終わってそう呟いて振り返った中跳の目に入ったのは、サナトスの後ろで笑いながら腰だめに拳を構えるフードの青年だった。
その顔は獲物の獲得を確信した捕食者の笑みの様でもあり、誰かを嘲笑うかの様な笑みにも見えた。
「ふざけないでくださいよ!」
中跳は全力で走る。
一瞬でも拳が止まればサナトスならば反応出来るはず。しかし、先程見た様子から構えられた拳は結界が一瞬止められるか怪しい程の威力を込めている様に見えた。
もし、止められなかったら...
中跳が結界を体当たりで難なく壊し、弾丸の様に外に出るのと同時に、結界が破られる時のガラスの割れるような硬質な音が耳へと届く。
その場にいた全員の目線がサナトスの方へと向けられる。
「いやはや、わたしも本気でなければ死んでいましたね。これは...」
そこには力に押され、足元に列車跡のような二本の線を残しつつも青年の拳を掴み、その青年を無表情で見据えるサナトスと、目の前の出来事を信じられないのか目を見開く青年がいた。
「なんっでだよ!全く気付いてなかっただろうが!」
「私も一応は神ですから、退職した時点から神狩りの警戒を怠ったことはありませんよ」
「クソッ...」
「大丈夫ですか!」
怒りを露わに青年が叫ぶとフードがズレ、顔が露わになる。
その髪は真紅、目には何やら紋章の様なものが見える。
睨み合いながら膠着している二人の元へ中跳が走ってくる。
その中跳の姿を見た瞬間、瞳に浮かんでいた失敗した自分への怒りの感情が消え去り、何度も濃縮された様なドス黒い恨みの感情を込めた瞳へと変化した。
中跳がその瞳に気付き、青年の目を覗き込むとその感情は鳴りを潜め、何も感じさせない無機質な瞳へと変わってしまった。
その目には剣を打ち合わせている様な紋様が浮かんでいる。
「・・まあ、モルムが無事で良かったですよ。この子には少し聞きたいことがあるので縛らせてもらいますね」
「隠岐那?その子は...」
「・・ええ、恐らくあの人に鍛えられた神狩りですよ」
「まさか...!!っていえ、私が聞きたいのはそういうことではなくて...」
サナトスの問いに対して食い気味に返答した中跳。
二人の様子から分かることは、どうやら中跳はサナトスが問いたい事が分かっている上で敢えて見当違いの答えをした様だ。
戸惑うサナトスに中跳は近付き耳元で何かを囁く。
その囁きとは...
『この子達は昔の私に関係しています。つまり、狙いはモルムではなく私です』
そうモルムに囁く中跳を睨む青年の瞳は、先程までの無機質なそれではなく。少し前までの憎悪の塊の様な瞳だった。